上 下
131 / 143

131 相対

しおりを挟む
 コツコツコツコツ、数人分の靴音が狭い通路に響き渡る。
通路には明かりがない。無いはずなのに、暗くもなく、足元に気を付けなければいけない事もない。通路に入る直前にトランジェスが光るを飛ばしているのが見えたが、それのお陰だろうか?

 永遠とも言える様な長い道のりに思えた。いや、思えただけでこれもトランジェスが目眩しに何かしたのだろうか?

「もう直ぐです……もう直ぐ、会えるね…」
 
「トランジェス様?何方に?」
 先程、逢いたい人がいると話していた、その人物がこの奥に?人が入らない様に封じてあったであろうここにどうやって?

 突然、目の前が開ける………

 洞窟?恐ろしいほどの大きな空洞が目の前に広がった…一瞬外に出たのかと思ったが、視線を周囲に巡らすと岩肌は包み込む様にこの巨大な空間を覆っている。

「大きい……何という空間なのかしら……?」
「この様な景色が見れるなんて…」

 この景色を見るだけでも、何日もかけてゴアラに来る価値があろうと思われる程、素晴らしい物だ。トランジェスの放った光のせいか、光を受けた岩壁は光を白く反射させこの空間を更に広く美しく見せてくれている。


「それも、ここまでだけどね?」

 突然に聞こえた若い男の声?

 ババッと、サザーニャの周囲を女騎士が囲む。一糸乱れぬ動きは流石と褒めて然るべきほど息があっていた。

「やはり、来ましたか?」

「……なんか、楽しそうな事になってるじゃないか?古の魔法使い?」

 サザーニャも声の方を向く。少年?どこかで見た様な?まだ、十分に少年と思わしき美麗な顔立ちの少年が上方の岩壁の一部に腰掛けていた。

「どなた、です?」

 どこと無く、いや、まさかとの思いを振り切る事もできずにじっと少年を見つめるサザーニャ。

「初めまして、かな?カザンシャルの第一皇女様?」

「私をご存知なのですね?では、何処ぞの王族の方とお見受けいたしますが?」

「良く知っていると思っていたんだけど?僕は、アルフィス。兄上は話した事なかったのかな?」

 キョトンと首を傾げる様はまだまだ幼さが残る。
 しかし、この者は兄上と言った。やはり、シュトラインの弟君?どこと無く、面影が有るだろうか?

「もしや、シュトライン様の…?」

「あぁ、貴方と兄上が許嫁だったのは幼い一時だけでしたものね?では、他家へ出されていた僕とは会った事も無かったでしょうね。知らないのも仕方ないか…」

 やはり、弟君…されど少しでも面影を追って見つめてしまえば、固めてきた覚悟が揺さぶられる…

「シュトライン様の弟君が、なぜこの様な所に?」
 
「それは、こっちの台詞だろう?良く考えて?貴方達は不法侵入者だし、そこの魔法使いはそれを手引きする裏切り者だ。王家の威厳を守る為、王族に連なる者が討伐に赴いても何ら不思議はないよね?」

 討伐……スッと背中に冷たい汗が伝っていく。

 パチンッアルフィスの指が鳴る。

 どこに隠れていたのか、隠し扉でも有るのか、音と同時に複数の兵士がサザーニャ達を囲み込んだ。

「残念だよ?トランジェス…第一皇女はどうか知らないが、お前はかなり面白かったのに。馬鹿なことをしてくれたものだね?」

 一気に張り詰めた空気が辺りに漂う。兵士が間合いを詰めようとすれば、女騎士も隙なく切り返す。

「良いのですか?アルフィス卿?貴方は城で大人しくしているように言われているはずですよ?」

 剣を向けて来る剣士の剣を易々と避けながらトランジェスが柔らかく問えば、命令を守らずここに来ている兵士の剣先が鈍り、数名がたじろぐ。

「構わないよ?お前達。侵入者を排除出来ればそれで全て終わりだ。」

 サザーニャの護衛騎士達も流石に良く応戦している。不安なく任せられるのはそれだけ彼女達が優秀な剣士で有ることの証。

「へぇ、魔法使いのくせに剣も使えるなんて反則だね、トランジェス。」
 
 反則を指摘した割には、アルフィスは嬉しそうな顔だ。

「僕さ、お前と一度思い切りやりたかったんだよ…」

 素晴らしいプレゼントをもらった子供のように満面の笑顔を見せて、アルフィスは立っていた岩壁から

 ガキン!!
 
 アルフィスの剣とトランジェスの剣が激しくぶつかる。高所から一気に飛び降りて来た所は、だ。トランジェスは後ろ手にサザーニャを庇う形でアルフィスの剣を受けた。

「ねぇ、トランジェス?お前も知っているように、魔力の効かないこの僕に対して、お前は足枷を付けながら戦う事になるんだよ?」

 足枷……指摘されるまでもなく、この場で戦う事に対してはお荷物同然のサザーニャの事を言っているのだ。

 バッ!

 サザーニャはトランジェスの側から一気に走り去り距離を取る。自分だけが守られて、皆の足を引っ張るわけには行かないのだ!

「私の事はお気になさらずに!!足を引くようならば自らの命位断って見せます!」

「へぇ、気が強いなぁ。流石だねぇ。」

「命を断つにはまだまだ早いですよ、お嬢さん。本懐を、遂げるのでしょう!!」

 ガチンッ!!叫ぶと同時に当たりは白い靄に包まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...