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129.消えた小さな花 5
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幼い頃に犯した過ち…リリーの感情が落ち着いた当時、その時の状況を詳しく調べられた。リリー自身にしか感じられなかったことまで事細かに調書が取られたのだ。子供であったリリーはそれらの質問に拒否する事など考えられず聞かれたままを素直に答えている。その全てが王家管理下の元まだ残っているはずである。その中にリリーの魔力発動時鈴の音どころか異音を生じる事の記載など何も無いだろう。
が、今回僅かながらにも音があった。普段聞こえるものと明らかに違っていたから違和感があったのだろう。もしかしたら耳という器官で聴取していたのでは無いのかもしれない。聞こえ方はどうでもいいがそこが決定的に違ったのは確かな事であった。
「それが何の証拠になりますの?幼き時の証言など何の役にも立ちませんでしょうに?」
「妃よ…その場には私もいたのだが信じれぬか?」
幼い頃のリリーの失態はゼス国王の目の前で行われたものだ。
「ふむ。確かに其方よりも魔力量の多い私にも聴こえなんだ……」
「ま、まあ!陛下を信じれないなんてそんなことはございませぬ…ただ、この場合1番疑わしいのはリーシュレイト様だと言うことは確かですわ。」
「証拠が無いのだ。後宮にもあれの魔力の残滓はない…これでもまだ言うか?」
「……口惜しい事ですわ…………リーシュレイト様がどこぞで婚姻でも結べばもうそのお姿を見る事もなかったでしょうに…!」
忌々しげにリリーを睨みつけつつ王妃は小さくつぶやくと御前失礼します、と謁見室を退室していった。
「……ふぅ…追えるか?」
国王は深いため息をつき目線でリリーに問う。
「いえ、陛下の言われる通り後宮には陛下と王太子殿下の魔力しか残っておりませんでしょう。ここからでは相手を追う事は不可能にございます。が…」
僅かにでもメリアンの気配を追えるのならば…
「メリアン嬢の気配ではどうか?」
「魔力は無理ですね。結界が仇となっておりましょう。メリアン嬢の魔力はここではかき消されてしまうので私には判別できませぬ。」
「仕方ない……まだ遠くには行って無いだろう…捜索隊を出す…!」
国王の一言で近衞騎士、対魔法騎士合同で捜索隊が結成されることとなる。総司令はメリアンの番の王太子だ。城外に出たと言っても少女の足での移動、魔法が使われていなければそう遠くには行っていないはずである。
リリーは対魔法騎士団をまとめ上げねばならない。この度は自分の嫌疑はやや晴れたとはいえ全くの潔白とは見られないかもしれないのだから。
「アーキンはどこか?」
「リリー?対魔法騎士団は騎士団本部にて全員待機です。」
「では今すぐに私の元へ。全隊には警備のものを残し、捜索の準備をする様に伝えろ。ヤリスを起こした…ここに来る様に言え。」
「承知いたしました。」
目の前でノルーが消える。緊急事態なのだ、王が許可している事はとことん利用するらしい。
一つだけ手がないわけでは無い。もし、メリアンの内側に術をしかけてなんらかの条件の元発動させたのならば相当な魔力を要する手練れだと思われる。正攻法では追いつけないかもしれないし、既に追手に対する手を打たれていると考えるのが常套だ。ならばこちらも裏の手を使う。
「お困りですか?元婚約者殿?」
「…ダバル殿?」
すっかりとイルンの虜になっている様なランクース王国第4王子ダバルが従者にも見えそうな出立でリリーを待ち構えていた。
「ふ~~~ん?ご尊顔はこんなに素晴らしかったのか…惜しいことをしたなぁ!」
絶対に本心ではない軽すぎる社交辞令を口にしてヒラヒラと手を振っているではないか。
「この様な夜更けに一体何を?」
もちろんダバルに行動規制はかけられていない。王族の私室にあたる様な所でなければ誰にも咎められる様な事もないのだろうが。
「いや、城内がやけに煩くてね…イルンが起きないうちに見回ろうかと思ったんだよ。」
やけに煩いか……知っているな…?
穏やかそうな表情からはあいかわらず何を考えているのかわからない男ではある。
「ダーウィン卿が必死の形相で城の中に駆け込む物だから元婚約者殿の身に何かあったのかと危惧したが、問題なさそうだな?」
「…その元婚約者というのはやめていただきたい。」
「失礼した。では、リーシュレイト殿下、忠告だ…」
ヘラヘラ笑っていた様なダバルがスッと表情を引き締める。
「俺はこれから全力でイルンを護りに入る。ここにいる時よりも国に帰ってからだ。分かるか?」
「…………」
ランクース王国はΩ蔑視の国だからだろう…肯きのみで答えた。
「兄上が動いている気配がする…だから俺も全力なのだ。」
「何方だ?」
「王位継承権第2位のクソ野郎だよ……」
ランクース王国第2王子…つい先程リリーに求婚を求める書状を送って来た送り主だ。
「それはそれは………」
きな臭い事この上ない…
が、今回僅かながらにも音があった。普段聞こえるものと明らかに違っていたから違和感があったのだろう。もしかしたら耳という器官で聴取していたのでは無いのかもしれない。聞こえ方はどうでもいいがそこが決定的に違ったのは確かな事であった。
「それが何の証拠になりますの?幼き時の証言など何の役にも立ちませんでしょうに?」
「妃よ…その場には私もいたのだが信じれぬか?」
幼い頃のリリーの失態はゼス国王の目の前で行われたものだ。
「ふむ。確かに其方よりも魔力量の多い私にも聴こえなんだ……」
「ま、まあ!陛下を信じれないなんてそんなことはございませぬ…ただ、この場合1番疑わしいのはリーシュレイト様だと言うことは確かですわ。」
「証拠が無いのだ。後宮にもあれの魔力の残滓はない…これでもまだ言うか?」
「……口惜しい事ですわ…………リーシュレイト様がどこぞで婚姻でも結べばもうそのお姿を見る事もなかったでしょうに…!」
忌々しげにリリーを睨みつけつつ王妃は小さくつぶやくと御前失礼します、と謁見室を退室していった。
「……ふぅ…追えるか?」
国王は深いため息をつき目線でリリーに問う。
「いえ、陛下の言われる通り後宮には陛下と王太子殿下の魔力しか残っておりませんでしょう。ここからでは相手を追う事は不可能にございます。が…」
僅かにでもメリアンの気配を追えるのならば…
「メリアン嬢の気配ではどうか?」
「魔力は無理ですね。結界が仇となっておりましょう。メリアン嬢の魔力はここではかき消されてしまうので私には判別できませぬ。」
「仕方ない……まだ遠くには行って無いだろう…捜索隊を出す…!」
国王の一言で近衞騎士、対魔法騎士合同で捜索隊が結成されることとなる。総司令はメリアンの番の王太子だ。城外に出たと言っても少女の足での移動、魔法が使われていなければそう遠くには行っていないはずである。
リリーは対魔法騎士団をまとめ上げねばならない。この度は自分の嫌疑はやや晴れたとはいえ全くの潔白とは見られないかもしれないのだから。
「アーキンはどこか?」
「リリー?対魔法騎士団は騎士団本部にて全員待機です。」
「では今すぐに私の元へ。全隊には警備のものを残し、捜索の準備をする様に伝えろ。ヤリスを起こした…ここに来る様に言え。」
「承知いたしました。」
目の前でノルーが消える。緊急事態なのだ、王が許可している事はとことん利用するらしい。
一つだけ手がないわけでは無い。もし、メリアンの内側に術をしかけてなんらかの条件の元発動させたのならば相当な魔力を要する手練れだと思われる。正攻法では追いつけないかもしれないし、既に追手に対する手を打たれていると考えるのが常套だ。ならばこちらも裏の手を使う。
「お困りですか?元婚約者殿?」
「…ダバル殿?」
すっかりとイルンの虜になっている様なランクース王国第4王子ダバルが従者にも見えそうな出立でリリーを待ち構えていた。
「ふ~~~ん?ご尊顔はこんなに素晴らしかったのか…惜しいことをしたなぁ!」
絶対に本心ではない軽すぎる社交辞令を口にしてヒラヒラと手を振っているではないか。
「この様な夜更けに一体何を?」
もちろんダバルに行動規制はかけられていない。王族の私室にあたる様な所でなければ誰にも咎められる様な事もないのだろうが。
「いや、城内がやけに煩くてね…イルンが起きないうちに見回ろうかと思ったんだよ。」
やけに煩いか……知っているな…?
穏やかそうな表情からはあいかわらず何を考えているのかわからない男ではある。
「ダーウィン卿が必死の形相で城の中に駆け込む物だから元婚約者殿の身に何かあったのかと危惧したが、問題なさそうだな?」
「…その元婚約者というのはやめていただきたい。」
「失礼した。では、リーシュレイト殿下、忠告だ…」
ヘラヘラ笑っていた様なダバルがスッと表情を引き締める。
「俺はこれから全力でイルンを護りに入る。ここにいる時よりも国に帰ってからだ。分かるか?」
「…………」
ランクース王国はΩ蔑視の国だからだろう…肯きのみで答えた。
「兄上が動いている気配がする…だから俺も全力なのだ。」
「何方だ?」
「王位継承権第2位のクソ野郎だよ……」
ランクース王国第2王子…つい先程リリーに求婚を求める書状を送って来た送り主だ。
「それはそれは………」
きな臭い事この上ない…
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