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65 巫女の夢

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 [泉を探せ]

 満月の夜、夢の中にこの声を聞く。
それは本当に泉なのか、何の泉なのか、どこにあるのか、何のために探すのか。


 言葉はそれ以上をつむがない。


 神託の巫女姫と言われる所以はこの夢だ。代々受け継がれ見る内容は皆同じ。それ故に神託と称される。
 自身が巫女姫と定められたら技を継ぎ、そして自分の次に役目を渡すまで己を巫女として保つ事にのみ心血を注ぐ。


 巫女姫として定められた際、諦めなければならないものが沢山ある様にサザーニャは思う。華々しい社交界、友との交流、立場上望めはしないが素敵な殿方との恋愛。 

 サザーニャが巫女姫に選ばれると、サザーニャの姿を巫女にして封じてしまうのは忍びないと彼女の為に泣いてくれた親族も居た程だ。巫女になる為には制約が多い。

 しかしサザーニャは誇りを持っていた。

 巫女になる事に、代々受け継いで来た技、意思を守ることに。自身の犠牲は必要だが何よりもそれさえ喜ぶ程に今の立場に満足していたのだ。

 先代の巫女姫は彼女の祖母だ。祖母と言っても王であった祖父の妹にあたる方だった。彼女は生涯伴侶を持たず、命尽きるまでその務めを果たした。

 巫女と言っては響きは良いが、この国ならではの嫌な務めも勿論ある。だが先代巫女姫は毅然とそれを熟し、この国の平和を守る為に揺るぎなく立ち続けたのだ。
その姿を間近で見続けていたサザーニャにとって、祖母は憧れであり、自身の目標であり、祖母に代わって同じ所に立てる事は何にも勝る喜びであった。


 そして夢に見る、泉を探せ。巫女達は国中の泉を調べた。見つからないと良好な友好国の泉も調べ水を持ち帰っては調べ尽くした。残るは大国、ゴアラとサウスバーゲンだ。

 ゴアラ、サウスバーゲン共にカザンシャルの中立国としての立場を了承し、友好国の一国として関係を結んではいるが、中立国であるが為に今一歩信頼たる国として認められてはいない。

 サウスバーゲンとはカザンシャルがゴアラと繋がりがある為に、大々的な共同政策、貿易には至っておらず、商人繋がりの国交が主だったもので、貴族、王族に至っては公の交流は殆ど無いに等しく、カザンシャルの要求を受け入れる事を警戒されている節があり、やんわりと避けられている。

 ゴアラからは、カザンシャルの真の目的に探りを入れられつつ、国内の泉探索の許可はサウスバーゲンへの王族の輿入れを条件として要求して来た。これが満たされれば全面的に協力しようと言う事らしい。
 全面協力は喉から手が出るほど欲しいものだが、ゴアラの目的はカザンシャルに対しての恩を売るよりも、カザンシャルをサウスバーゲンへの足掛かりにしたいと言う魂胆が前面に出過ぎている為、先ずはサウスバーゲンが承諾しないだろう。そんな事は考えれば直ぐに分かる事だった。

 しかし、サザーニャやカザンシャル国王はこの案を呑むことにしたのだ。

 代々継がれて来た巫女達の悲願。泉を見つけたその先に見えるものは何なのか。
 自身を律し、私欲のために力を使うこと無く、ただひたすらに平和の為に尽くして来た彼女達を知るサザーニャには、自分の小さな犠牲は当然の事で、泉が見つかるその先にはゴアラとサウスバーゲンの和平があると信じて疑いもないものであった。

 サザーニャは決めていた。何度断られようとも、自分の信念のために生きる事を。それには共に歩いてくれる協力者が必要だ。その為に弟、皇太子の誕生祭を利用しようとしているのである。
 国の中心の主だったもの達は王も含め反対するのもはいない。カザンシャルの国内の平和、中立国として何処からも侵略されずに今まで立って来られたのは、他ではなく彼女達の持つ宝が為せる技であったからである。

「申し上げます。サザーニャ様光林宮の姫が間も無くこちらに向かって来られる様です。庭園にてお会いできますでしょう。」

いつもと同じ代わり映えのしない部屋で、いつもの側仕えが伝える。

「分かりました。私も出ることにいたしましょう。」
 これから一世一代の大芝居を打つのだ。芝居などついぞ見る事も無かったと言うのに。

「私、上手く話せるかしら?何方どなたかに心の内を話す事など無かったのですもの。」
 巫女姫の表情には不安の陰りが差す。

「大丈夫ですわ。姫様には天がついていましょう。」
側にいる侍女が優しく微笑む。

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