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117 祭りの終わり

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 男の断末魔が広場に響き渡る…
 人々は慣れているのか?さざなみの様に騒めきが広がっただけでそれ以上でもそれ以下でもなかった。

 フードの男達は自らの外套を脱ぎ遺体の上に投げ捨てると、裏切りは許さない、と言い捨ててその場を去って行った。

「あーやっぱり印はバレていたか。」


 断末魔の叫びが頭から離れない。


「それにしてもえぐいな…引きちぎるたぁ、人間業じゃない。」
 ガイは何も言わずジッと舞台を見つめたままだ。

 パンパン、とバートがガイの肩を叩く。

「行こう。長居は無用だ。」





  
「やつは裏切った訳じゃない。ただそれをここの連中が受け入れられなかったって事、それだけだ。」
 今夜も共に木の上で明日の為に体を休める。

 昼間の断末魔こそがゴアラだと言われた様で頭からあの光景が離れず、眠れそうにもないソウに向かってバートが話しかける。

「ゴアラだから仕方ないと納得なんて出来ないがね。」
 ボソリと小さくバートは呟く。

 シュッ

 休んでると思っていたガイが何か投げて寄越した。慌てて受け取れば、それは小さな皮袋だ。

。」

「ガイ、妹がいるのか?」
 孤児院で育ったんじゃ?

「妹だった物だ。妹の遺髪。」

「亡くなって?」

「騎士団に入団したての頃にな、キエリヤ山西端の山の中、俺の目の前で逝った。」

 思わず、ギュウッと渡された革袋を握りしめる。

「殺したのはさっきの奴、目の前に居たのに助けられなかったんだ。」

「妹さんの遺体は?」

「任務中の為回収不可能。前後不覚になった俺の為に当時の騎士団長がそれを後から渡してくれた。」

「どうしてそんな大事な物を?」
 ソウはガイの側に寄って革袋を手渡しでガイに返す。

「お前にも迷惑をかけたからな。こいつもちゃんと挨拶したかろうと思ってさ。」
 フゥゥゥ、とガイは長めのため息を吐いて木の幹に背を預けて目を閉じる。
  

 この手で方を付けるとあの時から決めていた。望み通り奴は消えたが、逝った者は帰らない。
 残った物は虚しさと、小さな小さな皮袋。


「名前を聞いても?」

「アナーチャ。」
 ガイの中にはカザンシャルで荒れていたような激しさはもう無い。

「奴の息の根を止めるまでは一緒にいるつもりで持ち歩いていたんだが、奴はもう居ない。大地に返してやらないとな…」

「ああ、とっとと終わらせて無事に帰って、立派な墓を建ててやんな。」

「海の見える一等地に建ててやるわ!」

「はっ余裕だろ?」
 騎士団、それも暗部の給料は高いのだ。


「お前もだぞ、絶対に無事に帰る。無茶はするな。」
 バートのソウを見る目が真剣になる。 
 ゴアラの中央で動いている様な奴らがわざわざこんなパフォーマンスをしてくれたんだ。サウスバーゲン側が入り込んでるなんてとっくに知っているだろうさ。

 
「おい、バートお前少し過保護過ぎやしないか?」
 目を瞑った姿勢を崩さずガイはもう休む気だろう。

「上にいるやんごとなき方のご命令でな。こっちは逆えんのよ。」
 
「シエラ様の血筋と言うことか?」
 あの人がそれ位で特別視はしないだろうに?

「当たらずも遠からず。知らない方が身のためだ。」
 ゴロリとバートも転がる。

「なんだそれ?」

 当の本人は不貞腐れたような困ったような微妙な表情である。

「なんて言われているか知らないが、絶対に甘やかし過ぎだって。」

「何があっても、最優先でソウを守れと言われている。」

「は?今までそんな事してないだろ?」

「ま、ソウや俺達の力量で何とかなる範囲だからだろ?」

「ちょっと待て、本当に誰に言われたんだよ、それ。」
 完全に入眠し損ねた。

 暗部のメンバーに上から命令できる者は多くはない。王直轄と言ってもいい仕事もするのだから、それさえも投げ打って(王命さえも投げ打って)ソウを守れと言うことか?
 嫌な予感しかしないのだが…

「ソウ、お前何者よ?」

 何者と聞かれておいそれと言えないものがあるのだが、バート…どうして今そんな話を? 
 ジトッとバートを睨みつけるも本人は素知らぬ体で寝転んだままだ。



 ガサガサガサ、深夜近くの森の中草を分ける音が響く。近くに聞こえる息遣いは獣では無い。

 人間だ…

 気配を消していない所で玄人ではない。寝転んでいたバートも上身を起こす。

「こんな夜中に追いかけっこか?」
 呑気な物言いであるが、まずは状況把握からだ。


「お嬢様!エサリお嬢様!お待ちください!この様な森の中は危のうございます!」

 足音の人物の後方から年配の男の声がする。如何やらエサリと呼ばれている者の使用人の様だ。

「嫌よ!お父様も何を考えているの?これから王城に向かうですって?何の為に?王妃も娶られない王への貢物にでもする気でしょう?」

「お声を!落としくださいませ!どこに誰がいるともしれません。お父上も王も貴方様をその様に処する気などはございませんよ!」

 周囲への気遣いなどない程に、声を有りったけ張り上げて自分の現状を叫んでいる娘に比べ、使用人の男の方が冷静な様だ。

「何を言うのです!あの様な身分も分からぬ様な者共を遣しておいて、早く出たいから今から出発すると?こんな夜更けに逃げ隠れる様に王城に召される事が名誉なものとお前は本当に思っているの?」

 言われている事は至極当然で肯きつつ聞き耳を立ててしまう。
 話の内容からは王城からの書簡も無く、本日ここに王城からの使者が所要で立ち寄ったついでにエサリという娘を所望するという流れの様で怪しさ満点の内容だ。

「私は行きません。王が所望すると言うのなら王自らが来れば良いのです。保守派の者共に良い様に使われている様な飾りの王の元へなど誰が行くものですか!」

 自国の王をここまでコケにするとは聞くものが聞いていたらエサリの身の安全も危ぶまれるだろうに。

「ご令嬢そこまでにしていただきましょう。」
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