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前編

31 別れ 2

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 騎士ラートの出血は止まらない…周りにいるもの達の声が何処か遠くの方に聞こえて…代わりにドクドクとフィスティアの耳の奥では自分の鼓動の音がうるさい…

「どうしたのだ!フィスティア!!毒が消えぬのか!?」

 焦りを隠そうともしない王ルワンの声と表情が、フィスティアを現実に引き戻した。

「動かないのです……」

「何が動かないのだ!!」

 騎士ラートの身体は刻一刻と冷たくなるというのに…この場において何が足りないのか、王ルワンの語気がそれを隠そうともせずに荒くなる…

 王妃フィスティアの言葉にはっと顔を上げたのは、同道していた聖女だ。この言葉の意味がわかるのは同じ力を持つ彼女のみだったのだろう。

「まさか…王妃様…力が使えぬのですか……」

 彼女の発する言葉からは徐々に力が抜け、同道した聖女はその場に座り込んでしまった。

「私の…聖女の力が、働きません……なぜ…」

 この場において、今フィスティアが一番茫然自失となってしまっている…もう、周りの喧騒も聞こえないほどに、ただ騎士ラートにかざされている自分の手をフィスティアは見つめ続けていた…

「お退きくださいませ!」

 フィスティアの側に控えていた医師がフィスティアが居た所に割って入って来る。何としても出血を止めようと傷口に薬草をかけ、傷を抑える…既に毒を抜くには時間が経ち過ぎていた………

 騎士ラートを取り囲む輪からフィスティアは弾き出されて床にへたり込む…


 まさか……癒しの力が使えないとは…まさか……

 
 今まで自分を聖女として疑わなかったフィスティアにとっては正に崖の上から深い谷に突き落とされてしまったかの様な衝撃だ。

「……ラート……?」

 騎士ラートにはフィスティアも世話になった。フィスティアが落ち込んでいれば励まして、忙しく立ち動く王ルワンとの間に心の隙間ができない様に、いつも二人の間を取り持ってくれていたのは他ならぬ騎士ラートだ。


 まさか…自分が助けられないなんて…………


「ラート!?ラート!!逝くな!!ならん!!逝ってはならん!!」

 必死に手当てを尽くそうとする医師の横で悲痛な王ルワンの叫びが聞こえて来る。

「ラート……?」

 目を上げて寝台を見たフィスティアの目に、首を振る医師の姿…必死に声をかけ涙を耐えている王ルワンの姿が映る…

「私は………助けられなかった………?」

 座り込んだまま、フィスティアはポツリと呟く…


 私は……聖女ではなかったの……………?
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