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136 そこに貴方が
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あれから大蛇は微動だにしていない様だ。ネイバーの手を掴んだままかなりの時間が経過したはず。時折腸の蠕動で幾らか奥へと押し流されている感覚以外に振動も何も感じない。
どこか巣にでも戻った?これだけの巨体だから巣となる所も大きなものだろう。山肌や地上では無いはずだ。穴を作っているか、地下の空洞?どこでも良いが、今自分達がどこに居るのかも、大蛇がどうなったのかも分からない。深く深く地下に潜っていたら、果たして皆は追いつけるだろうか?
不安は必ず付いてくる。村にいた時も、サウスバーゲンに来た時も、ルーシウスの側にいる時も何度も何度も感じていたもの…ただ、グッと抑えて耐えて来ただけ。
今度も…耐えられる?時折波の様に襲ってくる、えもいわれぬ不安に飲み込まれそうになる。
ネイバーを掴む手が時折震えてしまう。が、そんな時こそぎゅうっと強く握り返されて、まるで、負けるな!諦めるな!と激励されているみたいだった。
仲間が居て良かった、一人じゃなくて…
結界を張り直しネイバーに答える。大丈夫…まだ、まだ生きてる。
生きる事を、諦めない!!
ルーシウスの周りに舞い上がった粉雪の様な魔力が凝縮してルーシウスが持つ剣の刃の周囲に集まって行く。残りの物は空いた手の方に棒の様な、槍の様な形を模った。
「曲芸には長けているのか、サウスバーゲン王。」
シュトラインは面白くもなさそうにその様を見ている。
「果たして、ただの曲芸かな?それと、其方の体質か?此方の魔力を全て無力化しているな?」
「ほう、良く、分かったな?」
「して、魔力の通じぬ者に魔力を通すにはどうしたら良いと思う?」
昔、兄達と悪ふざけをしてよく遊んだのだ。一方は逃げる者、一方は追う者。逃げる者は魔力を使い直に攻撃してはならない。
言うなれば、体に当たらなければ良いだけのこと。
魔力を纏った剣はキラキラとそれ自体が光を発している様に見える。
「見るだけならば、綺麗なものだ…だが、それをどうする?」
まるで次の攻撃を今か今かと待ち望む様な表情でシュトラインはルーシウスの出方を待っている。何処からでも切り掛かってこいとばかりに、わざと両手を広げて煽っている様だ。
「ふっ覚悟だけは見事、とでも言っておこうか?」
フワリ……まるで羽毛を掌から落とした時の様に、ルーシウスの左掌の上で形造られていた光の槍が、フワリと宙に浮く。
次の瞬間一気にスピードを上げ槍は大蛇の元へ音も無く吸い込まれて行く様に飛んでいく。と、同時にシュトラインに向かってルーシウスも飛び込んできた。
「!!!」
ガッ!!!
先程とは打って変わった重さの剣撃で、シュトラインは後方へと飛ばされる。が、クルッと体を反転させて綺麗に着地して見せた。
「ふっ威力は格段に上がった?此方の剣の刃がかけたか……面白い!」
シュトラインが体勢を整えルーシウスに向かって反撃に出る前に、凄まじい咆哮が上がった!
キシャャャャャャャャヤ!!!!
「!!!」
周囲の乱闘にも物ともせずに寝静まっていた大蛇が咆哮を上げ、もがき暴れだしたのだ。
「陛下!!」
「ルーシュ!!」
大蛇の苦しみ様は凄まじく、敵も味方も分別無く自分自身を傷つく事にさえも躊躇せずにただ暴れまわっている。大蛇が体当たりした岩が崩れ降ってくれば、長い尾で弾き飛ばした瓦礫も飛んで来た。
「大事ない。」
ルーシウスの周囲にはシエラが張っていた簡易な防御壁に、暗部団員が駆けつけ岩を弾く。
「貴様………何をした?」
余りの苦しみ、暴れようは尋常では無いものだ。シュトラインも尽く飛んでくる岩を剣を片手に弾き飛ばし、軽々と避けて行っては大蛇を仰ぐ。
「何、此方に興味もない様なのでな。擡もしない首には用はないと思ったのだ。」
爽やかに笑うその先には、頭を起こした大蛇の首元がスパリと切られ、血が滴り落ちている。
「喉を潰して、呼吸の道を断った。それだけだ。」
ルーシウスはそれだけ言うとまた剣を構える。
「……相当、焦っていると見える…そんなに大事な者ならば、縄で縛り付けておけば良いものを。」
大事なペットと言う割には、暴れ回る大蛇の姿にシュトラインの心は動かされてもいないだろう。一瞥だけすると、ルーシウスの方へ向き直り、剣を握り直す。
「生憎と、縛りつける様な趣味は持ち合わせてはいないのでな。」
「面倒な事だ…」
フッ……話していたシュトラインが、一瞬消えた様に見えた。今そこに、距離を置いて言葉を交わしていたと思ったそのシュトラインの剣が、今正にルーシウスの脇腹に抉り込もうとしている。剣の柄と防御壁に守られて、辛うじて上衣を切るまでに止まっていた。
「ルーシュ!!」
「流石に早いな…!」
ギリギリギリ、今回はやっとの事で防ぎ切れたというところか…
ゴアラ兵には身体能力が上がっていると思われる者が多くいる。なので魔力を有しているということだけが戦闘に有利なわけではない事は嫌と言うほど知ってもいたのだが。
「なる程、ゴアラ王。自らも兵の一員か…」
守られるだけの王では役に立たないと思ってはいても、王自らが命を張る国など国としては成り立たないだろう。ルーシウス自身もだが、この王は大人しく座っている事を良しとしない、自分と良く似ている王なのだ。
どこか巣にでも戻った?これだけの巨体だから巣となる所も大きなものだろう。山肌や地上では無いはずだ。穴を作っているか、地下の空洞?どこでも良いが、今自分達がどこに居るのかも、大蛇がどうなったのかも分からない。深く深く地下に潜っていたら、果たして皆は追いつけるだろうか?
不安は必ず付いてくる。村にいた時も、サウスバーゲンに来た時も、ルーシウスの側にいる時も何度も何度も感じていたもの…ただ、グッと抑えて耐えて来ただけ。
今度も…耐えられる?時折波の様に襲ってくる、えもいわれぬ不安に飲み込まれそうになる。
ネイバーを掴む手が時折震えてしまう。が、そんな時こそぎゅうっと強く握り返されて、まるで、負けるな!諦めるな!と激励されているみたいだった。
仲間が居て良かった、一人じゃなくて…
結界を張り直しネイバーに答える。大丈夫…まだ、まだ生きてる。
生きる事を、諦めない!!
ルーシウスの周りに舞い上がった粉雪の様な魔力が凝縮してルーシウスが持つ剣の刃の周囲に集まって行く。残りの物は空いた手の方に棒の様な、槍の様な形を模った。
「曲芸には長けているのか、サウスバーゲン王。」
シュトラインは面白くもなさそうにその様を見ている。
「果たして、ただの曲芸かな?それと、其方の体質か?此方の魔力を全て無力化しているな?」
「ほう、良く、分かったな?」
「して、魔力の通じぬ者に魔力を通すにはどうしたら良いと思う?」
昔、兄達と悪ふざけをしてよく遊んだのだ。一方は逃げる者、一方は追う者。逃げる者は魔力を使い直に攻撃してはならない。
言うなれば、体に当たらなければ良いだけのこと。
魔力を纏った剣はキラキラとそれ自体が光を発している様に見える。
「見るだけならば、綺麗なものだ…だが、それをどうする?」
まるで次の攻撃を今か今かと待ち望む様な表情でシュトラインはルーシウスの出方を待っている。何処からでも切り掛かってこいとばかりに、わざと両手を広げて煽っている様だ。
「ふっ覚悟だけは見事、とでも言っておこうか?」
フワリ……まるで羽毛を掌から落とした時の様に、ルーシウスの左掌の上で形造られていた光の槍が、フワリと宙に浮く。
次の瞬間一気にスピードを上げ槍は大蛇の元へ音も無く吸い込まれて行く様に飛んでいく。と、同時にシュトラインに向かってルーシウスも飛び込んできた。
「!!!」
ガッ!!!
先程とは打って変わった重さの剣撃で、シュトラインは後方へと飛ばされる。が、クルッと体を反転させて綺麗に着地して見せた。
「ふっ威力は格段に上がった?此方の剣の刃がかけたか……面白い!」
シュトラインが体勢を整えルーシウスに向かって反撃に出る前に、凄まじい咆哮が上がった!
キシャャャャャャャャヤ!!!!
「!!!」
周囲の乱闘にも物ともせずに寝静まっていた大蛇が咆哮を上げ、もがき暴れだしたのだ。
「陛下!!」
「ルーシュ!!」
大蛇の苦しみ様は凄まじく、敵も味方も分別無く自分自身を傷つく事にさえも躊躇せずにただ暴れまわっている。大蛇が体当たりした岩が崩れ降ってくれば、長い尾で弾き飛ばした瓦礫も飛んで来た。
「大事ない。」
ルーシウスの周囲にはシエラが張っていた簡易な防御壁に、暗部団員が駆けつけ岩を弾く。
「貴様………何をした?」
余りの苦しみ、暴れようは尋常では無いものだ。シュトラインも尽く飛んでくる岩を剣を片手に弾き飛ばし、軽々と避けて行っては大蛇を仰ぐ。
「何、此方に興味もない様なのでな。擡もしない首には用はないと思ったのだ。」
爽やかに笑うその先には、頭を起こした大蛇の首元がスパリと切られ、血が滴り落ちている。
「喉を潰して、呼吸の道を断った。それだけだ。」
ルーシウスはそれだけ言うとまた剣を構える。
「……相当、焦っていると見える…そんなに大事な者ならば、縄で縛り付けておけば良いものを。」
大事なペットと言う割には、暴れ回る大蛇の姿にシュトラインの心は動かされてもいないだろう。一瞥だけすると、ルーシウスの方へ向き直り、剣を握り直す。
「生憎と、縛りつける様な趣味は持ち合わせてはいないのでな。」
「面倒な事だ…」
フッ……話していたシュトラインが、一瞬消えた様に見えた。今そこに、距離を置いて言葉を交わしていたと思ったそのシュトラインの剣が、今正にルーシウスの脇腹に抉り込もうとしている。剣の柄と防御壁に守られて、辛うじて上衣を切るまでに止まっていた。
「ルーシュ!!」
「流石に早いな…!」
ギリギリギリ、今回はやっとの事で防ぎ切れたというところか…
ゴアラ兵には身体能力が上がっていると思われる者が多くいる。なので魔力を有しているということだけが戦闘に有利なわけではない事は嫌と言うほど知ってもいたのだが。
「なる程、ゴアラ王。自らも兵の一員か…」
守られるだけの王では役に立たないと思ってはいても、王自らが命を張る国など国としては成り立たないだろう。ルーシウス自身もだが、この王は大人しく座っている事を良しとしない、自分と良く似ている王なのだ。
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