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後編
100 突かれた裏側 2
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ハンガ国皇太子妃サーランの心は揺れ動く。皇太子オレオンが、一向に進まない幻の様な聖女の探索に本腰を入れ始めたのだ。聖女の情報は城下内にいる事、人を蘇らせるほどの力の持ち主という事、全く貴族には見えないという事…これくらいのものなのだ。が、これを基に探せと言われた方はたまったものでは無いだろう。歳も名前も身体的な特徴すら与えられていないのだから…
城の中には居なそうだ、ならば、市中のどこかか?と考えた捜索隊は、民家を中心にそれよりももっと貧しい者達の住む路地裏や郊外にまで範囲を広め、一軒一軒訪ね求めていく…
「こんな事が何になるって言うんだ?」
素直にこんな命令を聞けるもの達ばかりじゃ無い。
「仕方ないさ…皇太子様が聖女様に入れ込んでいるんだろうよ。皇太子妃様がいるって言うのにな……」
見る者によっては自分の妻を顧みず、他の女を探し求めている様にしか見えなくも無い。ハンガ国の騎士達にしたら聖女よりもまずは自国の皇太子妃を大切にして欲しいと思うのも肯ける。
「命令だ、首を切られたくなきゃ行くぞ!」
騎士達は入って行く…城下で一番貧しい者達の住まいにまで。
「聖女様たぁあそこだろう?」
「何処だと?」
そこは今にも干からびてしまいそうな高齢な男がいる家だった。
「帰らない者が帰って来た……生きていなかった者が生きてたんだろう?」
なる程市中の噂はこんな末まで行き渡っているらしい。
「ご老人、何を知っていると言うのか?」
「あんた達はこの国の者じゃないね?なら、知らんのも無理ないか…」
「ご老人!」
騎士達は異国のこの地で、皇太子のわがままと言う様なものに従って散々聖女を探し回っていた。もう疲れが出て来て、正直な所早く終わらせてしまいたいと思ってもいた。ゆっくり話す高齢の男に、つい詰め寄ってしまっても仕方がなかったろう。
「あぁ、はいはい…若い者は気が急いていけないな…あそこだよ。ほら、あそこ…」
「どこだと言われるのか?」
思い出しそうで出てこない、高齢者特有の話し方にヤキモキしながら騎士達はグッと堪えて耳を傾ける。
「ほら、死体が放られる所だ…昔、そこで働いていてな…あすこは地獄の様なとこだった……今も、変わらんのだろうか…?」
男の長い昔話が始まろうと言う時に、騎士が話に割って入る。
「死体が放られる所?放られる…?ご老人、それは城の中か?」
「そうさね…じゃなきゃ城の中は死んだ者で溢れちまう………」
男は恐ろしい亡者共の城を思い描いているのか、細い体をブルッと震わせて、あの頃は…と話し始める。
「ご老人!!感謝する!」
それだけいう言うと、足音も荒く騎士達は急いで出ていってしまった。
「はあ~~~これだから、若い者はダメなんだ。最後まで人の話は聞くものだと、騎士学校で習わなかったのか?」
慌ただしく騎士が出ていった扉を、落ち着いたしっかりとした瞳が静かに見つめていた。
城の中には居なそうだ、ならば、市中のどこかか?と考えた捜索隊は、民家を中心にそれよりももっと貧しい者達の住む路地裏や郊外にまで範囲を広め、一軒一軒訪ね求めていく…
「こんな事が何になるって言うんだ?」
素直にこんな命令を聞けるもの達ばかりじゃ無い。
「仕方ないさ…皇太子様が聖女様に入れ込んでいるんだろうよ。皇太子妃様がいるって言うのにな……」
見る者によっては自分の妻を顧みず、他の女を探し求めている様にしか見えなくも無い。ハンガ国の騎士達にしたら聖女よりもまずは自国の皇太子妃を大切にして欲しいと思うのも肯ける。
「命令だ、首を切られたくなきゃ行くぞ!」
騎士達は入って行く…城下で一番貧しい者達の住まいにまで。
「聖女様たぁあそこだろう?」
「何処だと?」
そこは今にも干からびてしまいそうな高齢な男がいる家だった。
「帰らない者が帰って来た……生きていなかった者が生きてたんだろう?」
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「ご老人、何を知っていると言うのか?」
「あんた達はこの国の者じゃないね?なら、知らんのも無理ないか…」
「ご老人!」
騎士達は異国のこの地で、皇太子のわがままと言う様なものに従って散々聖女を探し回っていた。もう疲れが出て来て、正直な所早く終わらせてしまいたいと思ってもいた。ゆっくり話す高齢の男に、つい詰め寄ってしまっても仕方がなかったろう。
「あぁ、はいはい…若い者は気が急いていけないな…あそこだよ。ほら、あそこ…」
「どこだと言われるのか?」
思い出しそうで出てこない、高齢者特有の話し方にヤキモキしながら騎士達はグッと堪えて耳を傾ける。
「ほら、死体が放られる所だ…昔、そこで働いていてな…あすこは地獄の様なとこだった……今も、変わらんのだろうか…?」
男の長い昔話が始まろうと言う時に、騎士が話に割って入る。
「死体が放られる所?放られる…?ご老人、それは城の中か?」
「そうさね…じゃなきゃ城の中は死んだ者で溢れちまう………」
男は恐ろしい亡者共の城を思い描いているのか、細い体をブルッと震わせて、あの頃は…と話し始める。
「ご老人!!感謝する!」
それだけいう言うと、足音も荒く騎士達は急いで出ていってしまった。
「はあ~~~これだから、若い者はダメなんだ。最後まで人の話は聞くものだと、騎士学校で習わなかったのか?」
慌ただしく騎士が出ていった扉を、落ち着いたしっかりとした瞳が静かに見つめていた。
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