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2 カーリーの苛立ち 2

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 カーリーの父は傭兵タロス団の団長で、カーリーも女だてらに幼い頃から傭兵として徹底的に教育されてきた。そんじょそこらのゴロツキが束にかかっても敵わない程の腕前と度胸があると仲間内では評判だ。冷静で判断力もさる事ながら、どんな人間でも人間性を認められれば仲間にすると言う懐の深さが更に仲間からの人気を集めてもいる。

 そのカーリーが、あれは止めておけ、と言った唯一の人間がクリスの幼馴染のライザだった……

「でも、ライザが喜ぶんだよ。あいつ、綺麗なものが好きだろ?こんな村じゃドレスなんてたかが知れてるし、山で働く村人が着飾ってるのが領主に知られたら、また税を重くされかねないから…」

 だから小さな物でも、綺麗にキラキラとした物を送りたいんだ、とクリスはいつもの様に付け加えた。

 ブランカ村は国境付近の小さな村で、金鉱山を含めたこの地域一帯はここを収めている領主であるナイーガ伯爵の物だ。領主の庇護下にあるのならば、地代を払わなくてはいけないのも仕方のないこととは言え、村人の贅沢までを禁ずる様な領主であるからその心根はたかが知れるというものだった。

「だから、いつも言ってるだろう?クリス、あんたはこの村を出た方が良いよ。」

 前々から傭兵タロス団への勧誘をしているカーリーなのだが、クリスは一向に首を縦には振ってくれない。
 クリスの父である騎士譲りの剣の腕前と俊敏で柔軟な肉体は、あらゆる角度からの剣技をいつも見事に防いでしまう。傭兵ではなくても何処かの城勤めでさえ出来るのではないかと言う腕前なのだ。

「行かないよ。」

 カーリーのみならず、タロス傭兵団の団長でさえ一目置くというのにクリスはいつも断ってくる。

「まだあの子に、未練があるの?」

 心の底からクリスのお人好しには呆れ返りそうだが、その優しさがまたクリスの良いところでもあるのだろうとカーリーは理解もしている。

「未練とかじゃないな……うん。男と男の約束かな……」

 今まで一度も傭兵となる事に首を縦には振らず、その理由もはぐらかしてきたクリスなのだが、今日は一歩先まで話してくれた。

「男と男の約束……?」

 一瞬カーリーはキョトンとする。だって、クリスは男だからまだわかるのだが、ライザはどこからどう見ても女だ……

「あぁ…大事な約束をしてるからな。そう簡単には出ていけないさ…」
 
 ここをクリスが出て行ったら、今度はライザが本当に一人になる……クリスは心からそう思っている。

 カーリーに向かって言わなかったが、クリスの中には誰にも話した事がない大事な約束が未だに息づいていて離れない………




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