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前編
10 フィスティア妃の帰郷
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「では、気を付けて行っておいで……」
「はい、行ってまいります。」
優しい夫皇太子ルワンに見送られて、フィスティアは王家の馬車に乗り込んだ。名残惜しそうに両者共見つめ合う中、御者が出発の合図を出す。
「たった、数日ですもの……」
窓から遠ざかる王宮を後ろ手に見つつ、フィスティアは不安に駆られる自分の心を落ち着けさせる。お祝い事のために実家に帰るのにこの何とも言えない罪悪感はなんだろう?
皇太子夫妻が婚姻を結んでから、フィスティアはガーナード王城を出ていない。本来聖女の力を持つ者が王家に嫁いだ場合、生涯に渡って王家のために尽くすべしとされている。何があっても外出や里帰りさえも許されなかった時代もある位だ。しかし、皇太子ルワンは皇太子妃であるフィスティアを心から愛していた。籠の鳥の様に王宮に幽閉同然とも言える様な日々を送らせたくはなかった。
それに、今回の里帰りは皇太子妃フィスティアの弟であり、ドルン侯爵家長男カイラス・ドルンの婚礼に出席するためである。皇太子ルワンも当日出席するつもりではいるが、それまでの数日の間、実家で羽を伸ばすと良いと勧めてくれたものだ。これを皇太子ルワンから聞いた時にはフィスティアも逡巡したが、城の事は良いから行っておいでと皇太子ルワンに背中を押される形でカイラスの婚姻3日前には実家に帰る事になる。
ドルン侯爵領は王都に隣接し馬車での移動でも数時間の距離にある。久しぶりの外出で外の景色を楽しみつつフィスティアは懐かしい故郷へと帰ってきた。
変わらぬ風景に、屋敷の人々、かつての自分の部屋の匂い…もう帰る事はないと心に決めて出てきたと思うのだが、またここに足を向けることが出来るなんて自分はなんと幸運な皇太子妃だろうとフィスティアは心から感謝した。
「姉上!いえ、皇太子妃殿下。ようこそいらっしゃいました。」
数日後には主役の弟カイラスを始め、両親、義理の妹になるフランカ・シール伯爵令嬢も一緒に最上級の礼をして皇太子妃フィスティアを迎えてくれた。
「ああ!懐かしいわ!お父様、お母様!カイラスもお元気でしたか?フランカ様お久しゅうございます。私達姉妹になるんですもの。どうかここにいる間は私の事は姉と呼んで下さいませね?」
「お懐かしいわ…フィスティア皇太子妃。貴方様を送り出したのが昨日の様に感じますわ…」
「お帰りなさいませ。フィスティア皇太子妃……貴方様の部屋はそのままにしてございます。王がお許しになればいつでもこちらへお越し下さい。」
「お父様、お母さま…私は幸せ者ですわ…また、皆様のお顔を見る事が出来たばかりか、弟の結婚式にも出席できるんですもの。」
「皇太子妃殿下。ご挨拶申し上げます。ご尊顔拝しました事心から幸いに存じます。両親も明日ドルン領に着く予定にございます。」
「フランカ様…どうか、姉、とお呼びになって下さい…ルワン様がおいでになった時にそのようなよそよそしさでは却って心配してしまいますわ、ね?」
「皇太子妃殿下……では、フィスティアお義姉様と、お呼びしてもよろしいのでしょうか?」
「ええ!勿論!」
国の代表ともなる王妃となる人を身内であっても軽々しく名前でなど呼ぶ事は礼儀上許されはしないのだろうが、せめて実家にいる間は家族の一員としてフィスティアは受け入れてもらいたかった。きっと背中を押してくれた皇太子ルワンもそれを望んでいるだろうから………
「はい、行ってまいります。」
優しい夫皇太子ルワンに見送られて、フィスティアは王家の馬車に乗り込んだ。名残惜しそうに両者共見つめ合う中、御者が出発の合図を出す。
「たった、数日ですもの……」
窓から遠ざかる王宮を後ろ手に見つつ、フィスティアは不安に駆られる自分の心を落ち着けさせる。お祝い事のために実家に帰るのにこの何とも言えない罪悪感はなんだろう?
皇太子夫妻が婚姻を結んでから、フィスティアはガーナード王城を出ていない。本来聖女の力を持つ者が王家に嫁いだ場合、生涯に渡って王家のために尽くすべしとされている。何があっても外出や里帰りさえも許されなかった時代もある位だ。しかし、皇太子ルワンは皇太子妃であるフィスティアを心から愛していた。籠の鳥の様に王宮に幽閉同然とも言える様な日々を送らせたくはなかった。
それに、今回の里帰りは皇太子妃フィスティアの弟であり、ドルン侯爵家長男カイラス・ドルンの婚礼に出席するためである。皇太子ルワンも当日出席するつもりではいるが、それまでの数日の間、実家で羽を伸ばすと良いと勧めてくれたものだ。これを皇太子ルワンから聞いた時にはフィスティアも逡巡したが、城の事は良いから行っておいでと皇太子ルワンに背中を押される形でカイラスの婚姻3日前には実家に帰る事になる。
ドルン侯爵領は王都に隣接し馬車での移動でも数時間の距離にある。久しぶりの外出で外の景色を楽しみつつフィスティアは懐かしい故郷へと帰ってきた。
変わらぬ風景に、屋敷の人々、かつての自分の部屋の匂い…もう帰る事はないと心に決めて出てきたと思うのだが、またここに足を向けることが出来るなんて自分はなんと幸運な皇太子妃だろうとフィスティアは心から感謝した。
「姉上!いえ、皇太子妃殿下。ようこそいらっしゃいました。」
数日後には主役の弟カイラスを始め、両親、義理の妹になるフランカ・シール伯爵令嬢も一緒に最上級の礼をして皇太子妃フィスティアを迎えてくれた。
「ああ!懐かしいわ!お父様、お母様!カイラスもお元気でしたか?フランカ様お久しゅうございます。私達姉妹になるんですもの。どうかここにいる間は私の事は姉と呼んで下さいませね?」
「お懐かしいわ…フィスティア皇太子妃。貴方様を送り出したのが昨日の様に感じますわ…」
「お帰りなさいませ。フィスティア皇太子妃……貴方様の部屋はそのままにしてございます。王がお許しになればいつでもこちらへお越し下さい。」
「お父様、お母さま…私は幸せ者ですわ…また、皆様のお顔を見る事が出来たばかりか、弟の結婚式にも出席できるんですもの。」
「皇太子妃殿下。ご挨拶申し上げます。ご尊顔拝しました事心から幸いに存じます。両親も明日ドルン領に着く予定にございます。」
「フランカ様…どうか、姉、とお呼びになって下さい…ルワン様がおいでになった時にそのようなよそよそしさでは却って心配してしまいますわ、ね?」
「皇太子妃殿下……では、フィスティアお義姉様と、お呼びしてもよろしいのでしょうか?」
「ええ!勿論!」
国の代表ともなる王妃となる人を身内であっても軽々しく名前でなど呼ぶ事は礼儀上許されはしないのだろうが、せめて実家にいる間は家族の一員としてフィスティアは受け入れてもらいたかった。きっと背中を押してくれた皇太子ルワンもそれを望んでいるだろうから………
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