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142 開放 2
しおりを挟む緑豊かな大地を望み晴れやかな青空の下、神殿の鐘が高らかと鳴る中、大勢の人々の祝福を受けた花嫁が花婿に横抱きにされて馬車まで進む。風を使い花は舞い散り、2人を守る様に周囲にフワリ舞い落ちた…
歓声と祝福を一身に浴びながら、花で鮮やかに飾られた馬車はゆっくりと進み行く……
また一つ幸せに包まれ、絆が生まれて行く。国と国は国境以外の隔たりはなく、人々は自由に行き来し交流を持ち、働き、学び、遊び、移住し、番う…
今日も当たり前の1日が、国の何処へ行っても見ることが出来た。
「ねぇ~~~、母様?いつものお話しして?」
「ん?いつもの?」
「うん!」
お昼寝前の静かな一時、まだ眠りたく無いと柔らかなほっぺを膨らませて、愛くるしくおねだりをしてくるには少しばかり刺激が強いものをねだっている様に思うのだが?
国の歴史を学ぶ為、と教育熱心な周囲の人々が事細かに話して聞かせたものを、事実を事実として少しばかり訂正を入れながら話して聞かせてきたことがあった。その最後の場面が甚く気に入った様で、事あるごとにこの様におねだりしてくる様になったのだ。
「長い、長いお話よ?」
「知ってるよ?聞いた事あるもの。」
それでもまた聞きたいと言うのだから、この子は相当気に入っているのだろう。
仕方ない…寝支度を整えて、柔らかな子供のベッドの隣に腰掛ける。大きくなったお腹を少し庇いながら膝掛けをかけて自分もゆったりと寛ぎながら…
あの日…神託の巫女姫であるサザーニャは泉の淵から泉の中に身を投げた…
周囲にいた人々からはサザーニャを呼ぶ声が口々に上がる。呆然とその様を見つめて居ると、大地を揺るがす様な振動と衝撃が起こり、目の前の泉の大岩がゆっくりと、まるで魔法で何かの映像を見て居る様に、ゆっくりと下の部分から崩れて行くのが見えた。次の瞬間、物凄い爆音と共に水と、岩と、更に何かの力で押し流される様な衝撃を受け、それと同時に防御壁を張れ!!との叫び声が聞こえ、その場にいた魔力が使える者は全員で必死に防御壁を張り続け、動ける者はみずから身を守る事が出来ない者を捕まえては結界の中に放り込んでいった。
目も開けられないほどの水量にただ耐えるしか無い中で、自分の身体を包む様に守る様に覆う様に側に居てくれた人が居たから頑張って耐える事ができたと思う。
不思議なもので、確かに泉の淵が破壊されどれだけの量かもわからない水が押し流れてきたと言うのに、結界が有ったからか、流れて行く人を助ける時にも苦しくもなく恐怖も無かったと皆話していた。
山の上の上、大勢の人々が暮らす街の上にその泉はあって、流れ出た泉はそのまま下の街の人々の元へ流れ出て行くものと思い、水の流れが幾らか治った時には誰彼構わず皆外に出て街の惨状を確認しようとした。
激しく岩にぶつかり激突しながら、山から出た大量の水が洞窟を出て岩肌を流れ行く瞬間に、全てが蒸気となってあたり一面を覆い、前が見えないほどの幻想的な景色を作り出す。
やがて泉に溜まっていた水は底をつき、流れ出る水も止まってきた頃、霧は上空に吸い込まれる様に風に巻き上げられ巨大な雲となった。
「それ!僕知っているよ?七日の雨でしょう?」
可愛い瞳をキラキラさせて、話の結果を口にする。ニコニコと満足そうに転がりながら先を促す様には、まだまだ寝静まってはくれそうも無いと、苦笑が漏れてしまうが仕方ないだろう。
そう、それから各地で、各国で7日間同様の雨が続く。後に各国の情報を照らし合わせて見た結果だから、どの地でも相違ない事が分かった。長雨で有っても災害を引き起こすものではなく、ただ静かにシトシトと降り続いたのだ。
「ねぇ、母様?戦っていた兵士達はどうなったんだっけ?」
共に闘い、守る為に集まっていた者は皆その場で、何の為に戦っていたのか、何と戦っていたのか分からなくなってしまった。記憶が無くなったわけじゃない。思いが消えたわけでもない。
けれども確実に、憎むべきものが蔑んでいたものが無くなっていることに気が付いた。魔力持ちからは特有の存在感が消えていた。ゴアラ兵に対する憎しみも外に降り出した雨に打たれるうちに霞んでいく…
不思議な事にここから魔物の新たな出現が報告されなくなった…そして人々は恐れなく国と国を行き来する事ができる様になった。女子供だけでも、1人でも。既に魔力持ちは襲われず、山や森において魔物に襲われる事も無くなったから……
「…母さま~~、おじいちゃまとおばあちゃまに会いたい~……」
話を聞いて眠気がきたのか、舌足らずな可愛い声で、寝ぼけ眼で訴える。
「そうね。この子が産まれたら会いに行きましょうね?」
「うん……。お姫様にも、会いたい~…」
お話の中のサザーニャ姫。この子は甚くお気に入りで会いたい会いたいと乞いせがむ。
「ふふ。もう会ったでしょう?」
すぅっと寝息を立て始めた子に静かなキスを一つ落とす。
「やっと寝ついたか?」
座っている後ろからフワリとガウンを掛けられて優しく抱きしめられる。
「ええ。おじいちゃまとおばあちゃまに、それからサザーニャ妃に会いたいのですって…」
回された腕にそっと手を添えて、寄せられた顔に頰を擦り寄せた。
「では、この子が産まれたら行くか?」
同じ事を先程話して聞かせていた事につい笑みが出てしまう。小さな約束が守られる事がこんなにも嬉しい…
「ええ!!是非!」
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