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79 ヨシール国国境
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ズッシャァァ…アグァ…
人の息吹を感じさせぬ森の奥の昼下がり。盛大に一頭の魔物を打ち倒す人影が見える。
「あ~~仕事じゃ無かったらハンモックで昼寝してぇ。」
なんともやる気の無いバートの声。その手には一振りの愛刀を両手に持ち、トラ型の大型魔物の首を後ろから一突きにしている。
返り血に濡れてもいるのに何とも緊張感が無い。
「ソウ、出てきていいぞ?」
今倒された魔物の、口元がモゾモゾと動く。大丈夫か、と聞かない所でソウは無事だと確信があるのだ。
「プハッ」
大きく裂けた虎の口から頭を振りながらソウが出てくる。
あぁ、また隊服が…
虎の口に飛び込んだ際、何度か噛み砕こうと牙を立てられたから隊服は所々穴空きだ。
一通り自分の状況を確認してからキョロキョロと周りを見、茂みの手前でガイを発見する。その後ろで小さな体が2人寄り添ってプルプルと震えながらソウとバートを凝視していた。
暗部3名がいる所はヨシール国の国境付近。カザンシャルから王一行と別れ3名はひたすら真西へ向かって数国国を跨ぎ移動してきた。
ここヨシール国はゴアラ手前の国で、この国経由にてサウスバーゲンの西部拠点に向かうつもりであった。
あった所で、この辺りには似つかわしく無い大型魔物に出くわしたのだ。
近隣の子供達だろうか?野草が何かを採りに森へ入ったのだろう。
ダークタイガーと思わしき魔物に今にも一飲みにされそうな所を遠隔からガイが風魔法で顔面を攻撃する。それにも臆せず尚も子供達を捕らえんとする魔物の口を抑える為にソウ自ら口の中に飛び込んだ所で、ガイが子供達を保護、バートが後方から首を一突きだ。
暗部が常に3人で動く理由がよく分かる。
「お前達どこの子だ?」
ガイが声を掛けるが、子供達の目は前方へ向かったままだ。
前方、一人は顔から下に向かって魔物の血を浴びて真っ赤にそまっているし、一人は今にも食べられるかと思った恐ろしい魔物の口に自ら飛び込んで何度も咀嚼されていたのにも関わらず入ったと同じ様に自分で悠々と出て来てピンピンしてる…
子供心にも恐ろしくないわけがないだろう。魔物よりもここにいる人の方が魔物らしく見えるのでは?と一瞬考える程には常軌を逸していると思う。
「ははっ大丈夫だ。あの兄ちゃん達は人間だし、魔物ハンターなんだよ。だから強いだろう?」
ガイが明るく笑い飛ばしてくれる。
固まっていた子供達が目を覚ました様に同時に泣き出した。
「うわぁぁぁぁん。かあちゃ~ん!」
「あぁぁぁぁん、怖いよ~~~」
「ああ!大丈夫!大丈夫!ほら高いたか~い!」
ガイが両手で子供達を肩に担ぎ上げて必死にあやす。
人を寄せ付けない様な雰囲気のあるガイだが、子供は好きな様で他国でも、街や村の宿屋で良く相手をしていた優しい所がある。孤児院の出だから慣れているとか何とか聞いた様な…
「おい!お前ら、その格好を早く何とかしろ!泣き止まないだろうが!」
言われてみれば最もである。魔物の血を嗅ぎつけて新たな猛獣や魔物が居ないことをチェックしつつ小川を探す。
子供達はガイが村へ連れて行くだろう。
「しかし、おかしいな。ここらは虎の生息地だったか?」
ガイは何度もこの国の周辺を任務で渡り歩いていた。
大型獣もだが、虎が居たとは記憶にない。数ヶ月に一度は回っている他の組からも聞いていないのだ。
魔物になるにも理りがある。本来そこに生息している食動物にその地の魔力が溜まった時に魔物化が起こるのだ。
普段からそこに居ない動物は魔物化してもその場に居ないのが普通だろうと考える。ここに来るまでにも大型魔物に出会したし、流石にゴアラの国境近く、警戒されていると言うことか。
小川を見つけジャブジャブと血を流す。平地ルートは警戒が強まっているだろう。ソウは気がついていないかもしれないが、ここまであからさまだとガイはとっくに気が付いている。山越えで行くか。
安全にゴアラまでの道のりを模索しつつあるバートの目の前でソウもバシャバシャと頭から水をかぶる。
「お前、それで良いのかよ?後悔は無いの?」
「ん?やっぱり脱いだ方がいいかな?」
脱ぐとは魔物の唾液でベショベショになっている隊服の事であろうが。
「嫌、脱ぐの禁止な、絶対に脱ぐな!」
心底嫌そうなバート。
「やだ、気持ち悪い。」
「脱ぐなら見えない所でやってくれ。」
「男同士なのに?」
お前ね、と明らかに迷惑以外何者でも無い顔でバートが言う。
「あの時手合わせしたのは俺だけだったからな。ガイは気付いてないだろ?」
「?」
「陛下から何があってもお前を守れと言われている。その意味分かるか?」
ハァァァァァ、と長い溜息を吐きながらバートはガシガシと頭を掻く。
「迷惑、と言うこと?」
バートは自分の正体を知っている。
「は?迷惑な訳ないだろ?全結界防御だぞ?使えるに決まってるだろ?さっきだって役に立っただろうが。それだけじゃ無くてもお前は使える。」
「ならなんで?」
「黙ってたって望めば国の頂点にも立てるんだぞ?なのになんでわざわざって思うだろ?」
「国の頂点なんて欲しくない。」
「飾りの様に座っているのは嫌か?」
「それで良いならここには居ないよバート。」
「ま、そうだな。何かに囚われるのも楽じゃないな…」
最初に会ったあの時に見た純粋な瞳が、今は翳りを帯び、何某かの決意の色を湛えている。
ガイの様な憎しみの炎では無いが、自らの内に動かし難い物を持った者の瞳の色だ。
人の息吹を感じさせぬ森の奥の昼下がり。盛大に一頭の魔物を打ち倒す人影が見える。
「あ~~仕事じゃ無かったらハンモックで昼寝してぇ。」
なんともやる気の無いバートの声。その手には一振りの愛刀を両手に持ち、トラ型の大型魔物の首を後ろから一突きにしている。
返り血に濡れてもいるのに何とも緊張感が無い。
「ソウ、出てきていいぞ?」
今倒された魔物の、口元がモゾモゾと動く。大丈夫か、と聞かない所でソウは無事だと確信があるのだ。
「プハッ」
大きく裂けた虎の口から頭を振りながらソウが出てくる。
あぁ、また隊服が…
虎の口に飛び込んだ際、何度か噛み砕こうと牙を立てられたから隊服は所々穴空きだ。
一通り自分の状況を確認してからキョロキョロと周りを見、茂みの手前でガイを発見する。その後ろで小さな体が2人寄り添ってプルプルと震えながらソウとバートを凝視していた。
暗部3名がいる所はヨシール国の国境付近。カザンシャルから王一行と別れ3名はひたすら真西へ向かって数国国を跨ぎ移動してきた。
ここヨシール国はゴアラ手前の国で、この国経由にてサウスバーゲンの西部拠点に向かうつもりであった。
あった所で、この辺りには似つかわしく無い大型魔物に出くわしたのだ。
近隣の子供達だろうか?野草が何かを採りに森へ入ったのだろう。
ダークタイガーと思わしき魔物に今にも一飲みにされそうな所を遠隔からガイが風魔法で顔面を攻撃する。それにも臆せず尚も子供達を捕らえんとする魔物の口を抑える為にソウ自ら口の中に飛び込んだ所で、ガイが子供達を保護、バートが後方から首を一突きだ。
暗部が常に3人で動く理由がよく分かる。
「お前達どこの子だ?」
ガイが声を掛けるが、子供達の目は前方へ向かったままだ。
前方、一人は顔から下に向かって魔物の血を浴びて真っ赤にそまっているし、一人は今にも食べられるかと思った恐ろしい魔物の口に自ら飛び込んで何度も咀嚼されていたのにも関わらず入ったと同じ様に自分で悠々と出て来てピンピンしてる…
子供心にも恐ろしくないわけがないだろう。魔物よりもここにいる人の方が魔物らしく見えるのでは?と一瞬考える程には常軌を逸していると思う。
「ははっ大丈夫だ。あの兄ちゃん達は人間だし、魔物ハンターなんだよ。だから強いだろう?」
ガイが明るく笑い飛ばしてくれる。
固まっていた子供達が目を覚ました様に同時に泣き出した。
「うわぁぁぁぁん。かあちゃ~ん!」
「あぁぁぁぁん、怖いよ~~~」
「ああ!大丈夫!大丈夫!ほら高いたか~い!」
ガイが両手で子供達を肩に担ぎ上げて必死にあやす。
人を寄せ付けない様な雰囲気のあるガイだが、子供は好きな様で他国でも、街や村の宿屋で良く相手をしていた優しい所がある。孤児院の出だから慣れているとか何とか聞いた様な…
「おい!お前ら、その格好を早く何とかしろ!泣き止まないだろうが!」
言われてみれば最もである。魔物の血を嗅ぎつけて新たな猛獣や魔物が居ないことをチェックしつつ小川を探す。
子供達はガイが村へ連れて行くだろう。
「しかし、おかしいな。ここらは虎の生息地だったか?」
ガイは何度もこの国の周辺を任務で渡り歩いていた。
大型獣もだが、虎が居たとは記憶にない。数ヶ月に一度は回っている他の組からも聞いていないのだ。
魔物になるにも理りがある。本来そこに生息している食動物にその地の魔力が溜まった時に魔物化が起こるのだ。
普段からそこに居ない動物は魔物化してもその場に居ないのが普通だろうと考える。ここに来るまでにも大型魔物に出会したし、流石にゴアラの国境近く、警戒されていると言うことか。
小川を見つけジャブジャブと血を流す。平地ルートは警戒が強まっているだろう。ソウは気がついていないかもしれないが、ここまであからさまだとガイはとっくに気が付いている。山越えで行くか。
安全にゴアラまでの道のりを模索しつつあるバートの目の前でソウもバシャバシャと頭から水をかぶる。
「お前、それで良いのかよ?後悔は無いの?」
「ん?やっぱり脱いだ方がいいかな?」
脱ぐとは魔物の唾液でベショベショになっている隊服の事であろうが。
「嫌、脱ぐの禁止な、絶対に脱ぐな!」
心底嫌そうなバート。
「やだ、気持ち悪い。」
「脱ぐなら見えない所でやってくれ。」
「男同士なのに?」
お前ね、と明らかに迷惑以外何者でも無い顔でバートが言う。
「あの時手合わせしたのは俺だけだったからな。ガイは気付いてないだろ?」
「?」
「陛下から何があってもお前を守れと言われている。その意味分かるか?」
ハァァァァァ、と長い溜息を吐きながらバートはガシガシと頭を掻く。
「迷惑、と言うこと?」
バートは自分の正体を知っている。
「は?迷惑な訳ないだろ?全結界防御だぞ?使えるに決まってるだろ?さっきだって役に立っただろうが。それだけじゃ無くてもお前は使える。」
「ならなんで?」
「黙ってたって望めば国の頂点にも立てるんだぞ?なのになんでわざわざって思うだろ?」
「国の頂点なんて欲しくない。」
「飾りの様に座っているのは嫌か?」
「それで良いならここには居ないよバート。」
「ま、そうだな。何かに囚われるのも楽じゃないな…」
最初に会ったあの時に見た純粋な瞳が、今は翳りを帯び、何某かの決意の色を湛えている。
ガイの様な憎しみの炎では無いが、自らの内に動かし難い物を持った者の瞳の色だ。
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