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130.優雅な遊び 1

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 ダバルにクソ野郎と言わしめるランクース王国第2王子バリート・ランクース。赤髪に緑色の瞳はダバルに似通ったところがあるものの性格はダバルにクソ野郎と言わしめるほど歪んだ人物だ。

 クソ野郎と言われるにはそれなりの理由がある。

「お前が生ゴミを抱きしめる趣味だったとはついぞ知らなかったぞ。」

 ダバルがランクースに帰国後父王にΩのイルンを娶る事を宣言した際に吐き捨てる様にしてバリートから投げかけられた言葉がこれだ。Ωをゴミと呼ぶこの兄王子の周囲の状況はいくら血が繋がっている実の兄と言えど虫唾が走る程のものだった。城に抱えるΩは常にボロ雑巾の様に扱われ王族を目にしただけでもその場で気を失ってしまう者さえいたほどだった。まさにΩは道具、それもαを産むための道具でしか無い。道具だって手入れくらいされるものだろうに、それさえも怠って然るべきとさえ謳われているほどだ。その筆頭に立っている様な存在がバリートなのだ。

 その兄王子に関してダバルは非常に警戒心を働かせている。イルンを正妻として娶ると宣言後必ず何か妨害してくると踏んでいたのだが、ダバルが祖国を出てゼス国に入った後もバリートからの明らかな干渉はなかったのである。無かったからこれで良いと言えないのがバリートを良く知るダバルなのだった。

「取り敢えず兄上の事は人間のクズと思ってくれて良い。」

 一国の王子をそんな風には呼べない事を百も承知のダバルも言葉を選ばないあたり相当なものなのだろう。

「俺が国に帰れば多分もうリーシュレイト殿下の為に動けなくなる。」

 それだけ自国であるのに緊張を要するのだ。

「だからこれだけは覚えとくといい。あのクズは魔法の能力だけは長けていてな。おいそれとランクースの上の者も手が出せないんだよ。ゼスの王太子の番殿の失踪の仕方がやつのやりそうな手法でな……もう一つ得意なのが魔物の召喚だよ。これで不要になったΩを処分したりしてる………忌々しいだろ?」

 国に帰れば一時も気が抜けないと言ったダバルの言葉が決して思い過ごしでないことがよくわかるものだ。

「…それでもイルンを守るのだろう?ダバル殿?」

「当たり前だろう?いざとなったら爆弾落として国を出るさ。番を守るαを舐めないでもらいたいものだ。」

「舐めてはいない。信頼しているのだ…イルンを頼んだ…」

 もしかしたらダバルが帰国する前にリリーは帰城が叶わないかもしれないのだから。イルンには幸せになってもらいたいのだ。

「頼まれなくても!武運を祈るぞ!」

「承知した。」

 他国の王子相手では下手に手が出せない。まずは本当にランクース王国第2王子が関わっているのならばランクース王国に入る前に抑えなければ…

「リリー、アーキン殿は執務室にいるそうです。」

 ダバルと別れた直後にリリーに起こされたヤリスが側に戻った様だ。

「分かった…しばらく部屋に誰も入れるな。」

「はっ…」

 まだ少女の域を出ないようなメリアンが少しでも穏やかに過ごせているようにと心の底で祈りつつ、リリーは執務室のドアを開ける。

「リリー?」

 中には召集をかけられたアーキンが訝しげな表情でリリーを待っていた。騎士団は全員騎士団本部にて待機を命じられた程の異常事態、一体何が起こっているのか。

「時間がないアーキン、今から言う事に動揺してくれても構わないが拒否だけはしてくれるなよ?」

「おい、一体何が?」

 まだ騎士達にも詳細は伏せられているようでアーキンは首を傾げる。

「メリアンが姿を消した。今から彼女の気配を負う。だから…」

 そこまで行ってリリーは自分の愛刀を持ち、抜き放つ。

「アーキン、少しだけ切られてくれ。」

「は?リリー?今、何て言った?」

 メリアンが、居なくなった?

 シュッ空を切る風の軽い音と共にアーキンの左腕に軽い痛みが走る。

「つっ…」

 なぜリリーが剣を抜くのか理解はできなかったアーキンだったが、自分の腕が切られた事はわかった。

「リリー?」

 切られたと言っても掠る程度のものだ。リリーが本気で切り付けてきたのなら今ごろアーキンは真っ二つである。切先が掠めた腕からは僅かに血が滲み出る。

「少し貰うぞ?」

 なんの説明もなしにリリーは切り付けたアーキンの左腕を掴み血の滲む傷に口をつける。

「っ…リリー?」

 僅かに疼く傷の痛みとリリーの温かで湿った唇の感触がアーキンにゾクリとした刺激を与えてくる。

「メリアンを守れなかったのは王家の落ち度だろう。すぐに連れ戻す。」

 何故、どうしてメリアンが居なくなったのか、リリーが切り付けてきたのは何だったのか、これからどうするのか、リリーは一言も説明なしに、アーキンの腕から舐め取った血を拭いもせずにアーキンの頬にそっと手を添える。

「時間が惜しい…説明は後だ。今からメリアンを追う。付いてきたければ来い!私が許す!」

 すまない、アーキン…

 リリーは謝罪の言葉を一言吐いて戸惑うアーキンの唇を自分から奪う。

「行くぞ?」

「馬は用意してあります。」

 その声に呼応するが如くにヤリスの声がかかった。















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