59 / 131
前編
59 聖女と死者 3
しおりを挟む
「娘、これは…?」
「この日の為に集めていた物でございます。」
「其方の物か?」
「いいえ、正しくは墓に入れられる者達の物でした。」
「他の者の物か…?」
「はい…そのまま土に埋められる物をこの様な日のために蓄えておいたのです。」
「死者から物を奪うのは感心しないが、これは其方の物だろう。娘、聖女として敬われずとも外に出た折には生活の糧となろう?」
「私が…ここから出るのですか?」
「其方はこんな所にずっといるつもりか?」
「……それが、御意ならば……」
王ルワンの命でフィスティアはここにいる。もし、ここを出ろと言われるのならばそれに従うまでだが、果たして王ルワンは目の前の聖女がフィスティアであると分かってもこんなに優しい言葉を掛けてくれるだろうか?
「不思議な娘だな…本来ならばこの様な所一刻も居たくはないだろうに…」
「陛下、共にお連れしては……」
「左様に、ここに置いておかれるのは忍びなく思われます。」
騎士の面々も口々にそう進言する。
「………」
王ルワンも何か言いたげだ。
「…私は、共には参りません。」
「しかし!聖女殿!」
フルフルとフィスティアは力無く首を振るので精一杯だった。王ルワンを引きずってここまで来るのでさえ今のフィスティアにとっては奇跡に近い程の事だ。
「どうか…早くお逃げ下さい……ここに来られる新たな騎士の方の息を、私はここで吹き返し続けます…先の方々にもヒルシュへと逃れる様に進言いたしました。どうか、陛下も其方へと身を寄せては下さいませんか?」
「ヒルシュか……」
「左様です。陛下のお祖父様のお国でございましょう?」
ヒルシュ国は王ルワンの母王太后の生まれ故郷で王太后はヒルシュ国でたった一人の王女だった。その為ヒルシュ国王は大層王女を可愛がっていたと今も噂に聞くほどだ。ヒルシュ国王は家族の情も深い王で慈悲深い王と国民からも慕われていた。そんなヒルシュ国王の元ならば王ルワンは受け入れてもらえるだろう。未だに生死が分からない王太后を救出する手助けをしてくれるかも知れなかった。
「だが、其方はどうする?このままでは……」
一見見る所フィスティアの予後は良くないだろう。もう立てるかどうかも分からないほどに衰弱している様に見えるのだ。
「私の事は放って下さいませ。大丈夫ですから……陛下の騎士をお返しするまでは決して死にませんから…」
フィスティアにも王ルワンが言わんとしている事がわかった。だが、王ルワンは今こんな事に気を取られている時ではない。自分ならば大丈夫なのだから………なんと説明したら良いのか、全てを話すわけにはいかないとただ平伏したままフィスティアは懇願する。
「…陛下…」
「…ここ一帯でしたら地の利はこちらにもあります。我らが見つかっていない今ならばまだ逃れられます…!」
「……分かった…娘、世話になった。良いか…私が戻るまで生き延びよ…!良いな…?」
王ルワンは深いため息を一つ吐いて意を決したように立ち上がった。
「また、私はここに戻って来よう……」
去り際に、約束の言葉をフィスティアに残して………
……死者の中であの方のために生きよう……
「この日の為に集めていた物でございます。」
「其方の物か?」
「いいえ、正しくは墓に入れられる者達の物でした。」
「他の者の物か…?」
「はい…そのまま土に埋められる物をこの様な日のために蓄えておいたのです。」
「死者から物を奪うのは感心しないが、これは其方の物だろう。娘、聖女として敬われずとも外に出た折には生活の糧となろう?」
「私が…ここから出るのですか?」
「其方はこんな所にずっといるつもりか?」
「……それが、御意ならば……」
王ルワンの命でフィスティアはここにいる。もし、ここを出ろと言われるのならばそれに従うまでだが、果たして王ルワンは目の前の聖女がフィスティアであると分かってもこんなに優しい言葉を掛けてくれるだろうか?
「不思議な娘だな…本来ならばこの様な所一刻も居たくはないだろうに…」
「陛下、共にお連れしては……」
「左様に、ここに置いておかれるのは忍びなく思われます。」
騎士の面々も口々にそう進言する。
「………」
王ルワンも何か言いたげだ。
「…私は、共には参りません。」
「しかし!聖女殿!」
フルフルとフィスティアは力無く首を振るので精一杯だった。王ルワンを引きずってここまで来るのでさえ今のフィスティアにとっては奇跡に近い程の事だ。
「どうか…早くお逃げ下さい……ここに来られる新たな騎士の方の息を、私はここで吹き返し続けます…先の方々にもヒルシュへと逃れる様に進言いたしました。どうか、陛下も其方へと身を寄せては下さいませんか?」
「ヒルシュか……」
「左様です。陛下のお祖父様のお国でございましょう?」
ヒルシュ国は王ルワンの母王太后の生まれ故郷で王太后はヒルシュ国でたった一人の王女だった。その為ヒルシュ国王は大層王女を可愛がっていたと今も噂に聞くほどだ。ヒルシュ国王は家族の情も深い王で慈悲深い王と国民からも慕われていた。そんなヒルシュ国王の元ならば王ルワンは受け入れてもらえるだろう。未だに生死が分からない王太后を救出する手助けをしてくれるかも知れなかった。
「だが、其方はどうする?このままでは……」
一見見る所フィスティアの予後は良くないだろう。もう立てるかどうかも分からないほどに衰弱している様に見えるのだ。
「私の事は放って下さいませ。大丈夫ですから……陛下の騎士をお返しするまでは決して死にませんから…」
フィスティアにも王ルワンが言わんとしている事がわかった。だが、王ルワンは今こんな事に気を取られている時ではない。自分ならば大丈夫なのだから………なんと説明したら良いのか、全てを話すわけにはいかないとただ平伏したままフィスティアは懇願する。
「…陛下…」
「…ここ一帯でしたら地の利はこちらにもあります。我らが見つかっていない今ならばまだ逃れられます…!」
「……分かった…娘、世話になった。良いか…私が戻るまで生き延びよ…!良いな…?」
王ルワンは深いため息を一つ吐いて意を決したように立ち上がった。
「また、私はここに戻って来よう……」
去り際に、約束の言葉をフィスティアに残して………
……死者の中であの方のために生きよう……
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!
九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。
しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。
アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。
これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。
ツイッターで先行して呟いています。
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる