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後編

126 聖女の行く末

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「どうして、私を望まれたのですか?」

 ガーナード城を出てから、懐かしい懐かしい実家、ドルン侯爵家への道中でフィスティアはたまらずセルンシト国第二王子ケイトルに質問を投げかける。王ルワンに地下処理場へと落とされてから身辺にいた侍女や護衛騎士、懐かしい友人達、そして実家の家族の安否すら知らされてはいなかった。実家のドルン侯爵家は蟄居を命じられたとの事で重い刑罰を与えられた訳では無かったが、それでも婚姻を目の前に控えていた弟や高位貴族の両親にとっては大きな痛手であっただろう。
 セルンシト国第二王子ケイトルはそんなフィスティアの心配事をいち早く解決する為に、王ルワンとの謁見後ドルン侯爵邸への訪問を計画していた。家族に会える嬉しさでフィスティアの心は浮かれていたのだと思う。つい、思った事をポロリと口から出してしまった。

「私こそお聞きしたい。どうしてあの時、ご自分を救う事より私を助け、逃す事を優先させたのですか?」

 ……死体置き場でセルンシト国第二王子ケイトルに聖女の力を使った時だろう。フィスティアは一緒に脱出するよりも、ここに残り落とされてくる人々を救う事を選んだ。ただそれだけだと思っていた。

「あの時の貴方の状況は全くと言っても良い程良くは無かった…私は貴方に助け出されて、一度はガーナード国外には出たが、貴方を救出する為に再度ガーナード城に入り込んで貴方のお姿を見るまでは、私の心は一度だって休まることはなかったのです…」

「……殿下……?」

 馬車の中、隣に座って話しているセルンシト国第二王子ケイトルは、キュッとフィスティアの手を握る。

「…間に合わなかったらと、何度も夢に見ました……ガーナードから逃れて来た者達の話を聞いては胸を撫で下ろして…早く早くと、気ばかりが焦ってしまって…こんなに怖い思いをしたのは産まれて初めてでしたよ?」

「…あの時には、私は自分を癒せる事がわかっていたのです。ですから……あの場に残る事を選びました。」

「それでも、お苦しかったでしょう?」

 フィスティアを見つめるセルンシト国第二王子ケイトルの方が眉根を寄せて苦しそうな表情になる。

「それは………」

 苦しくなかったと言ったなら嘘になる。自分の時も早く終わってしまえばいいとさえ思ったくらいなのだから…

「そんな所にいらしたのに、貴方はご自分の救いを求めなかった。ご自分に非がなかったのならば尚更に、助けを求めてもよかったのに…」

「…………」

「そんな貴方だから、一瞬で心を掴まれました。魂を鷲掴みにされたと言ってもいいかもしれませんね?」

 ものすごい事をサラッと言ってくれる。

「わ、私が、もっと醜い老婆だったらどうなさる気だったのです?」

 今だってまだ痩せた手足は元には戻ってはいないし、花の様に美しいとは言い難いのだが…

「それでも、人間としての貴方の生き様に魂まで奪われたのですよ?もし、貴方が結婚できない老婆だとしても、一生側に付き従う位には貴方の事を尊敬してもおりますから心配には及びません。あ、救出されてから、こんなに美しい方だったと知った時の私の驚きも聞きたいですか?」

「いえ………もう、結構です……」

 これ以上、何か言われてしまったらきっと顔が溶け出してしまいそうだ。フィスティアは赤くなった顔を隠す様に窓の外に顔を向けるので精一杯……


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