48 / 143
48 見えない出口
しおりを挟む
ウトウト、ウトウトと光の中を微睡む。
ここはどこ?
考えるけれど答えはない。目も開けられず、ただ眠り続ける。
限界まで魔力を使ったサウラが王の寝室から運ばれて来てより、ベッドの住人となっている。
回復魔法を掛けられていたルーシウスとは違い、自然回復を待たねばならないサウラは、体力の回復もルーシウスよりも遅い。
目が覚めてからもボヤッとしていて頭は働いていない。促されるままに入浴し、うつらうつらしながら食事をし、回復の為にまた深く眠る。
何度か目の目覚めで、だんだんと頭がハッキリとしてきた様に思う。
それと同時に、悪夢にも苛まされる。
追って来る大きな波。逃げ惑う者を助けながら自らも逃げるサウラ。
溺れている人を助けたいと思っても、いつもいつも後一歩の所で全て波に攫われてしまう。
手を伸ばしても、泳いでも、服を脱いで紐にして投げ入れても、いつも間に合わない。
防御結界を張ろうとすると、更に波はそれさえも吸収し、サウラごと飲み込み引き摺り込んでいく。
うなされてはカリナに起こされ、グッショリと汗で汚れた身体を拭いてから眠っては、また悪夢を見る。
何故、こんな夢を見るのか、意識がハッキリして来たサウラには良く分かっている。
体がすこぶる弱っているのは限界以上の魔力を出し切った為。
悪夢を見るのは結界石の間でのルーシウスの惨状から、魔力への信頼も誇りも、感謝も何もかもを失ってしまって嫌悪感しか持てないからだ。
こんな事誰にも言える訳が無いし、この状態でルーシウスの隣になど居られるはずがない。
心から生きていてくれて良かったと思う反面、罪悪感に支配されてルーシウスに合わせる顔などない。
何度目かのカリナの訪室時に、王の体調に問題ない事、サウラの事を気に掛けていると伝えられても、どうしても起き上がれる気がしなかった。
すっかりと部屋に引き篭もってしまっているサウラ。
数日後には、結界補強式典と、結界守護兵達の凱旋祝典が開かれる。
「就きましては姫様にも出席願いたいと、王から衣装を賜っております。」
ソファーに座ってボンヤリ過ごしているサウラにカリナが優しく話しかける。
サウラの様子が何処かおかしい事に気がつき始めている周囲の者達もサウラに無理やり問いただそうとはしなかった。
休ませてやれとの王命でもあるが、臆する事なく身分ある者達とも会話を楽しむ様子があったサウラが、今は人との触れ合いに確実に一線を引いている。
むしろ、人を拒絶し、寄せ付けない様な雰囲気にまで変わってしまっているのだ。
何かあったとは推察できるが、無理やりに踏み込める雰囲気でもなかった。
カリナやキリシーは態度を変えず、サウラに話しかける。誰か側にいる事や話を聞く事には拒否はない様なのである。時折、笑顔を見せてはくれるが、何だか泣きそうな笑顔で、見ている方は何も聞けなくなってしまうのだ。
少しでも関心を持ってもらおうと、王から送られてきたドレスを掛け、広げてみもした。
サウラが手に取って眺めている分位には、気に入ってもらえたのではないだろうか。
王に逐一サウラの様子は知らされる。
行ってくる、と別れたあの後からまともに顔も合わせていないサウラは、王との謁見を拒んでいる。
最後に別れた寝室では特に異常は無かったと聞き及んでいるのだが。
しかし、顔が見たいと思ったなら、ルーシウスは誰に憚れることもなくサウラの部屋に入る権限を持っているし、寝静まった後にでも見に行くことは出来るのだ。
このままだと式典の出席も危ぶまれたが、ルーシウスはサウラの気持ちを尊重する様に申し付けた。
以前と違ったサウラの様子は、サウラ自身の中の何某かの変化なのだろう。サウラが答えを見つけなければ、解決は得られまい。
ルーシウスは強引に手に入れる事を良しとはしない男なのである。待てる時間は幾らでもある。サウラの魔力を見ても、この言葉の意味に間違いはないだろう。
ならば、今は待つ時だ。サウラの身に危険がない限り、十分にサウラの意思を尊重する準備も受け入れる覚悟も出来ている。
なんとも寛大な王ではないか、自身の決断にルーシウスは甚く満足した。
解決の糸口を探りつつもサウラの意思を尊重する、と王城にも通達を送る。城に帰ってからも対応を変えぬ様にする為だが、これにシエラが反応した。
どうやら何か心当たりがあるそうな。こればかりはシエラの経験には誰も足元にも及ばないだろう。年の功とはありがたいではないか。
内心ほっと心から溜息を付く。サウラの意思を尊重すると言っても、出来れば愛する者の苦しむ姿は、どんな時でも見ていたくはないものだからだ。
ここはどこ?
考えるけれど答えはない。目も開けられず、ただ眠り続ける。
限界まで魔力を使ったサウラが王の寝室から運ばれて来てより、ベッドの住人となっている。
回復魔法を掛けられていたルーシウスとは違い、自然回復を待たねばならないサウラは、体力の回復もルーシウスよりも遅い。
目が覚めてからもボヤッとしていて頭は働いていない。促されるままに入浴し、うつらうつらしながら食事をし、回復の為にまた深く眠る。
何度か目の目覚めで、だんだんと頭がハッキリとしてきた様に思う。
それと同時に、悪夢にも苛まされる。
追って来る大きな波。逃げ惑う者を助けながら自らも逃げるサウラ。
溺れている人を助けたいと思っても、いつもいつも後一歩の所で全て波に攫われてしまう。
手を伸ばしても、泳いでも、服を脱いで紐にして投げ入れても、いつも間に合わない。
防御結界を張ろうとすると、更に波はそれさえも吸収し、サウラごと飲み込み引き摺り込んでいく。
うなされてはカリナに起こされ、グッショリと汗で汚れた身体を拭いてから眠っては、また悪夢を見る。
何故、こんな夢を見るのか、意識がハッキリして来たサウラには良く分かっている。
体がすこぶる弱っているのは限界以上の魔力を出し切った為。
悪夢を見るのは結界石の間でのルーシウスの惨状から、魔力への信頼も誇りも、感謝も何もかもを失ってしまって嫌悪感しか持てないからだ。
こんな事誰にも言える訳が無いし、この状態でルーシウスの隣になど居られるはずがない。
心から生きていてくれて良かったと思う反面、罪悪感に支配されてルーシウスに合わせる顔などない。
何度目かのカリナの訪室時に、王の体調に問題ない事、サウラの事を気に掛けていると伝えられても、どうしても起き上がれる気がしなかった。
すっかりと部屋に引き篭もってしまっているサウラ。
数日後には、結界補強式典と、結界守護兵達の凱旋祝典が開かれる。
「就きましては姫様にも出席願いたいと、王から衣装を賜っております。」
ソファーに座ってボンヤリ過ごしているサウラにカリナが優しく話しかける。
サウラの様子が何処かおかしい事に気がつき始めている周囲の者達もサウラに無理やり問いただそうとはしなかった。
休ませてやれとの王命でもあるが、臆する事なく身分ある者達とも会話を楽しむ様子があったサウラが、今は人との触れ合いに確実に一線を引いている。
むしろ、人を拒絶し、寄せ付けない様な雰囲気にまで変わってしまっているのだ。
何かあったとは推察できるが、無理やりに踏み込める雰囲気でもなかった。
カリナやキリシーは態度を変えず、サウラに話しかける。誰か側にいる事や話を聞く事には拒否はない様なのである。時折、笑顔を見せてはくれるが、何だか泣きそうな笑顔で、見ている方は何も聞けなくなってしまうのだ。
少しでも関心を持ってもらおうと、王から送られてきたドレスを掛け、広げてみもした。
サウラが手に取って眺めている分位には、気に入ってもらえたのではないだろうか。
王に逐一サウラの様子は知らされる。
行ってくる、と別れたあの後からまともに顔も合わせていないサウラは、王との謁見を拒んでいる。
最後に別れた寝室では特に異常は無かったと聞き及んでいるのだが。
しかし、顔が見たいと思ったなら、ルーシウスは誰に憚れることもなくサウラの部屋に入る権限を持っているし、寝静まった後にでも見に行くことは出来るのだ。
このままだと式典の出席も危ぶまれたが、ルーシウスはサウラの気持ちを尊重する様に申し付けた。
以前と違ったサウラの様子は、サウラ自身の中の何某かの変化なのだろう。サウラが答えを見つけなければ、解決は得られまい。
ルーシウスは強引に手に入れる事を良しとはしない男なのである。待てる時間は幾らでもある。サウラの魔力を見ても、この言葉の意味に間違いはないだろう。
ならば、今は待つ時だ。サウラの身に危険がない限り、十分にサウラの意思を尊重する準備も受け入れる覚悟も出来ている。
なんとも寛大な王ではないか、自身の決断にルーシウスは甚く満足した。
解決の糸口を探りつつもサウラの意思を尊重する、と王城にも通達を送る。城に帰ってからも対応を変えぬ様にする為だが、これにシエラが反応した。
どうやら何か心当たりがあるそうな。こればかりはシエラの経験には誰も足元にも及ばないだろう。年の功とはありがたいではないか。
内心ほっと心から溜息を付く。サウラの意思を尊重すると言っても、出来れば愛する者の苦しむ姿は、どんな時でも見ていたくはないものだからだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる