聖石を拾った村人Aに付いてきたのが魔王の溺愛

小葉石

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聖石を拾ってしまった俺

8、突然に義父ができました 1

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「「「「「はい?」」」」」

 その場にいた何人が、この素っ頓狂な声を上げのだろうか?失礼ながらも、その場にいた全員が一斉にイリマウス侯爵の顔を凝視したと思う。

「当たり前だろう?誰がどう言おうと女神に関する者の後見は必要となる。それが名ばかりの後見でどうするのだ?奇しくもの息吹を受けているのだぞ?百歩譲って、国内の他家に取られると言うのならばまだ納得ができる。しかし、他国に取られてみよ?我が国に一つとして益はない。」

 そればかりか女神の恩寵を逃したとして国から罰を受けるかもしれない事態になる。だからこそ、女神の息吹を受けた人物を見つけ次第高位貴族家の庇護下に置く事が許されているらしい…これが本当かどうか確かめる術もないので、らしい、としか言えない…

「むぅぅぅ…確かに、侯爵閣下、ルアンには親がおりません…」

 今まで静観してきた村長が静かに口を挟んだ。

「ほう?病か何かで亡くなったのか?」

「いえ、そうではございません。ある晴れ渡った良き日に、畑の中に捨てられていたルアンは捨て子でございます。」

「え、本当!?」

 村長から出てきたのはルアンも初めて聞く自分の過去だ…

「そうだ…お前は余りにも可愛らしい子でな…当時、村の若い嫁達が代わる代わる母親役を買って出てな、お前を育てたのだ。」

「初めて聞いた…」

 親はいなかったけれども、病や事故か何かで死んでしまったと思っていたから…

「そうか、それは暁光…!」

「暁光?」

 捨て子だった事が?

 侯爵は両腕を組み、勝ち誇った笑みを浮かべて頷いていた。

「そうだろう。ルアンには親はいない。が、お前の身柄はこちらで貰い受けたいのだ。交渉する者がいなければ書類一枚で済む話だからな。」

 と、侯爵が先程何やらを書き込んでいた紙をペラペラと見せてくる。

「それは?」

「養子縁組申請書だ。今日から其方は、我イリマウス侯爵家の養子であり、一族の一員となる。そう、心せよ!」

 心せよ……そう言われましても……俺、農民ですよ?自分の名前さえ、まともに書けるか分かりませんよ?それが、貴族!?

「心配するでない。ここをどこだと思っているのだ?曲がりなりにも侯爵家だ。其方を教育する者達など腐るほどいるからな?」
 
 今日一番の侯爵が見せたいい笑顔で、そんなことを言われるなんて思ってもいなかった…

「ルアンが、貴族に…?」

 ヤストがビックリしたまま動かなくなった…

「嘘だろ…?」

 自分だって信じられない…

「残念ながら、嘘ではないな。この聖石を持っている事で、既に其方もこの運命からは逃れられんだろう。それに、ふむ…よく見れば、見れば見るほどにルアン、其方の素材も申し分ない。磨けば光る物を持っている。カーシャ!」

 侯爵にカーシャと呼ばれた者はどうやらお茶を用意してくれたお姉さん達のまとめ役の様な方、みたいだ。

「別室で磨いてやれ。」

「心得ました…旦那様。さ、御坊ちゃまこちらに…」

「おぼっ……おぼっちゃま………!?」

 顎が外れそうになるくらいには口を開けて驚かせて貰いました…今までの人生でそんな事言われたこともないよ…

「ル、ルアン…お前、大丈夫かよ?こんな所に、一人でさ…」

 ヤストがこれ以上ない位心配している。が、俺だってこんなところでやっていける気がしない……

「ヤスト……」

 親友とも兄弟とも言えるヤストに縋り付く様な視線をつい向けてしまう。

「大丈夫もなにも、護りもない田舎の片隅にいるよりは、屈強な騎士に守られている方が安全だと思うが?」

「そ、それは……」

 女神の云々が周囲にバレて、この石を持っている事がバレたのならば、もしかして、色んな所から狙われることもあるのだろうか……?

「女神の恩恵がどれ程のものかはわからない内は、其方を放置できないこちらの事情も分かってくれ…」 

 義父となるそうな、イリマウス侯爵は見事な金髪と透き通る様な薄茶の瞳を持つ。父と言うよりは歳の離れた兄と言った方がしっくり来るくらいには若いと思われる。そんな若さなのに領地をまとめ治めていけるのだから相当な手腕の持ち主なのだろう。そんな方が、ここの方が安全だと言ってくれているとしたら…片田舎のど田舎住みの農民に一体どんな反論ができたって言うんだろう……

「ルアン…侯爵閣下が言われる様にここに置いてもらうのじゃ…ここから大神殿へと連れて行ってくださると言うのじゃから…」

 村長も侯爵の後押しをする。
 
 嫌だと言ったらきっと村には俺の居場所なんてなくなるんだろうな…

「……たまに、村に帰ってもいいですか……?」

 一人だけ村から離れる俺の我儘だ。俺が村にいなくなれば帰る家はなくなる。けど、あの村のあの家が俺の故郷で、ヤストだって、おじさんおばさんだっているのに……

「ふむ…事はできんな。其方はイリマウス侯爵家の者だ。だが、に行くのならば問題ないだろう。あの村も我領土内だからだ。」

 なるほど、帰ったら駄目だって言われて一瞬頭が真っ白になったけれど、視察という形で見に行く体で立ち寄ったら良いんだ!

 パァ…とルアンの顔が一気に明るくなった。

 












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