[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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29 王の告白

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 美味しかった魚も食べ切ってしまった。
まだ食べ盛りのサウラは、なんでも美味しくペロッと食べてしまえる。

 ベンチにゆっくりと座り、今日の感想あれこれを話しながら海を見つめる。 
  
 海とは、手前側は波立つのに奥の方はゆらゆら揺れている様にしか見えない。なぜに波が押し寄せるのか?なぜ、止まらないのか?どこまで続いているのか?素朴な疑問が浮かんでくる。

 遠くには賑やかな屋台の呼び込み。子供達の声。

 目をつむって、しばし村に居るような懐かしさを追い求める。
 目の前には広い広い世界が広がっているのに、サタヤ村は目を瞑った小さな世界のままだ。自分もこの国に来てこの景色を見、この境遇に陥らなければ、目を瞑ったままの村と何ら変わら無かった。

 なんてちっぽけな自分。世界を知らない小さなサタヤ。あのままでは良いとは思えないのに。

 ぼんやり、海を見つめつつ故郷を思う。

「お花いりませんか?お花~」
 
 花を売る小さな女の子が、道の方から広場に入ってくる。腕にはバスケットを下げて、中には可愛らしい花が数種類顔を覗かせていた。

 観光客目当ての、花売りの子供だ。サウスバーゲンは南国にあたるため、ここでしか見られない花もある。他国から来る観光客にとっては珍しい売り物となるのだろう。

 ルーシウスが花売り子供に手をあげる。
嬉しそうに走ってこちらに寄って来ては、バスケットを差し出す。

「どれにしますか?」
 10歳くらいの女の子だろうか?しっかりと笑顔で接客をする所は立派だ。

 バスケットの中には、小さな花から、柔らかそうな花弁を大きく広げた立派な花まで見事に咲き揃っている。山育ちのサウラは平地、南国の花の名前は余り分からない。村で育てていた物があれば別だが、見たこともない花もあり、迷ってしまいそう。

「どれがいい?」
 ルーシウスが聞いてくる。

「とても種類が多いですね。綺麗。」
 色も豊富で、華やかだ。

「そうでしょう?私のお父さんと、お母さんが作ってるの。来てくれる人が増えたから、お花を買ってくれる人も多いの。前よりも住みやすくなったっていつも言ってる。」

「お兄さん達はデート?」
お花を見せてくれながら、子供は無邪気に聞いてくる。

 返答には困るサウラだが、ルーシウスは意に介さず。

「すまんが花には詳しくない。彼女に合いそうな物を1本見繕ってはくれまいか?」

 う~~ん、と小首を傾げて考えている女の子は真剣そのもの。

「お兄さんからの贈り物なのね?」

「ああ、そうだな。」
嬉しそうに肯くルーシウス。

「わかった!ちょっと待ってて!」
 突然、叫ぶと売り物の花のバスケットを置いたまま女の子は走って行ってしまう。
 忘れ物だと、追いかけた方が良いのだろうか?

 思うより早く、護衛の1人が走って追いかけている。こちらに戻ってこない時には、忘れ物があると声をかけてくれるのかもしれない。

 ポカンとしながら、見送ってしまった。

「慌ただしい子ですね。」

「一生懸命な子ではあるんだろうな。」
 しばらくバスケットの番をしなくては行けないだろう。

 もう一度バスケットを覗き込む。
「花の種類がとても多くてびっくりです。見たことも無い物も多くて…」

「山では育て難いのか?」

「私の母がチューリップが好きで、それだけは庭先に植えていました。毎年、春遅くに咲いているのですが、他の物は種が無いと育てられないので、手元にある花は多くは無かったんです。だから、毎年墓前には母が好きなチューリップを持って行くんです。」

「今度はこっちの花を選んで送ろうかな?あ、種を送っても良いですね。」

 聞けば、サウラは来月の下旬頃に花を持っていく予定であったのだとか。

「俺の母は、貴族でもない一般の女だった。王妃であるのに、趣味が花の新種改良でな。薔薇が好きで、毎年薔薇の時期には庭園で、永遠と薔薇の鑑賞をしている様な人だった。」

 子供心にはそれが面白くなくて、兄達や悪友達を誘っては、薔薇狩りなる悪行をしていたのだ。ある時、見つかってこっ酷く怒られ、食事を抜きにされた。

 自分が気に入らないからと言って、物言わぬ物を踏みつぶす様な王は要らぬ、と鬼の様な母に叱られた。
 思い出と共に、バラ園には今年も母が残したその薔薇が咲く。

「サウラ、母が作った薔薇がもう時期咲くはずだ。一枝に数種類の色の小さな薔薇が同時にさく。花は小振りだが、華やかで、見応えがあるぞ。今年はそれを墓前に送ってやると良い。」

 野バラであれば見たことがある。一度に色々な色を楽しめるとはなんと魅力的な薔薇だろう。

 父も母もきっと見た事が無いだろう。
 嬉しいお土産が一つできた。
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