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後編

109 微睡のなかで

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 あれは、夢だったのだろうか……?
 どれが夢だったのか?
 今が、夢…?
 それとも、あの悪夢が……?

 
 自分の体力の限界が来ていたのは良く分かっていた。今までも何度も生死の境を彷徨って、最後にはここに帰ってきていたから…だからきっとまた目を開けたら、またあの見慣れた景色が目の前に広がって…痛む体に鞭を打って生きる為に立ち上がらなければならなくなる…

 けれど、不思議なことに今日は一度も立ち上がってはいない…
 何度も目を覚ましてはいるのだが無理やりに起き上がらなくても体が勝手に運ばれて行く。自分で取りに行かなくても、暖かくて、優しい味の食べ物が静かに口に運ばれてくる。すっかりと冷え切っていた身体は、暖かい湯の中で十分に温められて、また、眠りの中に引き込まれていってしまう………


 ここは…どこ……?


 意識がはっきりとしてくれば自分がでは無い所にいることが良く分かった。寝かされているベッドは上質の物で手触りがものすごく良かった。ただ、意識がはっきりしてくればしてくるほど、置かれていた環境が違う事に酷く戸惑ってしまう……身に付けている寝具も最上級の物だと分かる。けれども今の自分の手足は垢切れてガサガサで、痩せ細ってしまってこれらのものを身につけていても全て見劣りしてしまうだろう。


 誰が、ここに……?


 自分が最後に意識を失う前に、また目覚めた時にはにいるのかと思うと絶望に押しつぶされそうになって、選定人カタスがつけていってくれた聖女の遺品をしっかりと握りしめた。

"お待たせして、申し訳ありません……"

 そう、その人は声をかけてくれた様に思う。目の前に跪いた騎士に見覚えがある様な気がしたのだが、余りにも頭がはっきりとしていなくてそれが誰だか覚えていないなんて………

「あの方が…助けてくださった…?」

 そう、助けてくれたのだろう…ここはあの地獄とは雲泥の差があるのだから…

 ホッとしたらまた睡魔に襲われて、ガーナード国王妃フィスティアは深い眠りに落ちていった。





「良く、お休みになっておられますわ。酷く衰弱はなされているものの心配は無いと医師も仰っていましたし…」

 部屋の扉の外で静かに話す男女の声がする。

「そうか…大事無くて良かった……良く、見て差し上げてくれ…私はまだ後片付けが残っていてゆっくりとお側についていられないだろうから…」

「心得ております。旦那様…主人に何か言付けはございますか?」

「いや、大丈夫だ。あの方の事のみ心からお願いする…酷く、傷ついただろうから…」

「えぇ、それはもう……あんなにお美しい方だったなんて、ここにこられた時には思いもしませんでしたもの…肌も、お髪も荒れ放題で…あんなに衰弱なさって…!あんな目に合わせた方が許せませんわ!!」

 段々と興奮してきた女は両手に拳を作り握りしめながら語り出す。

「し~っエリット、静かに…起きてしまうよ?後で君の主人の元へ挨拶に行こう。よろしくお願いするよ…」

 そう言い置くと男はそっとその場を離れた…




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