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137 そこに貴方が2

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 まさか…………!!!まさ、か……!?

 今の今まで冬眠でもしていたかのような大蛇が、何かに弾かれた様に体全体を揺らし、暴れ始めた。

「………!?」

 しっかりとつないでいたと思っていたネイバーの手とも最初の体動の衝撃で離れてしまう!何が起こっているのかと、気配を探ろうにも思いもしなかった魔力の気配を感じて、一瞬我を忘れてしまった……


 この、魔力の気配……この、感じ……?!
 なぜ?魔力を使っているの?
 なぜ?ここにいるの?
 なぜ!貴方がここに!!


 叫び出して、止めたい!魔力を使ったら、貴方の臓腑がまた焼き尽くされる!!

 だめ!!!ルーシウス様!!!

 声も出ない状況で心の底から叫びをあげても届かない……!!

 誰か!!!

 止めて欲しいのに、周りに見知った魔力の気配があるのに、その魔力持ちの人達でさえ、魔力を練り上げて、操って、放っている!?

 もしや、戦闘中?大蛇が大暴れした事と見知った魔力を持つ人々…

 ならば、今は戦闘中だ!!


 でもサウラはなぜルーシウスがここに来たのか、なぜ先陣切って大蛇を攻撃しているのか分からない。


 ルーシウス様、そこにいるのですね?
 ちゃんと帰ると言った約束を一瞬守れそうも無いと思った事、ごめんなさい。ちゃんとお顔を見て、ちゃんと謝りますから、
 だから、お願い、お願いだから、死なないで……!!

 必死に祈りながら左耳のピアスに集中する。目で見ることはできないけれど、きっと白金に輝いている魔法石に、回復魔法を練り込んでいく…

 お城にいると思っていた。帰ったら、また凄く嬉しそうな顔をして優しく抱きしめられるんだろうって…だから、絶対に帰らなきゃ行けないって心に決めてここに来た。
 なのに、今度は貴方が来るなんて。ここでは絶対に会えないと思っていた貴方に…
  
 お願い、ルーシウス様、死なないで………
 



「シエラ……サウラが気付いた…」
 素早い腹への一撃を辛うじて止めたものの、その後背中への蹴りを貰い大蛇が跳ね飛ばした瓦礫の山へと突っ込む羽目になったルーシウス。倒れたついでとばかりに、シエラに通信魔法石を使い事の次第を伝える。

「大丈夫なのね?」
 団員や、ルーシウスへの結界を張り巡らせながら、シエラの顔は険しい。

「あぁ、思い切り、叩き込んできてくれているよ。」
 
 戦闘中であるにも関わらず、なんたるニヤケ顔か……
情けないものを感ぜざるを得ないけれども、ルーシウスにとってはそれだけ嬉しい事なのだろう。 
 分かる、気がするのだが、今は尚の事戦闘に集中して頂きたいものだ。

「そっちが大丈夫なら、此方は小蝿をどうにかするわ。良い加減、あいつら体力馬鹿ね。こっちの体力も削られちゃうじゃない!」
 シエラの周りを羽毛が舞う…所々青白い魔法陣が地面に浮かぶが、立ち上がる前にそれも霧散…

 地表に問題あり、ね…媒体は地面じゃ無くてもなんでも良い、当人がそこを。暗部団員はシエラの術は熟知済み。空中に仕掛けていても気配で避ける。

 さて、避けられない坊や達は何処に送ろうかしらね?
南の魔女の腕が鳴ると言うものだ。シエラの得意魔法は、転移と浮遊…何も知らずに突っ込んでくるゴアラの兵士を次々と空中の魔法陣が捉えては、

 残るはゴアラ王と大蛇のみ…

「……益々不愉快…魑魅魍魎とはこの事だな…」
 未だ鎮まらない大蛇がのたうち回る空洞の中、瓦礫を超えてシュトラインが近付いてくる。

「魑魅魍魎とはあの大蛇か?」

「我らにとっては魔力を持つ者全てが魍魎よ。」

「それは、誠に遺憾…同じ生を受けているのにな…」

「……ぬかせ、所詮我らは相見えられぬ…」

 シュトラインが一気に間合いを詰めて来た。

 ガッッッ!!!!

「所詮、魔力を纏う剣といえども其方から触れさえせねば、ただの剣…覚悟はいいか?サウスバーゲン。この馬鹿馬鹿しい祭りも今日で終いにしよう…」

 ギリギリと両者共に剣を引かず、何方とも引くに引けないものをその両肩に背負い、守るために立っている。

「ふ…そこだけは意見があったな…違う世で会っていたらば其方とも分かり合えたかもしれないが…」

「サウスバーゲンでは戯言が流行らしい…が、それに付き合う義理はない。」
 
 ギリリリリッ

 刃と刃の擦れ競り渡る音が響く。両者一歩も引かない中、苦しみ暴れ狂う大蛇が跳ね上がり二人を目掛け大口を開け、頭上から襲いかかって来た。

 互いから目を離さない王と王は何方も一歩も動かない。

「ルーシュ!!」
 シエラは防御結界をルーシウスの頭上に展開させ、団員達は大蛇にとどめを刺そうと魔法を繰り出すが、最後の力とばかりに大蛇は尾で地を打ち鳴らし、周囲を薙ぎ払って団員達をも蹴散らして行く。

「ふっ木偶の坊と言えど、魍魎共を蹴散らすにはちょうど良い。」

「なんとも浮かばれぬ木偶の坊だな。」
 
 ダァァァァンンンッッ

 何度目かの尾の打ち付けで地が揺れた。




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