97 / 131
後編
97 市中の噂 4
しおりを挟む
「皇太子妃殿下……ご存知でして?」
夜会が開かれた数日後、侍女達が何やら朝から落ちつかない。
「どうしたのです?朝から落ちつきのない。」
皇太子夫妻付きの侍女であるから行儀も作法も一流の侍女たちばかりだ。が、ソワソワと主人に指摘される様な粗相をおかすとは……
「それが、私達も護衛を付けてガーナード城下へ参りますでしょう?」
ハンガ国に対するガーナード国民の心象が良くないのはよく分かっている。なので、必ず城下へと出る侍女達には騎士の護衛がつくのだ。
「ええ、それで?」
朝のお茶を頂きながら、ハンガ国皇太子妃サーランは侍女達の話に耳を傾ける。
「はい。それが、市中ではある噂で持ちきりでして…きっと、もう皇太子様のお耳にも入っているとは思うのですが…」
「なんと…?」
「はい…絶大な力ある聖女殿がこの城下に居られるとかなんとか…」
「聖女殿が?」
「はい!物凄い力との噂に持ちきりでして…」
「それはどんな力です?」
「聞き耳を立てていたものですから、細かい所までは聞き取れませんでしたわ…まだガーナード国の国民は私達とは口を聞いてはくださいませんでしょうから…」
「……そう………きっと、殿下のお耳には入っているでしょうね…殿下は?もうお目覚めに?」
「はい。先程、寝台からお出になられた様です。」
「わかりました。伺います。」
手早く身支度を済ませると、皇太子妃サーランは皇太子オレオンの寝室へと足を運んだ。
「おはようございます。殿下。お目覚めでしょうか?」
「おはよう、サーラン。どうしたんだい?こんなに早くから?」
皇太子オレオンは既に簡単に身支度を整えており、何やら執務机の上にある書類に目を通していた。
「まぁ、お仕事中でしたか?」
「いや、構わないよ?サーラン、朝食を一緒にどうだい?」
急ぎの仕事ではない様なのだが、皇太子オレオンは書類から目を離す事なく皇太子妃サーランに受け答えする。
「…ご一緒致しますわ。」
すぐ様用意された朝食の席に着いても、次々に届けられる書類にばかり目を通しており、皇太子オレオンは目の前に妻がいる事を忘れてしまっているかの様だ。
「殿下?先程からのそちらの書状は何ですの?」
「あ、これかい?ふふ…凄いんだよ!サーラン!見てみて!」
書状はどうやら聖女に纏わる報告書の様で、何名もの者達の、聖女との出会いと助けてもらった時の記録が事細かに書かれていた…ただし、聖女がどこにいるかと言うことが書かれていない。それを一番知りたいのだが、どの者も聖女と出会った場所がどこだか分からないと同じ答えだったのである。
そして、その聖女が使った力と言うのが、死者の蘇りであった……
「まさか……そんな事が……?」
夜会が開かれた数日後、侍女達が何やら朝から落ちつかない。
「どうしたのです?朝から落ちつきのない。」
皇太子夫妻付きの侍女であるから行儀も作法も一流の侍女たちばかりだ。が、ソワソワと主人に指摘される様な粗相をおかすとは……
「それが、私達も護衛を付けてガーナード城下へ参りますでしょう?」
ハンガ国に対するガーナード国民の心象が良くないのはよく分かっている。なので、必ず城下へと出る侍女達には騎士の護衛がつくのだ。
「ええ、それで?」
朝のお茶を頂きながら、ハンガ国皇太子妃サーランは侍女達の話に耳を傾ける。
「はい。それが、市中ではある噂で持ちきりでして…きっと、もう皇太子様のお耳にも入っているとは思うのですが…」
「なんと…?」
「はい…絶大な力ある聖女殿がこの城下に居られるとかなんとか…」
「聖女殿が?」
「はい!物凄い力との噂に持ちきりでして…」
「それはどんな力です?」
「聞き耳を立てていたものですから、細かい所までは聞き取れませんでしたわ…まだガーナード国の国民は私達とは口を聞いてはくださいませんでしょうから…」
「……そう………きっと、殿下のお耳には入っているでしょうね…殿下は?もうお目覚めに?」
「はい。先程、寝台からお出になられた様です。」
「わかりました。伺います。」
手早く身支度を済ませると、皇太子妃サーランは皇太子オレオンの寝室へと足を運んだ。
「おはようございます。殿下。お目覚めでしょうか?」
「おはよう、サーラン。どうしたんだい?こんなに早くから?」
皇太子オレオンは既に簡単に身支度を整えており、何やら執務机の上にある書類に目を通していた。
「まぁ、お仕事中でしたか?」
「いや、構わないよ?サーラン、朝食を一緒にどうだい?」
急ぎの仕事ではない様なのだが、皇太子オレオンは書類から目を離す事なく皇太子妃サーランに受け答えする。
「…ご一緒致しますわ。」
すぐ様用意された朝食の席に着いても、次々に届けられる書類にばかり目を通しており、皇太子オレオンは目の前に妻がいる事を忘れてしまっているかの様だ。
「殿下?先程からのそちらの書状は何ですの?」
「あ、これかい?ふふ…凄いんだよ!サーラン!見てみて!」
書状はどうやら聖女に纏わる報告書の様で、何名もの者達の、聖女との出会いと助けてもらった時の記録が事細かに書かれていた…ただし、聖女がどこにいるかと言うことが書かれていない。それを一番知りたいのだが、どの者も聖女と出会った場所がどこだか分からないと同じ答えだったのである。
そして、その聖女が使った力と言うのが、死者の蘇りであった……
「まさか……そんな事が……?」
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる