上 下
11 / 54

11 冬季の村は戦場 3

しおりを挟む
 やるべき事は山の様にあった。村を囲っている塀に資材小屋、薪や燃料の貯蔵庫に食糧庫、家畜小屋の補強と警護。雪が止めば村の外に出て村の外側から塀に沿って一周してくる。この中でも一番狙われやすいのは食糧庫と燃料の貯蔵庫だ。周辺の村々はこれらの備蓄に余念はないが、賊の類はそうではないのだろう。この時期に襲撃に遭う村が一番多いのだ。村の外を確認して斥候の痕跡を逸早く見付けるのもクリスの仕事だった。

「やぁ!クリス、お疲れ様!」

 資材小屋で道具の点検と手入れ、補強作業をしている所にクリスも手伝いに入る。

「今日は冷えるなぁ~」

 作業小屋の側に焚き火を燃やし、暖をとりながら資材の欠陥を確認する。これは次に金鉱山に入る村人達の道具で資材の破損や欠損は時に命に関わるものになるために徹底して行われる。

「お、そう言えばさっきライザの家に街からの商人が来てたみたいだぞ?何か買うのか?」

「ん?店のじゃなくて?」

 作業をしつつもおしゃべりな人の口は止まらないものだ。

「違うだろ?食糧扱う奴じゃ無かったぞ?」

「何だろう?ビルカ母さんが何かで頼んだのかな?」

「ん~かなり良い身なりしていた商人だったぜ?マコスの店が賑わっているって言ってもあそこ迄上等な商人を呼ぶか?」

 なんで高級品を扱う様な商人がやって来ているのか見当もつかないまま、珍しい事もあるものだと、居酒屋マコスへとクリスは向かう。



「じゃ、こちらは預かっていきますね!いや~良いお取引が出来ましたよ!先方様も大喜びなさる事間違えなしです。また、同じようにお願いしたいもんですな!」

 丁度、居酒屋マコスの裏手から商人が帰ろうとしている所らしかった。見送りにはライザだけが顔を出している。

「ただいま、ライザ?」

 商人を呼んだのはライザなのか?ライザも高級品を買うほどの収入はないはずで、それをクリスもよく知っていた。

「あら、お帰りなさい。思ったより早かったのね?」

「早いのは何も異常が無い証拠だから悪くは無いだろ?」

「まぁ、ね……」

「いや~~!こちらのご主人様ですか?」

 ニコニコと笑顔で商人は愛想を振りまく。

「は?え、いえ、違いますよ?」

「おや、違われるのですか?」

「ええ。」

「いえね、とても良い商品を買い取れましたのでね。こちら様のご主人でしたらまた同じ様な物を頂きたいとお願いしようかと思っていたところなんですよ。」

 身なりの良い商人は事情を聞かなくてもペラペラと話しだす。

「はあ……何か買取に来たんですね?」

「ええ、そうなんです!見てください!こちらの様な立派な毛皮!あ、何かこの様な物、この村に他にありませんかね?いえね、ここまで来るとなると大分時間をとられましてね。物のついででは無いんですが、良い物がありましたら高値で買い取らせて頂きたいんですよ?こちらの毛皮も貴族方に大変人気な商品でしてね。外国からもわざわざこの様な物を探しに来られる方々もおられる位でして今回もその様な方達からのお使いで参ったわけでして。で、どうでしょう?あ、貴方の腰の剣なんて、かなりのお値打ち品ではありませんか?」
 
 毛皮……それはクリスが必死になって山で獲ってきた熊の物だろう。それを買取に?クリスにはその後もペラペラと勝手に話す商人の話は頭に入って来ない。

「ライザ………」

 商人の物だろう、立派な荷馬車に積まれた毛皮を目にしてクリスはそのままライザに向き直った。

「ええ、思いもよらない程良い値で引き取ってもらえたわ。ありがとう、ね。クリス。」

 悪びれもせずにニッコリと微笑む姿はいつものライザだ。

「………いえ……これは売りません。」

 なおもクリスの剣に食いついて来そうな商人を何とか振り切って、クリスは自宅へと入って行った。

 そう言えば、赤い石のついた指輪をライザがしている所も、クリスはこの頃見ていなかった…









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...