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49 西部兵の凱旋
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対の蛇の軍旗が高々と見えて来た。国境結界守備軍が、続々と帰還する。
現タンチラード伯に続き、シャーリンの軍が続く。大通りを軍と共に、ここ数日で狩った魔物を氷漬けにし引いて来る。
国境内に侵入した魔物を一匹も民地に逃す事なく、狩り尽くした実績は大きかろう。
王を迎えた時は、礼を持って迎えたタンチラードの民だが戦果を挙げ帰還する兵士達には、大歓声を持って迎えるのだ。根っからの戦闘好きの名に恥じぬ熱狂ぶりであった。
タンチラード領の民はレン族の血筋を引いており、またその事を大いに誇りにしている民で、タンチラード領主一族には、その血を忘れんが為に一族の名にレンを入れる。
レン族とはサウスバーゲン建国以前より、ゴアラの国境以南に定住していた民族であるが、ゴアラ人の猛攻にも屈せず、定住地を守りきった民族であった。
それ故に当時の風習を色濃く残し、敵から自国を守る為には、婦女子であっても勇猛果敢に戦うことが出来る民なのである。
そして、時期女領主であるシャーリンの人気はそれは高く、数多の貴族からは元より、令嬢にまで、恋文を貰う様な有様であった。
自領の誇りとなる領主一行の凱旋であって、領民は涌かぬはずはない。
騎馬にて赤いマントに身を包み、ゆっくりと進み来るシャーリンの姿に人々は熱狂的な歓声を上げる。
王家別邸、契約の館にも遠くの歓声が微かに聞こえて来る。
相変わらずの熱狂ぶりに、タンチラードの変わらぬ姿を見てルーシウスは安堵する。
狩った魔物は多々あれど、兵は1名も欠けなかったと聞いている。素晴らしい戦果ではなかろうか。
直にこの別邸へも、タンチラード伯とシャーリンが謁見に訪れる。久しぶりの謁見に此度の出兵話にも花が咲くことだろう。
ルーシウスの体調はすこぶる良く、時間があればタンチラード伯と一戦手合わせ願いたいと思えるほどであった。
「陛下の御尊顔拝謁できます事、誠に恐悦至極に御座います。」
跪いて礼を取ったのはタンチラード伯だ。領邸に戻ったばかりの足で休みも取らず、シャーリンを伴って契約の館に謁見に参じたのだ。茶に近い赤髪にはちらほらと銀色に光る白髪が目立って来ている歳だが、疲れも見せず未だに軍の先陣に立つ。
「此度の働き見事であったと聞いている。流石は西部の民だな。」
「何を申します。陛下の出迎えさえも十分に勤め上げられなかった不忠者ですぞ。」
タンチラード伯はかなりの強者であると同時に、かなりの堅物だ。サウスバーゲン長兄王アジェイルの崩御に対しても甚く責を負い、殉死厭わずと後を追おうとするのを周りの者が止めるのに、それは苦労したとか。
頭は硬いが、情には厚く、信頼に足る男の1人なのだ。
「要らぬ苦労をかけてしまって済まなかった。」
王が謝罪をする。体調を崩しさえしていなければ、もっと早くに結界補強は済んでいた為、それが叶わなかった事に対するものだ。
「何を言われます。先の事は陛下の責ではありませぬ。そして、陛下の御快癒と此度は見事成し遂げられました事、心よりお喜び申し上げます。」
下げていた頭を上げ、シャーリンが祝辞を述べる。
「シャーリン殿其方も息災であったか?」
「誰に聞いておられますか?私が弱った所など誰に見せた事がありましょう?」
不適な笑みを浮かべ、相変わらず心身共に強健な女傑だ。
幼い時より、一時剣を極めようとしていたルーシウスは、剣を好まなかったブラードに比べ、シャーリンや他の姉妹との交流を持つ方が多かった。言わば幼馴染と言える者だが、シャーリンは幼い当時から意思も体も強かったのだ。
「タンチラード伯、頼もしい跡取り殿が居られて羨ましいことだな。」
「何を言われます、陛下も番様を得られたご様子。誠に重ねてお喜び申し上げます。して、番様にもご挨拶をばお許し願えましょうか?」
「うむ。」
多分に言われると思っていた事だが、何と答えようか?瞳を輝かせて答えを待っているタンチラード伯をみつつ、しばし黙して考えていると、執務室のドアがノックされる。
「サウラ様が来室されました。」
取次ぎの者の声がする。
「入れ。」
間違えかと思いつつ、許可を出すルーシウスだが、その姿を見て目を見張る。
この部屋の中で惚けた顔をしていたのは間違いなくルーシウスである。ここ数日、サウラの顔を真面に見ていないばかりか、訪室の拒否までされていたのだ。
タンチラード伯には申し訳ないが、体調不良の旨を告げ許してもらおうと考えていたのだが…
取次ぎの兵にドアを開けられ入室して来たのは、スッキリと髪をまとめあげられ、儀式に着ていたあの白いドレスを纏ったサウラであった。
「ご挨拶が遅れ申し訳ありません。サウラで御座います。」
見事な礼と共に名を名乗る。
数日ぶりに見たサウラは、顔色もよく、体調は問題なさそうに見えたが、少しやつれただろうか?
しかし、ここにいる誰よりもサウラを見て喜んでいるのも他でもなくルーシウスだ。
「お初にお目に掛かります。タンチラード領主、ブラック・レン・タンチラードで御座います。」
「シャーリン・レン・タンチラードで御座います。」
タンチラード伯、シャーリンも礼を持って返し、シャーリンは進み出て優雅にサウラに手を差し出す。
「サウラ様私目がエスコートの光栄に預ってもよろしゅう御座いますか?」
タンチラード領では女性も騎士のように女性をエスコートする風習があるのだろうか?
それはそれは見事にシャーリンはエスコートして見せたのである。
現タンチラード伯に続き、シャーリンの軍が続く。大通りを軍と共に、ここ数日で狩った魔物を氷漬けにし引いて来る。
国境内に侵入した魔物を一匹も民地に逃す事なく、狩り尽くした実績は大きかろう。
王を迎えた時は、礼を持って迎えたタンチラードの民だが戦果を挙げ帰還する兵士達には、大歓声を持って迎えるのだ。根っからの戦闘好きの名に恥じぬ熱狂ぶりであった。
タンチラード領の民はレン族の血筋を引いており、またその事を大いに誇りにしている民で、タンチラード領主一族には、その血を忘れんが為に一族の名にレンを入れる。
レン族とはサウスバーゲン建国以前より、ゴアラの国境以南に定住していた民族であるが、ゴアラ人の猛攻にも屈せず、定住地を守りきった民族であった。
それ故に当時の風習を色濃く残し、敵から自国を守る為には、婦女子であっても勇猛果敢に戦うことが出来る民なのである。
そして、時期女領主であるシャーリンの人気はそれは高く、数多の貴族からは元より、令嬢にまで、恋文を貰う様な有様であった。
自領の誇りとなる領主一行の凱旋であって、領民は涌かぬはずはない。
騎馬にて赤いマントに身を包み、ゆっくりと進み来るシャーリンの姿に人々は熱狂的な歓声を上げる。
王家別邸、契約の館にも遠くの歓声が微かに聞こえて来る。
相変わらずの熱狂ぶりに、タンチラードの変わらぬ姿を見てルーシウスは安堵する。
狩った魔物は多々あれど、兵は1名も欠けなかったと聞いている。素晴らしい戦果ではなかろうか。
直にこの別邸へも、タンチラード伯とシャーリンが謁見に訪れる。久しぶりの謁見に此度の出兵話にも花が咲くことだろう。
ルーシウスの体調はすこぶる良く、時間があればタンチラード伯と一戦手合わせ願いたいと思えるほどであった。
「陛下の御尊顔拝謁できます事、誠に恐悦至極に御座います。」
跪いて礼を取ったのはタンチラード伯だ。領邸に戻ったばかりの足で休みも取らず、シャーリンを伴って契約の館に謁見に参じたのだ。茶に近い赤髪にはちらほらと銀色に光る白髪が目立って来ている歳だが、疲れも見せず未だに軍の先陣に立つ。
「此度の働き見事であったと聞いている。流石は西部の民だな。」
「何を申します。陛下の出迎えさえも十分に勤め上げられなかった不忠者ですぞ。」
タンチラード伯はかなりの強者であると同時に、かなりの堅物だ。サウスバーゲン長兄王アジェイルの崩御に対しても甚く責を負い、殉死厭わずと後を追おうとするのを周りの者が止めるのに、それは苦労したとか。
頭は硬いが、情には厚く、信頼に足る男の1人なのだ。
「要らぬ苦労をかけてしまって済まなかった。」
王が謝罪をする。体調を崩しさえしていなければ、もっと早くに結界補強は済んでいた為、それが叶わなかった事に対するものだ。
「何を言われます。先の事は陛下の責ではありませぬ。そして、陛下の御快癒と此度は見事成し遂げられました事、心よりお喜び申し上げます。」
下げていた頭を上げ、シャーリンが祝辞を述べる。
「シャーリン殿其方も息災であったか?」
「誰に聞いておられますか?私が弱った所など誰に見せた事がありましょう?」
不適な笑みを浮かべ、相変わらず心身共に強健な女傑だ。
幼い時より、一時剣を極めようとしていたルーシウスは、剣を好まなかったブラードに比べ、シャーリンや他の姉妹との交流を持つ方が多かった。言わば幼馴染と言える者だが、シャーリンは幼い当時から意思も体も強かったのだ。
「タンチラード伯、頼もしい跡取り殿が居られて羨ましいことだな。」
「何を言われます、陛下も番様を得られたご様子。誠に重ねてお喜び申し上げます。して、番様にもご挨拶をばお許し願えましょうか?」
「うむ。」
多分に言われると思っていた事だが、何と答えようか?瞳を輝かせて答えを待っているタンチラード伯をみつつ、しばし黙して考えていると、執務室のドアがノックされる。
「サウラ様が来室されました。」
取次ぎの者の声がする。
「入れ。」
間違えかと思いつつ、許可を出すルーシウスだが、その姿を見て目を見張る。
この部屋の中で惚けた顔をしていたのは間違いなくルーシウスである。ここ数日、サウラの顔を真面に見ていないばかりか、訪室の拒否までされていたのだ。
タンチラード伯には申し訳ないが、体調不良の旨を告げ許してもらおうと考えていたのだが…
取次ぎの兵にドアを開けられ入室して来たのは、スッキリと髪をまとめあげられ、儀式に着ていたあの白いドレスを纏ったサウラであった。
「ご挨拶が遅れ申し訳ありません。サウラで御座います。」
見事な礼と共に名を名乗る。
数日ぶりに見たサウラは、顔色もよく、体調は問題なさそうに見えたが、少しやつれただろうか?
しかし、ここにいる誰よりもサウラを見て喜んでいるのも他でもなくルーシウスだ。
「お初にお目に掛かります。タンチラード領主、ブラック・レン・タンチラードで御座います。」
「シャーリン・レン・タンチラードで御座います。」
タンチラード伯、シャーリンも礼を持って返し、シャーリンは進み出て優雅にサウラに手を差し出す。
「サウラ様私目がエスコートの光栄に預ってもよろしゅう御座いますか?」
タンチラード領では女性も騎士のように女性をエスコートする風習があるのだろうか?
それはそれは見事にシャーリンはエスコートして見せたのである。
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