67 / 143
67 公式水面下
しおりを挟む
「皇女様。」
「まぁ、御自ら?」
ナナと呼ばれていた侍女がおずおずとサザーニャに耳打ちすると、サザーニャの銀の瞳が僅かに開かれて動揺が微かに走る。
「姫様、陛下が此方の宮へ参られています。」
下がっていたスザンナがサウラヘ耳打ちする。
「宮の中までは王であっても入れぬ決まりですので、どうか此方をお暇くださいませ。」
自国の王である。待たせるのもそのまま返すのも礼に反する。
王自らが前触れなく他国の王族の居城へ訪問する事自体が正規の礼に反するのだが。サザーニャ自体も同様に礼を省いている為、カザンシャル側からは何も言えまい。
サウラがサザーニャへ退去の挨拶をして急いで出てみればルーシウスは数名の騎士と共に城の扉の外で待っていたのである。
扉の外には巫女宮を守る女性騎士の護衛兵が立ち並んでいたが我関せずと堂々と待っていたルーシウスである。
「お待たせしました。ルーシウス様。お仕事では無かったのですか?」
ルーシウスの顔を見たらサウラはあからさまにホッとした表情になる。
「終わったので迎えに来たのだ。サザーニャ殿と話をしていたのか?」
城の扉の外まで侍女が出てきて礼を、扉の内側ではサザーニャが礼を取るのが見え、ルーシウスは其方に目を向けた。
「サザーニャ様の庭園に入った所をお誘い頂きました。」
そうか、サウラの手を取りながらルーシウスはサウラを見つめる。
「急な訪問を許されよ、サザーニャ殿。予定に無かったこと故様子を見にきたのだ。何か失礼な事は無かっただろうか?」
様子を見るだけならば人を遣わせばいいのだ。非礼には非礼を、ルーシウス也の牽制であろうか。
「ようこそおいでくださいました、ルーシウス様。私の方こそ迷い込まれたサウラ様にお声を掛けた非礼をお許しくださいませ。サウラ様と親しくお話をさせていただけました事とても嬉しゅうございましたわ。」
にこやかに笑みを返せば笑顔が輝いているように見える。
ああ、嬉しそうだなサザーニャ様…
サザーニャの事を思えば喜ぶべき事なのか?しかしサウラの心は複雑で素直に喜べそうにもない。
目の前にルーシウスがいるのだから話しかけるチャンスだと思うのだが、サザーニャはそれ以上話しかけようとはせず、笑みをたたえているだけだ。
「それではサウラ。我らはこれで失礼しよう。」
サウラはサザーニャに礼を取りルーシウスのエスコートで共に光林宮へ戻って行く。
巫女宮からの帰り道、他愛も無い話をルーシウスとしつつサザーニャに言われた事をいつ伝えようかと機を伺えば、夕食後の寛ぎ時にルーシウスから話を振られ、サザーニャから言われた事を自分の気持ち以外包み隠さず話し伝えた。
サザーニャ側からの要望は全て断るべきものだし、こちらは公式にこの手の報告を受けたわけでは無い。サウラも返答があるか無いかは保証できないと伝えている。
よってルーシウス、シガレット同胞の意見としては此方からは何も起こさない、と言うことで落ち着いた。
この手の公式な要望ならば全て蹴る用意があるが、公的な物では無いのなら姫君の独り言のようなものだ。聞かなかった事にも出来る。
「サウラ様を巻き込まれるとは。困ったものですね。カザンシャル王家からサウラ様宛にお茶会のお誘いが来ていますよ。」
「俺も共に行こう。」
「王が?王妃様のお茶会へ?お誘いもなくですか?」
表情に出さなくともシガレットが呆れ返っているのは分かる。
「皇女が駄目ならば王妃か…シグ、サウラは少々旅の疲れが出たようだ。明後日の誕生祭の為大事をとって明日一日中休ませる旨をしたためよう。」
やれやれ、半ばルーシウスも呆れ気味である。カザンシャルにとってサウスバーゲンの価値は如何程なのか本音の部分はまだ見えてこない。憶測は幾つも飛びつつもここではまだ目を光らせていなければいけないようだ。ルーシウスはシグに暗部を呼ぶよう命を出す。
ルーシウスの一声で明日のサウラは、部屋で監禁と決まった。
就寝前の一時、サウラは部屋から続くバルコニーへ出て入浴後の火照りを冷ます。
何とも複雑な1日であった。ルーシウスはサザーニャの気持ちに答えるつもりは全く無いようだ。凄く綺麗なサザーニャに興味を持ったような素振りすら見せなかったし。
サウラばかりを見つめてくるのは、気恥ずかしいのでやめてもらいたいのだが、それでもサザーニャに目を向けないでくれて良かった、と思っている自分に気がついたのだ。
サザーニャの気持ちは?政治的な意図が有るとしてももし心からの恋心だとしたら?好きな人に見てももらえず、相手にもされなかったら?それは心が苦しいのでは無いか?可哀想だ。
サウラの心の中は相反する思いが行ったり来たり。どうにも落ち着けそうには無い。
明日は久々の任務なのだからはやく寝なくては行けないのに…
「まぁ、御自ら?」
ナナと呼ばれていた侍女がおずおずとサザーニャに耳打ちすると、サザーニャの銀の瞳が僅かに開かれて動揺が微かに走る。
「姫様、陛下が此方の宮へ参られています。」
下がっていたスザンナがサウラヘ耳打ちする。
「宮の中までは王であっても入れぬ決まりですので、どうか此方をお暇くださいませ。」
自国の王である。待たせるのもそのまま返すのも礼に反する。
王自らが前触れなく他国の王族の居城へ訪問する事自体が正規の礼に反するのだが。サザーニャ自体も同様に礼を省いている為、カザンシャル側からは何も言えまい。
サウラがサザーニャへ退去の挨拶をして急いで出てみればルーシウスは数名の騎士と共に城の扉の外で待っていたのである。
扉の外には巫女宮を守る女性騎士の護衛兵が立ち並んでいたが我関せずと堂々と待っていたルーシウスである。
「お待たせしました。ルーシウス様。お仕事では無かったのですか?」
ルーシウスの顔を見たらサウラはあからさまにホッとした表情になる。
「終わったので迎えに来たのだ。サザーニャ殿と話をしていたのか?」
城の扉の外まで侍女が出てきて礼を、扉の内側ではサザーニャが礼を取るのが見え、ルーシウスは其方に目を向けた。
「サザーニャ様の庭園に入った所をお誘い頂きました。」
そうか、サウラの手を取りながらルーシウスはサウラを見つめる。
「急な訪問を許されよ、サザーニャ殿。予定に無かったこと故様子を見にきたのだ。何か失礼な事は無かっただろうか?」
様子を見るだけならば人を遣わせばいいのだ。非礼には非礼を、ルーシウス也の牽制であろうか。
「ようこそおいでくださいました、ルーシウス様。私の方こそ迷い込まれたサウラ様にお声を掛けた非礼をお許しくださいませ。サウラ様と親しくお話をさせていただけました事とても嬉しゅうございましたわ。」
にこやかに笑みを返せば笑顔が輝いているように見える。
ああ、嬉しそうだなサザーニャ様…
サザーニャの事を思えば喜ぶべき事なのか?しかしサウラの心は複雑で素直に喜べそうにもない。
目の前にルーシウスがいるのだから話しかけるチャンスだと思うのだが、サザーニャはそれ以上話しかけようとはせず、笑みをたたえているだけだ。
「それではサウラ。我らはこれで失礼しよう。」
サウラはサザーニャに礼を取りルーシウスのエスコートで共に光林宮へ戻って行く。
巫女宮からの帰り道、他愛も無い話をルーシウスとしつつサザーニャに言われた事をいつ伝えようかと機を伺えば、夕食後の寛ぎ時にルーシウスから話を振られ、サザーニャから言われた事を自分の気持ち以外包み隠さず話し伝えた。
サザーニャ側からの要望は全て断るべきものだし、こちらは公式にこの手の報告を受けたわけでは無い。サウラも返答があるか無いかは保証できないと伝えている。
よってルーシウス、シガレット同胞の意見としては此方からは何も起こさない、と言うことで落ち着いた。
この手の公式な要望ならば全て蹴る用意があるが、公的な物では無いのなら姫君の独り言のようなものだ。聞かなかった事にも出来る。
「サウラ様を巻き込まれるとは。困ったものですね。カザンシャル王家からサウラ様宛にお茶会のお誘いが来ていますよ。」
「俺も共に行こう。」
「王が?王妃様のお茶会へ?お誘いもなくですか?」
表情に出さなくともシガレットが呆れ返っているのは分かる。
「皇女が駄目ならば王妃か…シグ、サウラは少々旅の疲れが出たようだ。明後日の誕生祭の為大事をとって明日一日中休ませる旨をしたためよう。」
やれやれ、半ばルーシウスも呆れ気味である。カザンシャルにとってサウスバーゲンの価値は如何程なのか本音の部分はまだ見えてこない。憶測は幾つも飛びつつもここではまだ目を光らせていなければいけないようだ。ルーシウスはシグに暗部を呼ぶよう命を出す。
ルーシウスの一声で明日のサウラは、部屋で監禁と決まった。
就寝前の一時、サウラは部屋から続くバルコニーへ出て入浴後の火照りを冷ます。
何とも複雑な1日であった。ルーシウスはサザーニャの気持ちに答えるつもりは全く無いようだ。凄く綺麗なサザーニャに興味を持ったような素振りすら見せなかったし。
サウラばかりを見つめてくるのは、気恥ずかしいのでやめてもらいたいのだが、それでもサザーニャに目を向けないでくれて良かった、と思っている自分に気がついたのだ。
サザーニャの気持ちは?政治的な意図が有るとしてももし心からの恋心だとしたら?好きな人に見てももらえず、相手にもされなかったら?それは心が苦しいのでは無いか?可哀想だ。
サウラの心の中は相反する思いが行ったり来たり。どうにも落ち着けそうには無い。
明日は久々の任務なのだからはやく寝なくては行けないのに…
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる