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67 公式水面下
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「皇女様。」
「まぁ、御自ら?」
ナナと呼ばれていた侍女がおずおずとサザーニャに耳打ちすると、サザーニャの銀の瞳が僅かに開かれて動揺が微かに走る。
「姫様、陛下が此方の宮へ参られています。」
下がっていたスザンナがサウラヘ耳打ちする。
「宮の中までは王であっても入れぬ決まりですので、どうか此方をお暇くださいませ。」
自国の王である。待たせるのもそのまま返すのも礼に反する。
王自らが前触れなく他国の王族の居城へ訪問する事自体が正規の礼に反するのだが。サザーニャ自体も同様に礼を省いている為、カザンシャル側からは何も言えまい。
サウラがサザーニャへ退去の挨拶をして急いで出てみればルーシウスは数名の騎士と共に城の扉の外で待っていたのである。
扉の外には巫女宮を守る女性騎士の護衛兵が立ち並んでいたが我関せずと堂々と待っていたルーシウスである。
「お待たせしました。ルーシウス様。お仕事では無かったのですか?」
ルーシウスの顔を見たらサウラはあからさまにホッとした表情になる。
「終わったので迎えに来たのだ。サザーニャ殿と話をしていたのか?」
城の扉の外まで侍女が出てきて礼を、扉の内側ではサザーニャが礼を取るのが見え、ルーシウスは其方に目を向けた。
「サザーニャ様の庭園に入った所をお誘い頂きました。」
そうか、サウラの手を取りながらルーシウスはサウラを見つめる。
「急な訪問を許されよ、サザーニャ殿。予定に無かったこと故様子を見にきたのだ。何か失礼な事は無かっただろうか?」
様子を見るだけならば人を遣わせばいいのだ。非礼には非礼を、ルーシウス也の牽制であろうか。
「ようこそおいでくださいました、ルーシウス様。私の方こそ迷い込まれたサウラ様にお声を掛けた非礼をお許しくださいませ。サウラ様と親しくお話をさせていただけました事とても嬉しゅうございましたわ。」
にこやかに笑みを返せば笑顔が輝いているように見える。
ああ、嬉しそうだなサザーニャ様…
サザーニャの事を思えば喜ぶべき事なのか?しかしサウラの心は複雑で素直に喜べそうにもない。
目の前にルーシウスがいるのだから話しかけるチャンスだと思うのだが、サザーニャはそれ以上話しかけようとはせず、笑みをたたえているだけだ。
「それではサウラ。我らはこれで失礼しよう。」
サウラはサザーニャに礼を取りルーシウスのエスコートで共に光林宮へ戻って行く。
巫女宮からの帰り道、他愛も無い話をルーシウスとしつつサザーニャに言われた事をいつ伝えようかと機を伺えば、夕食後の寛ぎ時にルーシウスから話を振られ、サザーニャから言われた事を自分の気持ち以外包み隠さず話し伝えた。
サザーニャ側からの要望は全て断るべきものだし、こちらは公式にこの手の報告を受けたわけでは無い。サウラも返答があるか無いかは保証できないと伝えている。
よってルーシウス、シガレット同胞の意見としては此方からは何も起こさない、と言うことで落ち着いた。
この手の公式な要望ならば全て蹴る用意があるが、公的な物では無いのなら姫君の独り言のようなものだ。聞かなかった事にも出来る。
「サウラ様を巻き込まれるとは。困ったものですね。カザンシャル王家からサウラ様宛にお茶会のお誘いが来ていますよ。」
「俺も共に行こう。」
「王が?王妃様のお茶会へ?お誘いもなくですか?」
表情に出さなくともシガレットが呆れ返っているのは分かる。
「皇女が駄目ならば王妃か…シグ、サウラは少々旅の疲れが出たようだ。明後日の誕生祭の為大事をとって明日一日中休ませる旨をしたためよう。」
やれやれ、半ばルーシウスも呆れ気味である。カザンシャルにとってサウスバーゲンの価値は如何程なのか本音の部分はまだ見えてこない。憶測は幾つも飛びつつもここではまだ目を光らせていなければいけないようだ。ルーシウスはシグに暗部を呼ぶよう命を出す。
ルーシウスの一声で明日のサウラは、部屋で監禁と決まった。
就寝前の一時、サウラは部屋から続くバルコニーへ出て入浴後の火照りを冷ます。
何とも複雑な1日であった。ルーシウスはサザーニャの気持ちに答えるつもりは全く無いようだ。凄く綺麗なサザーニャに興味を持ったような素振りすら見せなかったし。
サウラばかりを見つめてくるのは、気恥ずかしいのでやめてもらいたいのだが、それでもサザーニャに目を向けないでくれて良かった、と思っている自分に気がついたのだ。
サザーニャの気持ちは?政治的な意図が有るとしてももし心からの恋心だとしたら?好きな人に見てももらえず、相手にもされなかったら?それは心が苦しいのでは無いか?可哀想だ。
サウラの心の中は相反する思いが行ったり来たり。どうにも落ち着けそうには無い。
明日は久々の任務なのだからはやく寝なくては行けないのに…
「まぁ、御自ら?」
ナナと呼ばれていた侍女がおずおずとサザーニャに耳打ちすると、サザーニャの銀の瞳が僅かに開かれて動揺が微かに走る。
「姫様、陛下が此方の宮へ参られています。」
下がっていたスザンナがサウラヘ耳打ちする。
「宮の中までは王であっても入れぬ決まりですので、どうか此方をお暇くださいませ。」
自国の王である。待たせるのもそのまま返すのも礼に反する。
王自らが前触れなく他国の王族の居城へ訪問する事自体が正規の礼に反するのだが。サザーニャ自体も同様に礼を省いている為、カザンシャル側からは何も言えまい。
サウラがサザーニャへ退去の挨拶をして急いで出てみればルーシウスは数名の騎士と共に城の扉の外で待っていたのである。
扉の外には巫女宮を守る女性騎士の護衛兵が立ち並んでいたが我関せずと堂々と待っていたルーシウスである。
「お待たせしました。ルーシウス様。お仕事では無かったのですか?」
ルーシウスの顔を見たらサウラはあからさまにホッとした表情になる。
「終わったので迎えに来たのだ。サザーニャ殿と話をしていたのか?」
城の扉の外まで侍女が出てきて礼を、扉の内側ではサザーニャが礼を取るのが見え、ルーシウスは其方に目を向けた。
「サザーニャ様の庭園に入った所をお誘い頂きました。」
そうか、サウラの手を取りながらルーシウスはサウラを見つめる。
「急な訪問を許されよ、サザーニャ殿。予定に無かったこと故様子を見にきたのだ。何か失礼な事は無かっただろうか?」
様子を見るだけならば人を遣わせばいいのだ。非礼には非礼を、ルーシウス也の牽制であろうか。
「ようこそおいでくださいました、ルーシウス様。私の方こそ迷い込まれたサウラ様にお声を掛けた非礼をお許しくださいませ。サウラ様と親しくお話をさせていただけました事とても嬉しゅうございましたわ。」
にこやかに笑みを返せば笑顔が輝いているように見える。
ああ、嬉しそうだなサザーニャ様…
サザーニャの事を思えば喜ぶべき事なのか?しかしサウラの心は複雑で素直に喜べそうにもない。
目の前にルーシウスがいるのだから話しかけるチャンスだと思うのだが、サザーニャはそれ以上話しかけようとはせず、笑みをたたえているだけだ。
「それではサウラ。我らはこれで失礼しよう。」
サウラはサザーニャに礼を取りルーシウスのエスコートで共に光林宮へ戻って行く。
巫女宮からの帰り道、他愛も無い話をルーシウスとしつつサザーニャに言われた事をいつ伝えようかと機を伺えば、夕食後の寛ぎ時にルーシウスから話を振られ、サザーニャから言われた事を自分の気持ち以外包み隠さず話し伝えた。
サザーニャ側からの要望は全て断るべきものだし、こちらは公式にこの手の報告を受けたわけでは無い。サウラも返答があるか無いかは保証できないと伝えている。
よってルーシウス、シガレット同胞の意見としては此方からは何も起こさない、と言うことで落ち着いた。
この手の公式な要望ならば全て蹴る用意があるが、公的な物では無いのなら姫君の独り言のようなものだ。聞かなかった事にも出来る。
「サウラ様を巻き込まれるとは。困ったものですね。カザンシャル王家からサウラ様宛にお茶会のお誘いが来ていますよ。」
「俺も共に行こう。」
「王が?王妃様のお茶会へ?お誘いもなくですか?」
表情に出さなくともシガレットが呆れ返っているのは分かる。
「皇女が駄目ならば王妃か…シグ、サウラは少々旅の疲れが出たようだ。明後日の誕生祭の為大事をとって明日一日中休ませる旨をしたためよう。」
やれやれ、半ばルーシウスも呆れ気味である。カザンシャルにとってサウスバーゲンの価値は如何程なのか本音の部分はまだ見えてこない。憶測は幾つも飛びつつもここではまだ目を光らせていなければいけないようだ。ルーシウスはシグに暗部を呼ぶよう命を出す。
ルーシウスの一声で明日のサウラは、部屋で監禁と決まった。
就寝前の一時、サウラは部屋から続くバルコニーへ出て入浴後の火照りを冷ます。
何とも複雑な1日であった。ルーシウスはサザーニャの気持ちに答えるつもりは全く無いようだ。凄く綺麗なサザーニャに興味を持ったような素振りすら見せなかったし。
サウラばかりを見つめてくるのは、気恥ずかしいのでやめてもらいたいのだが、それでもサザーニャに目を向けないでくれて良かった、と思っている自分に気がついたのだ。
サザーニャの気持ちは?政治的な意図が有るとしてももし心からの恋心だとしたら?好きな人に見てももらえず、相手にもされなかったら?それは心が苦しいのでは無いか?可哀想だ。
サウラの心の中は相反する思いが行ったり来たり。どうにも落ち着けそうには無い。
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