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51 王城帰還
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宴が終われば王城に帰還となる。王城への報告のために見届け人としてカリナは帰りも共に同行することになった。
入領した時とは違い、タンチラードの民は歓声を持って送り出してくれた。また、シャーリン率いるタンチラード騎士団は東領境界まで王の一団を護衛し礼を持って見送った。
サウラは目に見えて来る時と雰囲気が変わってしまったが、思い詰めた様な中にも時折明るい笑顔をカリナに見せてくれる様になって少しの変化にもカリナは嬉しく、更に心労はかけまいとサウラの周りでカリナは奮闘するのだった。
"疲れが取れない"様子のサウラを気遣い、カリナにがっちりガードされたサウラにはルーシウスも気軽に会う事が出来なかった程だ。
まあ寂しくはあったが、サウラには味方がいる事の安心感の方がルーシウスの中で勝ったのだ。
城に着くまで強く詮索されることもなく、ゆっくりと帰路に着く。
王都に入ると王城までの道にまたもや人々は集まり、王都の民は手に花を持って王一行を迎えてくれたのだ。
山では花の少なかったサウラにとっては嬉しい出迎えとなり、馬車の中では表情が優しく綻んでもいた。
懐かしい?暫くぶりの王城でサウラはアミラとスザンナの顔馴染みの侍女に迎え入れられる。カリナは仕事としてきている為、ここでサウラとはお別れだ。
「姫様、是非ともまた我がタンチラードに来て下さいませ。お約束ですよ?」
「カリナさん、沢山良くしてくれてありがとうございました。」
短い間だったけど、優しく、楽しませてくれたカリナに礼を取る。キリシーにも礼を伝えてもらおう。
カリナは今のサウラの様子をアミラに耳打ちする。通信で送られた内容をアミラはシエラから聞いていたこともあり、お任せください、と頼もしい返事にカリナは胸を撫で下ろした。
スザンナも流石は貴族付きの侍女であっただけはある。タンチラード出発前にアミラにこっ酷く注意はされたが、サウラの様子を見て揶揄ったり、無作法な真似をする事はなかった。それよりも、傅かれる事を好まないサウラが一人でもゆっくりと寛げる様にと心を配ってくれたのだ。
ルーシウスは城を離れていた間に溜まった執務を熟す為、また暫くは朝の短時間に相見えるのみになるだろう。
その間サウラはまた一人で過ごすことになる。
侍女として仕えている時は基本私語を謹んできたスザンナが、時折サウラが城を離れた後の様子やら、城下での噂話やら、新しいスイーツが城で人気だとかの他愛の無い話を持ちかけてくれた為、サウラは十分に気を紛らわす事が出来たと思う。
「姫様、此方が今話題のスイーツの様ですわ。今城下では何でも焼いて食べるのが流行っているそうで、遂に城のシェフがクリームを揚げてしまいましたの。」
濃厚なクリームを薄皮で包んでカリッと揚げた物を出してきた。アツアツの内に食べるのがお勧めだそうで、シェフは焼くから揚げるにインスピレーションを受けたんだそうな。
カリカリの皮の中からは濃厚なプルンとしたクリーム、甘みもしっかりとしているがくどさが無くてペロリと食べてしまった。何でも中身が爆発しない様に揚げるのが難しいのだとか。
この甘みは疲れた時に食べたくなる一品のようだ。
「おいし。直ぐに口の中で溶けてしまって無くなってしまった。」
「そうなんです。食べすぎ注意なんですよ。だから特別なお菓子にしましょうね。」
美味しい物を食べると舌だけで無く、心も躍るだろう。サウラの様子に満足のスザンナがまた作ってもらいましょうね、とウキウキと話す。
本当に良い人達。サウラも、自分がいつもと違う事くらいは分かっている。笑顔で過ごそうと思っても、胸の中に石が詰まったみたいで、気を抜くと心が破れそうになっているんだ。
周りにいる人達には、破れる手前で上手に重さを取ってもらえてるみたいでありがたかった。
自分のやるべき方法がまだ分からないけれど、手掛かりはあるように思っている。分からなかったら自分で探すしか無いのだから。
あの時の惨状を誰かに話してもきっと解っては貰えないだろう。あの場にいたカリナ達でさえ見る事は出来なかった様だったから。説明するのは無理だと思うのだ。
先ずは手掛かりから探していかなければ、サウラは心に決めた。
魔法灯が照らす中、地下へと降りる階段をゆっくりと降りていく。
以前来た時は凄く弾む足取りだった。嬉しくてほぼ小走りで降りて行ったものだが、今は全く逆の気持ちで足取りも重い。まるで重りでも付けられているみたいに重く感じる。
魔法師団詰所までこんなに遠かっただろうか?足取りも重く進んでいるからちっとも進んでいないのかもしれないが。誰かの魔法で辿り着けない様に結界でも張ってあるみたい。そんな風に感じる位には詰所の扉まで遠くに感じた。
重い手を挙げて扉をノックする。
「すみません。シエラさんは居ますか?」
何人かの団員が振り返るが、全ての返答を待たずに、サウラはシエラの居るであろう部屋の扉まで進んで行った。
入領した時とは違い、タンチラードの民は歓声を持って送り出してくれた。また、シャーリン率いるタンチラード騎士団は東領境界まで王の一団を護衛し礼を持って見送った。
サウラは目に見えて来る時と雰囲気が変わってしまったが、思い詰めた様な中にも時折明るい笑顔をカリナに見せてくれる様になって少しの変化にもカリナは嬉しく、更に心労はかけまいとサウラの周りでカリナは奮闘するのだった。
"疲れが取れない"様子のサウラを気遣い、カリナにがっちりガードされたサウラにはルーシウスも気軽に会う事が出来なかった程だ。
まあ寂しくはあったが、サウラには味方がいる事の安心感の方がルーシウスの中で勝ったのだ。
城に着くまで強く詮索されることもなく、ゆっくりと帰路に着く。
王都に入ると王城までの道にまたもや人々は集まり、王都の民は手に花を持って王一行を迎えてくれたのだ。
山では花の少なかったサウラにとっては嬉しい出迎えとなり、馬車の中では表情が優しく綻んでもいた。
懐かしい?暫くぶりの王城でサウラはアミラとスザンナの顔馴染みの侍女に迎え入れられる。カリナは仕事としてきている為、ここでサウラとはお別れだ。
「姫様、是非ともまた我がタンチラードに来て下さいませ。お約束ですよ?」
「カリナさん、沢山良くしてくれてありがとうございました。」
短い間だったけど、優しく、楽しませてくれたカリナに礼を取る。キリシーにも礼を伝えてもらおう。
カリナは今のサウラの様子をアミラに耳打ちする。通信で送られた内容をアミラはシエラから聞いていたこともあり、お任せください、と頼もしい返事にカリナは胸を撫で下ろした。
スザンナも流石は貴族付きの侍女であっただけはある。タンチラード出発前にアミラにこっ酷く注意はされたが、サウラの様子を見て揶揄ったり、無作法な真似をする事はなかった。それよりも、傅かれる事を好まないサウラが一人でもゆっくりと寛げる様にと心を配ってくれたのだ。
ルーシウスは城を離れていた間に溜まった執務を熟す為、また暫くは朝の短時間に相見えるのみになるだろう。
その間サウラはまた一人で過ごすことになる。
侍女として仕えている時は基本私語を謹んできたスザンナが、時折サウラが城を離れた後の様子やら、城下での噂話やら、新しいスイーツが城で人気だとかの他愛の無い話を持ちかけてくれた為、サウラは十分に気を紛らわす事が出来たと思う。
「姫様、此方が今話題のスイーツの様ですわ。今城下では何でも焼いて食べるのが流行っているそうで、遂に城のシェフがクリームを揚げてしまいましたの。」
濃厚なクリームを薄皮で包んでカリッと揚げた物を出してきた。アツアツの内に食べるのがお勧めだそうで、シェフは焼くから揚げるにインスピレーションを受けたんだそうな。
カリカリの皮の中からは濃厚なプルンとしたクリーム、甘みもしっかりとしているがくどさが無くてペロリと食べてしまった。何でも中身が爆発しない様に揚げるのが難しいのだとか。
この甘みは疲れた時に食べたくなる一品のようだ。
「おいし。直ぐに口の中で溶けてしまって無くなってしまった。」
「そうなんです。食べすぎ注意なんですよ。だから特別なお菓子にしましょうね。」
美味しい物を食べると舌だけで無く、心も躍るだろう。サウラの様子に満足のスザンナがまた作ってもらいましょうね、とウキウキと話す。
本当に良い人達。サウラも、自分がいつもと違う事くらいは分かっている。笑顔で過ごそうと思っても、胸の中に石が詰まったみたいで、気を抜くと心が破れそうになっているんだ。
周りにいる人達には、破れる手前で上手に重さを取ってもらえてるみたいでありがたかった。
自分のやるべき方法がまだ分からないけれど、手掛かりはあるように思っている。分からなかったら自分で探すしか無いのだから。
あの時の惨状を誰かに話してもきっと解っては貰えないだろう。あの場にいたカリナ達でさえ見る事は出来なかった様だったから。説明するのは無理だと思うのだ。
先ずは手掛かりから探していかなければ、サウラは心に決めた。
魔法灯が照らす中、地下へと降りる階段をゆっくりと降りていく。
以前来た時は凄く弾む足取りだった。嬉しくてほぼ小走りで降りて行ったものだが、今は全く逆の気持ちで足取りも重い。まるで重りでも付けられているみたいに重く感じる。
魔法師団詰所までこんなに遠かっただろうか?足取りも重く進んでいるからちっとも進んでいないのかもしれないが。誰かの魔法で辿り着けない様に結界でも張ってあるみたい。そんな風に感じる位には詰所の扉まで遠くに感じた。
重い手を挙げて扉をノックする。
「すみません。シエラさんは居ますか?」
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