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後編
110 微睡のなかで 2
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ここ数日が、まるで夢の様………
まだ、覚めてほしく無い様な、けれど現実を見なければと自分の心の中の警笛は囁き続ける……
「あぁ!やはり何で美しいのでしょう!」
ここへ来て何度目のこの侍女のため息だろうか…朝の支度をする時や入浴の世話をしている時には必ずと言っていいほどこの台詞が出てくる。自分が何処の誰かとも知らないであろうに彼女は最初から物凄くフィスティアに尽くしてくれているのだ。
「…エリット…そんな、特別なものでは無いのよ?」
入浴中にそんな台詞を言われてしまえば、なんとなく居心地はよろしくは無い。それに…
「貴方の方がとても若々しくて、綺麗な肌をしていてよ?私のは……」
そっと浴槽に入っている布で体を隠したくなる。フィスティアの手足はまだ痩せ細ったままだし、皮膚もカサつき、所々にある傷も癒えてはいない…綺麗に汚れを落とした金の髪だけはかつての色を取り戻したが、艶や滑らかさは程遠い…
「まあ!何を仰っているのです!?痩せた手足はしっかりとお食べになれば元に戻りますし、肌だってほら、ご覧くださいまし!湯にはたっぷりとお薬湯を入れて貰ってますからね?元々きめの細かい肌質だったのでございましょう?数回薬湯を使っただけなのに滑らかさはお戻りになってきていると思いますわ。さ、湯上がりにもたっぷりと香油を塗り込めましょうね?直ぐにしっとりとしたお肌になりますでしょう!」
エリットはまるで自分の主人に仕えているかの様に世話をしてくれる。
「エリット…貴方は優しい方ね。素性も知らない私にどうしてこんなに良くしてくださるのかしら?」
「お気になさらず、と言いたい所ですが、奥様にとってはそうはいきませんものね…私も事情は知らぬのです。ただ、貴方様は私がお慕いする主人の恩人と伺っております。主人が恩を頂きましたら、私もまたそれを返そうと思っただけですの。」
「私が…恩人…?」
何となくだが、ここはガーナード国内では無いだろう。寝具やら、着ている衣類やらはガーナード国独自の物ではなかったから。他国の地に懇意にしている所はなかったのに…?
「思い当たらないわ……」
何をどう考えても分からない。でも、ここまで連れてきてくれた騎士はフィスティアの事を知っている風だった。
「良いのです。分からない事は今は深く考えずとも良いのです!今はゆっくりとお身体をお休めくださいませ。その為にあの方もここを選んで連れて来て下さったのでしょうから。」
あの方……それはどなた、とまた聞けば、きっとエリットは困り顔になってしまいそうだ。
ゆっくりと休む必要も理解はできるが、祖国の事に目を瞑っては本当の安らぎなど得られない事もまた、よく分かっていた…
まだ、覚めてほしく無い様な、けれど現実を見なければと自分の心の中の警笛は囁き続ける……
「あぁ!やはり何で美しいのでしょう!」
ここへ来て何度目のこの侍女のため息だろうか…朝の支度をする時や入浴の世話をしている時には必ずと言っていいほどこの台詞が出てくる。自分が何処の誰かとも知らないであろうに彼女は最初から物凄くフィスティアに尽くしてくれているのだ。
「…エリット…そんな、特別なものでは無いのよ?」
入浴中にそんな台詞を言われてしまえば、なんとなく居心地はよろしくは無い。それに…
「貴方の方がとても若々しくて、綺麗な肌をしていてよ?私のは……」
そっと浴槽に入っている布で体を隠したくなる。フィスティアの手足はまだ痩せ細ったままだし、皮膚もカサつき、所々にある傷も癒えてはいない…綺麗に汚れを落とした金の髪だけはかつての色を取り戻したが、艶や滑らかさは程遠い…
「まあ!何を仰っているのです!?痩せた手足はしっかりとお食べになれば元に戻りますし、肌だってほら、ご覧くださいまし!湯にはたっぷりとお薬湯を入れて貰ってますからね?元々きめの細かい肌質だったのでございましょう?数回薬湯を使っただけなのに滑らかさはお戻りになってきていると思いますわ。さ、湯上がりにもたっぷりと香油を塗り込めましょうね?直ぐにしっとりとしたお肌になりますでしょう!」
エリットはまるで自分の主人に仕えているかの様に世話をしてくれる。
「エリット…貴方は優しい方ね。素性も知らない私にどうしてこんなに良くしてくださるのかしら?」
「お気になさらず、と言いたい所ですが、奥様にとってはそうはいきませんものね…私も事情は知らぬのです。ただ、貴方様は私がお慕いする主人の恩人と伺っております。主人が恩を頂きましたら、私もまたそれを返そうと思っただけですの。」
「私が…恩人…?」
何となくだが、ここはガーナード国内では無いだろう。寝具やら、着ている衣類やらはガーナード国独自の物ではなかったから。他国の地に懇意にしている所はなかったのに…?
「思い当たらないわ……」
何をどう考えても分からない。でも、ここまで連れてきてくれた騎士はフィスティアの事を知っている風だった。
「良いのです。分からない事は今は深く考えずとも良いのです!今はゆっくりとお身体をお休めくださいませ。その為にあの方もここを選んで連れて来て下さったのでしょうから。」
あの方……それはどなた、とまた聞けば、きっとエリットは困り顔になってしまいそうだ。
ゆっくりと休む必要も理解はできるが、祖国の事に目を瞑っては本当の安らぎなど得られない事もまた、よく分かっていた…
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