上 下
122 / 131
後編

122 聖女の解放

しおりを挟む
「自由……とは?」

 王妃フィスティアはビックリして後ろに控えていたセルンシト国第二王子ケイトルを振り返った。ゆっくりと王妃フィスティアに近付いてくるエメラルドに輝く瞳をマジマジと見つめてしまった。
 セルンシト国第二王子ケイトルはそんな王妃フィスティアの視線に気がつくと、本当に柔らかくふんわりとした優しい笑顔を返してくる。

 訝しげにそんなセルンシト国第二王子ケイトルを見つめる王ルワン。

「こちらに、聖女の解放を求める国民達からの嘆願署名書が御座います。」

「署名書……?」

 セルンシト国第二王子ケイトルはと言っていい程の厚みのある書類を謁見の間に入ってきた侍従から受け取り手に持っていた。それを恭しく王ルワンに差し出す。

「そして、各国からの嘆願書もここに、こうしてお運びいたしました。」

 合図と共にさらに侍従が二人係で木箱を謁見の間に運び入れてくる。その中身はギッシリと嘆願書が詰められている様だ。

「ここに名を連ねる全ての者達が、地下処理場に居られたの解放を願っております!」

「聖女の…解放……?」

「左様です。ガーナード王城にて囚われているの解放を、これが、国民の総意であります!」

 王ルワンが受け取ったは一枚一枚びっしりと名前が連なっている。上からは見知った貴族の名、ガーナード国内に留まらず同盟軍の主だった者達のほぼ全ての名前もだ。王ルワンはガーナード奪還の折には恩赦を与えると常に公言していたそうだ。ならばこれは是非通してもらいたいと国民全てと言っても良い総意だった。

「王妃を、解放しろと…?」

 地下処理場に居た聖女フィスティアを解放するという事は、を解放するという事になる。そんな事が国として許される事か?王ルワンの頭は混乱する。王妃フィスティアは王妃として、また聖女としてガーナード国を共に支える。それが当たり前ではないか、だったのではないのか?

 王ルワンはペラペラと署名書を捲り、何やら考えあぐねている。



 私の解放……?どこから……?ここ、ガーナード国から?


 今まで考えもしなかった事が急に目の前で展開していく事に王妃フィスティアは頭がついていかない。つい、真剣な顔をして書類を捲っている王ルワンを仰ぎ見る。その顔は難しく、眉間には皺が寄っていた。


 あぁ………気が付いてしまった………


 ここ、ガーナード国に帰ってきてから、一度も王ルワンの笑顔を見てはいない。あれ程好きだった優しい笑顔は一度もこちらには向けられはしなかった。
 王妃フィスティアが生きていたと知った時でさえも、王ルワンの表情は動かなかった… そこには深い後悔も、心からの喜びもなかった様にしか感じられない……王妃フィスティアは王ルワンの笑顔に優しさに縋っていた。ここにいるべき、こうするべきと自分に言い聞かせながら王ルワンの優しさに縋りつこうとしていた…


 でも、これは……

  
「いいえ、解放を望むのは聖女殿に対してです。殿は未だに行方知れずとか…?」
 
 王ルワンの王妃に対する所業は国民には知らされていない。反乱前は病床に着いていると発表されていたし、反乱後は行方不明だ。ここで、王妃が地下処理場の聖女であった事が明らかになれば、聖女の国の国王ともあろう者が聖女を貶め、辱め、虐げていたと公表するも等しくなる。そうなればガーナード国王自身がガーナード国の存在意義を否定するも同じ事になる。

「………王妃を、行方知れずのままにすると……?」

「左様です。」
 
 セルンシト国第二王子ケイトルのエメラルドの瞳は真剣そのもの。王ルワンを見据えて離さない。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。 しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。 アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。 これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。 ツイッターで先行して呟いています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

王太子に婚約破棄され奈落に落とされた伯爵令嬢は、実は聖女で聖獣に溺愛され奈落を開拓することになりました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

王太子から愛することはないと言われた侯爵令嬢は、そんなことないわと強気で答える

綾森れん
恋愛
「オリヴィア、君を愛することはない」 結婚初夜、聖女の力を持つオリヴィア・デュレー侯爵令嬢は、カミーユ王太子からそう告げられた。 だがオリヴィアは、 「そんなことないわ」 と強気で答え、カミーユが愛さないと言った原因を調べることにした。 その結果、オリヴィアは思いもかけない事実と、カミーユの深い愛を知るのだった。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!

友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」 婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。 そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。 「君はバカか?」 あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。 ってちょっと待って。 いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!? ⭐︎⭐︎⭐︎ 「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」 貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。 あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。 「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」 「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」 と、声を張り上げたのです。 「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」 周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。 「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」 え? どういうこと? 二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。 彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。 とそんな濡れ衣を着せられたあたし。 漂う黒い陰湿な気配。 そんな黒いもやが見え。 ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。 「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」 あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。 背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。 ほんと、この先どうなっちゃうの?

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

処理中です...