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聖石を拾ってしまった俺

6、やはり、アレのようです 2

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 領主館は町の中心部にある。当たり前だが、この町の中では一番立派で警備も厳しい所である。既に領主館の門の前では、村長一行は門番に睨めつける様に無遠慮な視線を向けられ、どれだけ農民が下に見られているのか身をもって知る羽目となった。

「神官殿……がご一緒とは…この者達が一体何の様で?」

 神官が丁寧に取り継ぎを求めたとしても、門番の態度は横柄でなかなかに辟易とする。

 もう家に帰りたい……

 ルアンは高位の身分の者達に媚び諂いたいわけではない。ただ村で毎日何事もなく過ごせたならばそれで十分だったのに…

 あの石を拾ってしまったばかりに!!

 普段であれば感じなくても良い身分差をまざまざと見せつけられ、悪くも無いのに嫌な物を見るような目つきで見下される。

 農民の何が悪いんだよ!?お前等が食べる麦やら野菜やら乳やら作ってるのは俺たちだぞ!?

 ちょっとこの門番に、嫌と言うほど問い詰めたい心境にもなってきても致し方ないと言うものだ。

「女神の息吹はどこに吹くか、誰も知らないことでございましょう?その息吹がどこに吹かれたのか、この地を収めるべき領主様に見定めていただきたいのでございます。」

 完全にブスくれているルアンとは反対に懇切丁寧な態度で神官は謙る。門番も神の使いと言われる神官に、これ以上居丈高な態度を取り続ける事を良心にでも咎められたのだろう、ふん、と鼻を鳴らすと門の内側すぐにある門番の詰所に何かを伝えに行った。

「領主様が会うかどうかは分からんが、取り継いではやる。ここで待て!!」

 もう既に待たされているのだが、まだ待つの?

 自然とルアンの視線はヤストへと向かう。ヤストも待たされ過ぎているせいか少しだけイライラしているようであった。

「ご温情に感謝いたします。さ、皆さん。もう少しですから、待たせてもらいましょう。」

 そこから優に一刻は過ぎただろうか?ただ待たされているこちらを見て、時々ニヤリと不敵に笑う門番に散々苛つかせてもらったけれども、その度毎に物知り顔で優しくニッコリと微笑んでは癒してくれる、優しい神官にイライラのストップをかけてもらって心底助かった。でなくては、腕に自信があるからと、絶対に門番に飛びかかっていってただろうから、ヤストが……

 流石は神の使いというべき神官だ。俺達を鼻で笑って追い返そうとしたのも神官だったが、きっとあれはエセ神官だったに違いない。神の使いというのならば、朗らかなオーラに包まれた、和かに微笑む目の前の神官のような人のことをいうんだ絶対に…!この神官のお陰で、暴動を起こさずに待つことが出来た事は感謝だろう。たかが農民が領主の館で暴れたならば、即刻切り捨てられても文句は言えないのだから……
 待つ間も神官は高齢の長老や村の役職者達に配慮し、俺達のイライラをクールダウンさせ、時折和やかな説教を交えて女神を褒め称え、普段あまり関わりになることがない俺達に神官というのはこういう人だという事を植え付けてくれた。神官はライと名前を教えてくれる。柔らかな物腰やら丁寧な言葉遣いやらで、きっと良い家の出なのだろうと思うのだが、家名は無くただのライと呼んで欲しいと言われてしまった。

 しかし口惜しい事に、この神の化身のようなライ神官でさえも光る石は触られる事を受け継げず、パチッと弾くのだから勘弁して貰いたいところだった。

 やっとの事でライ神官と村長率いる一行が領主館の中に招き入れられた時には陽が傾き始めていた頃で、俺達はすっかりと憔悴しきっていた。光溢れる広い玄関ホールを通っても、豪奢や調度品あふれる応接室に招き入れられても、素直に感嘆の声を漏らす余裕すら無いくらいには疲れ切っていた。目の前に出されたお茶や菓子を頂くマナーなんて分からないから、皆んな手を付けられずお預け状態だった。

「ゆるりと過ごされよ。」

 そんな時にどっしりと目の前に座っている貴人が声をかけてくれた。

「感謝いたします。イリマウス侯爵閣下。」

 ライ神官が深く頭を下げるのを見て、それを真似しつつ感謝を表す。どうやらマナーなんて知らない俺達に好きに食せと許しが出たようだ。待たされ過ぎた者達は皆んな喉が渇き空腹だった。まずはライ神官が茶を飲み、適当な菓子を摘む。それを俺達も見よう見まねで真似しながら、高貴な方々が食す茶と菓子に舌鼓を打つ。実際にはゆっくりと茶を飲むような、そんな心の余裕がある訳じゃない。本心は早くここから出ていきたい、だった。それほど貴族の前にいる事が居心地悪い。
 そんな俺達の目の前に座る、イリマウス侯爵の外見は、ヤストの父親よりも遥かに若く見える。それなのに柔らかなソファーに深く腰掛け、足を組んで落ち着き払っているその風体からはずっと年上の、村長と同格ともいえる雰囲気を出しているように感じてならない。体躯が特別に大柄というわけではない。どちらかと言うと細身の部類に入るだろう侯爵なのだが、風格やら威厳というものが実際の年齢よりもずっと上に見せているようだった。

「さて……」
  
 ある程度俺達が喉を潤し終わるまで黙していた侯爵が、ゆったりとした口調で話し始めた。







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