130 / 144
130.優雅な遊び 1
しおりを挟む
ダバルにクソ野郎と言わしめるランクース王国第2王子バリート・ランクース。赤髪に緑色の瞳はダバルに似通ったところがあるものの性格はダバルにクソ野郎と言わしめるほど歪んだ人物だ。
クソ野郎と言われるにはそれなりの理由がある。
「お前が生ゴミを抱きしめる趣味だったとはついぞ知らなかったぞ。」
ダバルがランクースに帰国後父王にΩのイルンを娶る事を宣言した際に吐き捨てる様にしてバリートから投げかけられた言葉がこれだ。Ωをゴミと呼ぶこの兄王子の周囲の状況はいくら血が繋がっている実の兄と言えど虫唾が走る程のものだった。城に抱えるΩは常にボロ雑巾の様に扱われ王族を目にしただけでもその場で気を失ってしまう者さえいたほどだった。まさにΩは道具、それもαを産むための道具でしか無い。道具だって手入れくらいされるものだろうに、それさえも怠って然るべきとさえ謳われているほどだ。その筆頭に立っている様な存在がバリートなのだ。
その兄王子に関してダバルは非常に警戒心を働かせている。イルンを正妻として娶ると宣言後必ず何か妨害してくると踏んでいたのだが、ダバルが祖国を出てゼス国に入った後もバリートからの明らかな干渉はなかったのである。無かったからこれで良いと言えないのがバリートを良く知るダバルなのだった。
「取り敢えず兄上の事は人間のクズと思ってくれて良い。」
一国の王子をそんな風には呼べない事を百も承知のダバルも言葉を選ばないあたり相当なものなのだろう。
「俺が国に帰れば多分もうリーシュレイト殿下の為に動けなくなる。」
それだけ自国であるのに緊張を要するのだ。
「だからこれだけは覚えとくといい。あのクズは魔法の能力だけは長けていてな。おいそれとランクースの上の者も手が出せないんだよ。ゼスの王太子の番殿の失踪の仕方がやつのやりそうな手法でな……もう一つ得意なのが魔物の召喚だよ。これで不要になったΩを処分したりしてる………忌々しいだろ?」
国に帰れば一時も気が抜けないと言ったダバルの言葉が決して思い過ごしでないことがよくわかるものだ。
「…それでもイルンを守るのだろう?ダバル殿?」
「当たり前だろう?いざとなったら爆弾落として国を出るさ。番を守るαを舐めないでもらいたいものだ。」
「舐めてはいない。信頼しているのだ…イルンを頼んだ…」
もしかしたらダバルが帰国する前にリリーは帰城が叶わないかもしれないのだから。イルンには幸せになってもらいたいのだ。
「頼まれなくても!武運を祈るぞ!」
「承知した。」
他国の王子相手では下手に手が出せない。まずは本当にランクース王国第2王子が関わっているのならばランクース王国に入る前に抑えなければ…
「リリー、アーキン殿は執務室にいるそうです。」
ダバルと別れた直後にリリーに起こされたヤリスが側に戻った様だ。
「分かった…しばらく部屋に誰も入れるな。」
「はっ…」
まだ少女の域を出ないようなメリアンが少しでも穏やかに過ごせているようにと心の底で祈りつつ、リリーは執務室のドアを開ける。
「リリー?」
中には召集をかけられたアーキンが訝しげな表情でリリーを待っていた。騎士団は全員騎士団本部にて待機を命じられた程の異常事態、一体何が起こっているのか。
「時間がないアーキン、今から言う事に動揺してくれても構わないが拒否だけはしてくれるなよ?」
「おい、一体何が?」
まだ騎士達にも詳細は伏せられているようでアーキンは首を傾げる。
「メリアンが姿を消した。今から彼女の気配を負う。だから…」
そこまで行ってリリーは自分の愛刀を持ち、抜き放つ。
「アーキン、少しだけ切られてくれ。」
「は?リリー?今、何て言った?」
メリアンが、居なくなった?
シュッ空を切る風の軽い音と共にアーキンの左腕に軽い痛みが走る。
「つっ…」
なぜリリーが剣を抜くのか理解はできなかったアーキンだったが、自分の腕が切られた事はわかった。
「リリー?」
切られたと言っても掠る程度のものだ。リリーが本気で切り付けてきたのなら今ごろアーキンは真っ二つである。切先が掠めた腕からは僅かに血が滲み出る。
「少し貰うぞ?」
なんの説明もなしにリリーは切り付けたアーキンの左腕を掴み血の滲む傷に口をつける。
「っ…リリー?」
僅かに疼く傷の痛みとリリーの温かで湿った唇の感触がアーキンにゾクリとした刺激を与えてくる。
「メリアンを守れなかったのは王家の落ち度だろう。すぐに連れ戻す。」
何故、どうしてメリアンが居なくなったのか、リリーが切り付けてきたのは何だったのか、これからどうするのか、リリーは一言も説明なしに、アーキンの腕から舐め取った血を拭いもせずにアーキンの頬にそっと手を添える。
「時間が惜しい…説明は後だ。今からメリアンを追う。付いてきたければ来い!私が許す!」
すまない、アーキン…
リリーは謝罪の言葉を一言吐いて戸惑うアーキンの唇を自分から奪う。
「行くぞ?」
「馬は用意してあります。」
その声に呼応するが如くにヤリスの声がかかった。
クソ野郎と言われるにはそれなりの理由がある。
「お前が生ゴミを抱きしめる趣味だったとはついぞ知らなかったぞ。」
ダバルがランクースに帰国後父王にΩのイルンを娶る事を宣言した際に吐き捨てる様にしてバリートから投げかけられた言葉がこれだ。Ωをゴミと呼ぶこの兄王子の周囲の状況はいくら血が繋がっている実の兄と言えど虫唾が走る程のものだった。城に抱えるΩは常にボロ雑巾の様に扱われ王族を目にしただけでもその場で気を失ってしまう者さえいたほどだった。まさにΩは道具、それもαを産むための道具でしか無い。道具だって手入れくらいされるものだろうに、それさえも怠って然るべきとさえ謳われているほどだ。その筆頭に立っている様な存在がバリートなのだ。
その兄王子に関してダバルは非常に警戒心を働かせている。イルンを正妻として娶ると宣言後必ず何か妨害してくると踏んでいたのだが、ダバルが祖国を出てゼス国に入った後もバリートからの明らかな干渉はなかったのである。無かったからこれで良いと言えないのがバリートを良く知るダバルなのだった。
「取り敢えず兄上の事は人間のクズと思ってくれて良い。」
一国の王子をそんな風には呼べない事を百も承知のダバルも言葉を選ばないあたり相当なものなのだろう。
「俺が国に帰れば多分もうリーシュレイト殿下の為に動けなくなる。」
それだけ自国であるのに緊張を要するのだ。
「だからこれだけは覚えとくといい。あのクズは魔法の能力だけは長けていてな。おいそれとランクースの上の者も手が出せないんだよ。ゼスの王太子の番殿の失踪の仕方がやつのやりそうな手法でな……もう一つ得意なのが魔物の召喚だよ。これで不要になったΩを処分したりしてる………忌々しいだろ?」
国に帰れば一時も気が抜けないと言ったダバルの言葉が決して思い過ごしでないことがよくわかるものだ。
「…それでもイルンを守るのだろう?ダバル殿?」
「当たり前だろう?いざとなったら爆弾落として国を出るさ。番を守るαを舐めないでもらいたいものだ。」
「舐めてはいない。信頼しているのだ…イルンを頼んだ…」
もしかしたらダバルが帰国する前にリリーは帰城が叶わないかもしれないのだから。イルンには幸せになってもらいたいのだ。
「頼まれなくても!武運を祈るぞ!」
「承知した。」
他国の王子相手では下手に手が出せない。まずは本当にランクース王国第2王子が関わっているのならばランクース王国に入る前に抑えなければ…
「リリー、アーキン殿は執務室にいるそうです。」
ダバルと別れた直後にリリーに起こされたヤリスが側に戻った様だ。
「分かった…しばらく部屋に誰も入れるな。」
「はっ…」
まだ少女の域を出ないようなメリアンが少しでも穏やかに過ごせているようにと心の底で祈りつつ、リリーは執務室のドアを開ける。
「リリー?」
中には召集をかけられたアーキンが訝しげな表情でリリーを待っていた。騎士団は全員騎士団本部にて待機を命じられた程の異常事態、一体何が起こっているのか。
「時間がないアーキン、今から言う事に動揺してくれても構わないが拒否だけはしてくれるなよ?」
「おい、一体何が?」
まだ騎士達にも詳細は伏せられているようでアーキンは首を傾げる。
「メリアンが姿を消した。今から彼女の気配を負う。だから…」
そこまで行ってリリーは自分の愛刀を持ち、抜き放つ。
「アーキン、少しだけ切られてくれ。」
「は?リリー?今、何て言った?」
メリアンが、居なくなった?
シュッ空を切る風の軽い音と共にアーキンの左腕に軽い痛みが走る。
「つっ…」
なぜリリーが剣を抜くのか理解はできなかったアーキンだったが、自分の腕が切られた事はわかった。
「リリー?」
切られたと言っても掠る程度のものだ。リリーが本気で切り付けてきたのなら今ごろアーキンは真っ二つである。切先が掠めた腕からは僅かに血が滲み出る。
「少し貰うぞ?」
なんの説明もなしにリリーは切り付けたアーキンの左腕を掴み血の滲む傷に口をつける。
「っ…リリー?」
僅かに疼く傷の痛みとリリーの温かで湿った唇の感触がアーキンにゾクリとした刺激を与えてくる。
「メリアンを守れなかったのは王家の落ち度だろう。すぐに連れ戻す。」
何故、どうしてメリアンが居なくなったのか、リリーが切り付けてきたのは何だったのか、これからどうするのか、リリーは一言も説明なしに、アーキンの腕から舐め取った血を拭いもせずにアーキンの頬にそっと手を添える。
「時間が惜しい…説明は後だ。今からメリアンを追う。付いてきたければ来い!私が許す!」
すまない、アーキン…
リリーは謝罪の言葉を一言吐いて戸惑うアーキンの唇を自分から奪う。
「行くぞ?」
「馬は用意してあります。」
その声に呼応するが如くにヤリスの声がかかった。
10
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる
古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。
【完結】酔った勢いで子供が出来た?!しかも相手は嫌いなアイツ?!
愛早さくら
BL
酔って記憶ぶっ飛ばして朝起きたら一夜の過ちどころか妊娠までしていた。
は?!!?なんで?!!?!って言うか、相手って……恐る恐る隣を見ると嫌っていたはずの相手。
えー……なんで…………冷や汗ダラダラ
焦るリティは、しかしだからと言ってお腹にいる子供をなかったことには出来なかった。
みたいなところから始まる、嫌い合ってたはずなのに本当は……?!
という感じの割とよくあるBL話を、自分なりに書いてみたいと思います。
・いつも通りの世界のお話ではありますが、今度は一応血縁ではありません。
(だけど舞台はナウラティス。)
・相変わらず貴族とかそういう。(でも流石に王族ではない。)
・男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。
・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。
・頭に☆があるお話は残酷な描写、とまではいかずとも、たとえ多少であっても流血表現などがあります。
・言い訳というか解説というかは近況ボードの「突発短編2」のコメント欄からどうぞ。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる