聖石を拾った村人Aに付いてきたのが魔王の溺愛

小葉石

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聖石を拾ってしまった俺

9、突然に義父ができました 2

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 なんだろうか…自分という人間は……単純で非常に都合が良く、搾取する側の人間の為にいる様な気さえしてきた。


 大貴族が義父になりますよ、とそう言われたのがつい先日の事…懐かしい村の面々にはそれぞれに報酬が渡されて既に村に返され、別れ別れになった。それからはアレよアレよという具合に侍女頭カーシャを筆頭に侍女達に磨きに磨き込まれ、あらゆる勉強ができる様にと多種多様な教師陣が用意され、まるで本物の貴族の子息になったかの様に一気に見違えた俺が、今鏡に映っている…

 磨き込まれた蜂蜜色の髪はツヤツヤと艶やかに天使の輪を作って輝いているし、キラキラ不思議に輝く琥珀の瞳は完全に自前のものだが、白く艶かしいシミも無い肌は、連日行われた侍女達の美容対策によるものだ。男であるのに、高貴な貴婦人が嫉妬しそうな程にきめ細かく、滑らかで張りがある。

 自分、こんなだった?んん?と、何度鏡を凝視したかわからない…

 これならば何処にお出ししても、どんなご令嬢が隣に居られても、負けも引けも取りません、と侍女が興奮して断言するほどには、磨き込まれた成果が十二分に発揮された賜物の様な出来だそう…だ…
 そして充てがわれた教師陣に言わせると、非常に飲み込みも良く、理解が早いと褒められるくらいの学習能力もあるらしい…………これは、もし教師から合格を貰えなかったら、非常に残酷な貴族が与える罰が待っているかもしれない、と勝手に俺が恐怖して、寝る間も惜しみ死に物狂いで勉強したからに他ならないのだが………
 
 外見上も知性においても、どこぞの令息と比べて遜色無いほどに成長させられた俺は遂に王都へとされて行く…

 ここまで、全てが自分の意思ではないのだからもう、連行と言ってもいいと思う。王都へ赴き、大神殿で大神官に例の光る石を見せて判断を仰ぐ…という事らしい。大神官に見せるべき例の石は、今では俺の部屋として充てがわれた豪奢な部屋の俺の学習机の上に、今もチョコンと置かれている。

 が、その後は?

 これがいまいちわからないのだが、義父であるイリマウス侯爵は素知らぬ風でこの質問にはいつもはぐらかされる。そして…

「父上か、父様か、ん~ルアンは庶民だったからな、ではパパと呼びなさい。」

 などと、呼び名の事であれこれ悩んでいる様なのだが、最初に会った時はこんな人だとは思わなかった。もっと威厳に満ちて、目の前にいるだけで萎縮してしまいそうなそんな威圧感も感じたのに……

「なんと申しましょうか?旦那様は御坊ちゃまの事をそれはお可愛らしく思っておいでの様ですよ。」

 とは、侍女の弁である。本当の父ではないし、そんなに長い間一緒に暮らしたわけでもないのに、直向きな姿勢やら、磨いてみたら見事に光ってしまった容姿やらと色々と刺さるところがあったのだそうだ。
 勉強を進めて行くうちに、今まで分かり得なかった貴族のアレコレが嫌でも見えてきてしまう。義父である侯爵には奥様がいたのだそうだが、残念なことに数年前に病で亡くなってしまったとか…それもお子様を授かる前の事で、今イリマウス侯爵には直系に当たる後継ぎがいないことになる。だからと言っていくら勉強に身を入れても、農民であった俺が後を継ぐわけにはいかないだろう。侯爵にはお姉さんがいるそうで、そちらは伯爵家に嫁がれているし、お子様もいる様なので、きっとここから時期侯爵たるお子をもらうと思われる。

 だから、その後の俺の身の置き所が、非常に気になるのだけれども……

 ニコニコニコニコ、お茶の時間に呼ばれていけば、侯爵は相好を崩していたく満足そうである。本当の親子でもないのに、前に座っただけでこんなに喜んでもらったら、返って申し訳ないくらいだ。

「ルアン、王都に行く手筈が整ったよ。お前が見つかった事に、大神官様はそれはお喜びでね。国王に進言してくださって、我が領土に格別に御心を尽くしてくださると約束してくださった様だ。」

 なるほど、侯爵のご機嫌がわかりました。いつもの様なゆったりとした話し方の中にも、喜びが滲み出ているもの。
 
 侯爵が治めているこの領土は決して貧しいものではないと思う。不作が続くとそれは下々の者が大変だが、ここ数年死人が出るような飢饉には見舞われていない。それほど実りが安定している領土であるんだ。だから特別に王家からの手助けが必要な状態でもないはずなのだが…

「お前も我が国の神殿の立ち位置をよく学んでいただろう?」
  
「はい。」

 それはもう、唇を噛み締めて、歯を食いしばって学びました……

「ならばわかるだろう?大神殿から祝福と敬意を頂く事の大きさが。この地に住む者にとっても、また既に亡くなった者達にとっても、大きな祝福となる。」

 緊張が取れた侯爵の穏やかな表情には、それは優しそうな笑みが浮かんでいた。
 

 

















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