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128.消えた小さな花 4
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「恐れながら王太子殿下…一つの仮説にございます。」
「仮説か……そもそも大臣という主要な権威者が集まって何をするかと言えば…誰ぞ、メリアンの行方でも見当はついたのか?」
兄上…声に覇気がない……
自分のΩを失った者の虚脱感はミルカ・セロントの件で嫌と言うほど見ている。王太子も今は計り知れないほどの焦燥感と恐怖とに苛まされているのだろう。
「殿下!まだ行方は掴めてはおりませぬ…!しかし!リーシュレイト様お一人しか異変にお気づきにならないことの方がおかしいのです!」
「だからリーシュレイト様が首謀者だと?」
「それはあまりにも答えを出すのが性急すぎでは?」
ムーブラン侯爵の後ろから疑問の声が上がりはじめる。
「いいえ!ですから私はその者を王城に留めておく事が嫌だったのです。」
突然に謁見の間が開かれ、夜半にも拘らず王妃が入室してくるではないか。
バッと一斉に王妃に対し一同は礼を取る。リリーも例外ではなく、自分の目の前を通り過ぎるまで礼を取り続けるのだ。
「陛下。リーシュレイト様もΩなのです。騎士の真似事などお遊びは辞めさせなさいませ。早々に身分の釣り合う者の所に嫁がれるのがよろしいでしょう。」
ゆっくりと王座の隣に王妃は腰を下ろした。
「恐れながら王妃殿下…リーシュレイト様はこの国随一と言う程の剣の腕前にございます。また率いておられる騎士団も貴重なΩの保護に貢献する素晴らしい働きを見せておられますゆえ…」
「素晴らしい…?Ω一人拾ってくるのに貴重なαの騎士を数十人も使って?不経済ですわね?何処の馬の骨かもわからないΩを我が国に増やす様でしたらリーシュレイト様が嫁ぎ先でお子を儲けた方がずっと有意義では?」
「…………」
「…………」
これには反論の声が上がらない。リリーも貴重なΩの一人。王妃の発言は一理あると言えばあるのだから。
「妃よ…今はそれの事を話し合っているのでは無い。番だ…」
王太子の番メリアンを探し出す事、これが急務である。
「まさか陛下?疑いの晴れぬ者をお使いになりますまいな?何と言っても大切な王太子の番殿の捜索に…こんな事ならばもっとリーシュレイト様の嫁ぎ先の選択をしましたのに。」
王妃といえどもリリーの母親でも母親代わりでもない王妃はリリーとサシュの養育に関して潔いほど手は出さなかった。それよりもいない存在として徹底的に無視し続けて来た節がある程だ。嫁ぎ先云々などと言っても全く手出しも口出しもしなかっただろう。
「それでしたら!まだお話を頂いております!」
「!?」
何を話し出すかと思いきや、なぜリリーの嫁ぎ先の話題になるのか…?
「ほう?どこじゃ?」
まんざらでも無い王妃の態度に気を良くしたムーブラン侯爵が先を続ける。
「はい!!ランクース王国の第2王子殿下にございます!!」
また、ランクース……?
「ふ……ん?書状は?」
「私目が預かっております!」
「では後で持って参れ。」
嫁ぎ先の話題が出たのに王妃は何故だか不服そうだ。以前のランクース第4王子よりも身分の高い第2王子からの申し入れというのが気に入らないのだろう。
「よろしかった事。リーシュレイト様?引き取り先がありましたな?」
バンッ…………
「今は、私の番の捜索が先では無いのですか?母上……」
地を這うような低い声…王太子は本気で怒りを覚えているようであった。
「そうじゃ…もちろん可愛い其方の番殿の捜索が先であろう。の?ムーブラン侯爵?」
「勿論にございます!それに合わせてリーシュレイト様のご成婚につきましてもお考えくださいませ!」
それどころでは無いだろうに、ムーブラン侯爵はめげずに売り込む。
「其方の意見を聞こう。」
ゼス国王はピッとリリーを指差す。王妃はそれだけでもあからさまに表情を歪めるのだ。
「はい。まずは私は誰とも違う気はございません。ですのでムーブラン侯爵の御助力も必要としません。そして、王太子殿下の番殿メリアン嬢は誰の目をも掻い潜り一人で城を抜けた……彼女の力量から不可能なことがわかりますれば、あとは………内から操られていたのやもしれません……」
リリーにとっては1番いいたく無いことだっただろう……
ギリィとノルーの握りしめた手が音を出す。かつて幼い時にリリー自身が城の人々に使った技だ。同様の使い手がいればの話だが、これならば外部から手を出さなくてもここから連れ出せる…
「あら、あらあら、まぁ大変でしてよ?陛下。リーシュレイト様がご自分の責を認められてしまわれたわ。」
コロコロコロコロ、実に楽しそうに王妃は笑う。
「いいえ、残念ですが私ではありません。」
「おや、人を操るのは其方の十八番であろう?」
「左様ですが…一つだけ違いがございます。私の術の発動には、音は付き纏いません。」
「仮説か……そもそも大臣という主要な権威者が集まって何をするかと言えば…誰ぞ、メリアンの行方でも見当はついたのか?」
兄上…声に覇気がない……
自分のΩを失った者の虚脱感はミルカ・セロントの件で嫌と言うほど見ている。王太子も今は計り知れないほどの焦燥感と恐怖とに苛まされているのだろう。
「殿下!まだ行方は掴めてはおりませぬ…!しかし!リーシュレイト様お一人しか異変にお気づきにならないことの方がおかしいのです!」
「だからリーシュレイト様が首謀者だと?」
「それはあまりにも答えを出すのが性急すぎでは?」
ムーブラン侯爵の後ろから疑問の声が上がりはじめる。
「いいえ!ですから私はその者を王城に留めておく事が嫌だったのです。」
突然に謁見の間が開かれ、夜半にも拘らず王妃が入室してくるではないか。
バッと一斉に王妃に対し一同は礼を取る。リリーも例外ではなく、自分の目の前を通り過ぎるまで礼を取り続けるのだ。
「陛下。リーシュレイト様もΩなのです。騎士の真似事などお遊びは辞めさせなさいませ。早々に身分の釣り合う者の所に嫁がれるのがよろしいでしょう。」
ゆっくりと王座の隣に王妃は腰を下ろした。
「恐れながら王妃殿下…リーシュレイト様はこの国随一と言う程の剣の腕前にございます。また率いておられる騎士団も貴重なΩの保護に貢献する素晴らしい働きを見せておられますゆえ…」
「素晴らしい…?Ω一人拾ってくるのに貴重なαの騎士を数十人も使って?不経済ですわね?何処の馬の骨かもわからないΩを我が国に増やす様でしたらリーシュレイト様が嫁ぎ先でお子を儲けた方がずっと有意義では?」
「…………」
「…………」
これには反論の声が上がらない。リリーも貴重なΩの一人。王妃の発言は一理あると言えばあるのだから。
「妃よ…今はそれの事を話し合っているのでは無い。番だ…」
王太子の番メリアンを探し出す事、これが急務である。
「まさか陛下?疑いの晴れぬ者をお使いになりますまいな?何と言っても大切な王太子の番殿の捜索に…こんな事ならばもっとリーシュレイト様の嫁ぎ先の選択をしましたのに。」
王妃といえどもリリーの母親でも母親代わりでもない王妃はリリーとサシュの養育に関して潔いほど手は出さなかった。それよりもいない存在として徹底的に無視し続けて来た節がある程だ。嫁ぎ先云々などと言っても全く手出しも口出しもしなかっただろう。
「それでしたら!まだお話を頂いております!」
「!?」
何を話し出すかと思いきや、なぜリリーの嫁ぎ先の話題になるのか…?
「ほう?どこじゃ?」
まんざらでも無い王妃の態度に気を良くしたムーブラン侯爵が先を続ける。
「はい!!ランクース王国の第2王子殿下にございます!!」
また、ランクース……?
「ふ……ん?書状は?」
「私目が預かっております!」
「では後で持って参れ。」
嫁ぎ先の話題が出たのに王妃は何故だか不服そうだ。以前のランクース第4王子よりも身分の高い第2王子からの申し入れというのが気に入らないのだろう。
「よろしかった事。リーシュレイト様?引き取り先がありましたな?」
バンッ…………
「今は、私の番の捜索が先では無いのですか?母上……」
地を這うような低い声…王太子は本気で怒りを覚えているようであった。
「そうじゃ…もちろん可愛い其方の番殿の捜索が先であろう。の?ムーブラン侯爵?」
「勿論にございます!それに合わせてリーシュレイト様のご成婚につきましてもお考えくださいませ!」
それどころでは無いだろうに、ムーブラン侯爵はめげずに売り込む。
「其方の意見を聞こう。」
ゼス国王はピッとリリーを指差す。王妃はそれだけでもあからさまに表情を歪めるのだ。
「はい。まずは私は誰とも違う気はございません。ですのでムーブラン侯爵の御助力も必要としません。そして、王太子殿下の番殿メリアン嬢は誰の目をも掻い潜り一人で城を抜けた……彼女の力量から不可能なことがわかりますれば、あとは………内から操られていたのやもしれません……」
リリーにとっては1番いいたく無いことだっただろう……
ギリィとノルーの握りしめた手が音を出す。かつて幼い時にリリー自身が城の人々に使った技だ。同様の使い手がいればの話だが、これならば外部から手を出さなくてもここから連れ出せる…
「あら、あらあら、まぁ大変でしてよ?陛下。リーシュレイト様がご自分の責を認められてしまわれたわ。」
コロコロコロコロ、実に楽しそうに王妃は笑う。
「いいえ、残念ですが私ではありません。」
「おや、人を操るのは其方の十八番であろう?」
「左様ですが…一つだけ違いがございます。私の術の発動には、音は付き纏いません。」
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