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前編

6 ハンガ国の要望

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「それは、誠ですか!」

 王の執務室…この度の国家間の揉め事を収めてきたと思われる面々が王へ報告した事には到底この国の者が飲み込むことのできないものが含まれていた。


 そもそもの争いの原因は、ハンガ国とガーナード国国境間にある村々で起こったものだ。平素ならば長閑な農村地である村々で、年に一度の祭りが賑やかに行われていたはずだった。国は違えど、直ぐ隣の地で作物を作ってきた村同士、啀み合うよりは協力しようと農作物を代々作ってきたどちらも平和的な農村だった。合同で出店も出し合って少し大きめの祭りとしても有名で、大きな街などからもこの日は人々が集まって来る。町からは役人や兵士も流れてきて何かあった際の後始末をする筈であった。しかしこの日は何がきっかけか、両国の役人同士の争い事が勃発し兵士もそれに加勢した為に怪我人が出る惨事となってしまった。
 そして極め付けが"聖女の国と言ってもやはり大した事はない、きっと城にいる聖女様も顔がいいだけのお飾りに決まっている!"と言い放ったハンガ国の役人の言葉に、それまで静観もしくは両者を落ち着けようと立ち回っていた村人達に火をつけてしまったのだ。

 自分達の事なら馬鹿にされてもいい、身なりも身分も馬鹿にされても仕方ないものだから。けれど、国の為に立ってくれている聖女の末裔になんて事を!と、この主張はガーナード国の農民から下げられる事はなく、この争いを収める為に皇太子ルワンが国境まで出向いたのだ。

 この争いを収める為にハンガ国側からも国の重鎮が出向いてくることになった。宰相ナルドク・スルーだ。そして話し合いの席では聖女への非礼には国王を通じて正式に詫び状を出す、その代わりに今後一切他国の者がこの様な発言を持って諍いを起こさない様に、ガーナード国側も聖女の力を見える様に示して欲しい、と言うものだった。

 ガーナード国会議室内ではざわつくというより最早隠し立てもない様な罵声まで飛ばして、国王の前に集まった臣下であるにも拘らずこのハンガ国の言い分にはガーナード国の重鎮ほぼ全員が抗議を示した。

「馬鹿に、されるにも度がありますぞ!陛下!聖女の力を疑うなどと!!墓守の一族として黙ってはおられません!!」

 此度の争いの原因は聖女云々の話が大きく関与してるとあって聖女の墓守の一族イグランも出席している。もう既にかなりの高齢だが矍鑠かくしゃくとしているイグランは時折今日の様に登城して意見を述べている。

 この度の聖女に対するハンガ国の役人の暴言は、ガーナード国にとっては見過ごせるものではない。国王も重く捉えイグランの意見に賛成の意思を示した。

「ハンガの言い分を飲めば、我が国の貴族の令嬢ばかりではなく、皇太子妃をも見世物にせよ、と受け取れる。王族まで晒し者にする様に求められるとは、我がガーナード国は何処かの国の属国か?」

「いいえ、違います。我が王よ。」

 静かだが、怒りを含む国王の言葉を受けたのはガーナード国宰相ディンク・カーンだ。

「ハンガの要望は飲むに値しないと思われます。聖女の力の有無は我らにとっては確認すべくもなく明らかな事だからです。」

 当たり前すぎるほどの聖女の力はガーナード国の国民の近くにあって今日まで愛されてきたものだからだ。
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