64 / 131
後編
64 ハンガの野望 3
しおりを挟む
「カンリール………お前の伯母上の事も関わっている。知っている事を全部言いなさい。」
「…じじ様だってこれ位の情報は持ってたでしょ?」
「お前ほどでは無い…さて、どうしたものか…」
「……名簿は…見れるか?移送される聖女の………」
ルワンの問いにカンリールは胸元から折り畳まれた紙の束を取り出した。
「ここにあるよ、ルワン殿。抜かりなく…でも安心して?王妃様の名前はないからさ…」
行方不明とされている王妃フィスティア……居場所ならばルワンが把握しているが、生きているのかどうかは定かではない…見つかっていないとするならば、生きている希望は薄いだろう……
「そうか…」
「王妃様は病床だったんでしょ?」
「………」
「見つかったって言うなら一番矢面に立たされるもんね。ここは、ルワン殿が何処かに隠しているのかな?」
「………」
ニッコリと微笑んでいるカンリールは何をどこまで知っているのか……
「下がりなさいカンリール…国には国の、家には家のやりようがある。今すべきなのは崩れ掛けたガーナード国を持ち堪えさせる事だ。」
それができなければガーナードを巡る数国間の戦が確実に起こる…
「ちぇっ分かってるよ、じじ様は硬いな…頭を柔らかくしなくちゃ情報戦に負けちゃうよ?」
「カンリール…!」
「はーい!分かりました!退散しますよ。では、ルワン殿またね!」
小さい体に特大級の嵐を背負ってきた様なカンリールは、来た時と同様に颯爽と去って行った。
「……王妃がまだ見つかっていない事は朗報だな……」
ガーナード国現王妃と言えば聖女の代表とも言える力に満ちているという…その噂は諸国を巡り知らぬ者はいないほどだ。もし、王妃があちらの手に落ちてしまえば、ガーナード国の聖女達は最も簡単に敵側に抱え込まれてしまう恐れもあった…
「…………」
「カンリールには困ったものだが、年若い恐れ知らずがした事と許して頂けると有難い…」
深々と溜息をつき頭を下げるヒルシュ国王の前で、ルワンは羨ましいとさえ思った。
「………まだ年若いでしょうに物怖じしない態度に諜報の能力には目を見張るものがあります。正直、素晴らしい人材と思えますよ?」
王族と言っても末の王子だ。継承権も無いばかりか貰える領地も多くはない。だから、自分の能力一つで生きていかなければならない事もある。王族や貴族であったとしても順風満帆とはいかない事もある。それを身をもって今体験しているルワンとしては、カンリールが持つ能力は非常に評価できる物だと理解していた。
「そうか……ガーナード国王にそう評価されるのであれば、あれも捨てたものではないという事だろうな……よし、決めた…!」
頭を下げていたヒルシュ国王はガバッと顔を上げると、サッパリとした顔つきでルワンに向き直る。
「あれを、其方に預けよう。ガーナード国王。」
「…じじ様だってこれ位の情報は持ってたでしょ?」
「お前ほどでは無い…さて、どうしたものか…」
「……名簿は…見れるか?移送される聖女の………」
ルワンの問いにカンリールは胸元から折り畳まれた紙の束を取り出した。
「ここにあるよ、ルワン殿。抜かりなく…でも安心して?王妃様の名前はないからさ…」
行方不明とされている王妃フィスティア……居場所ならばルワンが把握しているが、生きているのかどうかは定かではない…見つかっていないとするならば、生きている希望は薄いだろう……
「そうか…」
「王妃様は病床だったんでしょ?」
「………」
「見つかったって言うなら一番矢面に立たされるもんね。ここは、ルワン殿が何処かに隠しているのかな?」
「………」
ニッコリと微笑んでいるカンリールは何をどこまで知っているのか……
「下がりなさいカンリール…国には国の、家には家のやりようがある。今すべきなのは崩れ掛けたガーナード国を持ち堪えさせる事だ。」
それができなければガーナードを巡る数国間の戦が確実に起こる…
「ちぇっ分かってるよ、じじ様は硬いな…頭を柔らかくしなくちゃ情報戦に負けちゃうよ?」
「カンリール…!」
「はーい!分かりました!退散しますよ。では、ルワン殿またね!」
小さい体に特大級の嵐を背負ってきた様なカンリールは、来た時と同様に颯爽と去って行った。
「……王妃がまだ見つかっていない事は朗報だな……」
ガーナード国現王妃と言えば聖女の代表とも言える力に満ちているという…その噂は諸国を巡り知らぬ者はいないほどだ。もし、王妃があちらの手に落ちてしまえば、ガーナード国の聖女達は最も簡単に敵側に抱え込まれてしまう恐れもあった…
「…………」
「カンリールには困ったものだが、年若い恐れ知らずがした事と許して頂けると有難い…」
深々と溜息をつき頭を下げるヒルシュ国王の前で、ルワンは羨ましいとさえ思った。
「………まだ年若いでしょうに物怖じしない態度に諜報の能力には目を見張るものがあります。正直、素晴らしい人材と思えますよ?」
王族と言っても末の王子だ。継承権も無いばかりか貰える領地も多くはない。だから、自分の能力一つで生きていかなければならない事もある。王族や貴族であったとしても順風満帆とはいかない事もある。それを身をもって今体験しているルワンとしては、カンリールが持つ能力は非常に評価できる物だと理解していた。
「そうか……ガーナード国王にそう評価されるのであれば、あれも捨てたものではないという事だろうな……よし、決めた…!」
頭を下げていたヒルシュ国王はガバッと顔を上げると、サッパリとした顔つきでルワンに向き直る。
「あれを、其方に預けよう。ガーナード国王。」
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!
九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。
しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。
アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。
これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。
ツイッターで先行して呟いています。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!
友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」
婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。
そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。
「君はバカか?」
あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。
ってちょっと待って。
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!?
⭐︎⭐︎⭐︎
「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」
貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。
あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。
「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」
「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」
と、声を張り上げたのです。
「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」
周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。
「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」
え?
どういうこと?
二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。
彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。
とそんな濡れ衣を着せられたあたし。
漂う黒い陰湿な気配。
そんな黒いもやが見え。
ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。
「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」
あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。
背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。
ほんと、この先どうなっちゃうの?
王太子から愛することはないと言われた侯爵令嬢は、そんなことないわと強気で答える
綾森れん
恋愛
「オリヴィア、君を愛することはない」
結婚初夜、聖女の力を持つオリヴィア・デュレー侯爵令嬢は、カミーユ王太子からそう告げられた。
だがオリヴィアは、
「そんなことないわ」
と強気で答え、カミーユが愛さないと言った原因を調べることにした。
その結果、オリヴィアは思いもかけない事実と、カミーユの深い愛を知るのだった。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる