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116.見出された花 8
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「やってくれますね………」
この状況には絶句しかないのだが、ランクース国の王子がゼス国のΩを本気で所望している、それも王族との婚約を蹴ってでも自分で見つけた番との結婚を望んでいる、と言うアピールには大成功を収めている。Ωに対して理解があるゼス国国民からはリリーとの婚約が成立しなかったとしても、ダバルはこれでゼス国国民からは絶大な支持が得られるだろう。
ダバルはこれをゼス国城内でも見せつける気なのだ。リリーとの婚約を白紙に戻してしまうのはこれだけ番同士で惹かれあっていては最早どうしようもなかったのだと言う事をリリーとの婚約を推し進めている貴族達に見せつける為にも。そして心からの謝罪を込めてランクース国のΩをゼス国へと献上する。αを産み落とせる貴重なΩだ。ゼス国とて王子とも認めず世間に公表もしていないリリーの婚約が流れるだけでこの対応ならば申し分ないはずである。
背筋を伸ばし堂々と闊歩するダバルの姿は飄々と城内を歩き回っていた姿からは想像もつかない程に気品に溢れ、王族である事を誰もが認めざるを得ない貫禄さえもあった。
「流石だな…」
ダバルは全く食えない男である。王族である事に未練のカケラも無いだろうにそれでもその価値を最大限に活かす事に長けているのだから。
「もったいない事だ…」
「何がです?リリー?」
大通りを一挙に見渡せる塔の上からパレードというには少な過ぎるダバル一行の行進をリリーはノルーと見守っていた。
「ダバル殿が上ならば……」
そう…政治的にももう少しだけ強い立場にいたのならばハウラの様な子を取り上げられる様な悲惨なΩはもっと減っていただろうに…
「今言っても詮無い事ですけれどね…」
「あぁ、こればかりはな。」
ゆっくり進むダバル一行は徐々にリリーの視界からも遠ざかる。
「さあ、リリー。私達も参りますか?他ならぬ貴方様の婚約者候補であった方の来城ですし、形式的にもお迎えしないわけには行けませんからね。」
「分かっているよ。」
今日、王都は対魔法騎士団が警備を担当している。総司令となるリリーはまた城に戻らなくてはならないが、何となくここにいる間に探してしまう。気配を読もうと思えば直ぐにでも見つける事ができるであろう、自分の番を…ここまで吹いてくる風の中にもアーキンの香りが紛れていないか…
番を得る為に浮かれて常ならぬ自分の姿を曝け出すのは何もダバルだけじゃない様だ。
「全く…厄介なものだ…」
そんな変化も嫌じゃないと思ってしまうからもう重症だろう…
「ほら、これも美味しそうだ…お食べ…」
「あ、本当!美味しいです!」
誰かヤツの目を潰してはくれないか………
国を上げてのランクース国王子の歓待の宴の席にて、当のダバルは主催者を一切気にしない態度を貫いている。そして気品あるランクース国の正装に合う様に着飾らされ、髪も肌も整えられて天使の様な装いにされたイルンはビッタリと隣に張り付くダバルから用意されたご馳走をあれもこれもと口に運んでもらっていたりする。客あしらいならばどんとこいと言わんばかりのイルンは一向にダバルの行動を意に介さず嬉しそうに食事をしているものの、本日の歓待の席に招かれている貴族達の視線が右往左往と泳いでいた……これでもまだΩに寛容で理解あるゼス国だから生暖かい視線で見られるだけで済んだとも言えるのだ。ランクース国と親交が深い外務大臣であるムーブラン侯爵でさえ苦虫を潰したような表情でダバルの事を見つめてしまっている程にはお行儀良い行いとは言い難い。
まるでこの世の者など目に入らない様だな。
番に夢中になっている演技、でもないのだろうが、は功を奏していて参加している大多数の者達が生暖かくも祝福している雰囲気であった。本人同士は言わずもがなで自分達の空気の中にいるし、食事の席に珍しく呼ばれて参席しているリリーの立場は非常に気まずいのだが…
番しか目に入らない。これを実現するには致し方ない行動であったのだろう。
「なんとご熱心な事でしょうな?」
「ええ…微笑ましい限りですね…」
「私達などあの方の眼中にはない様ですな。」
チラチラと感想の声が上がるのだがそれもダバルに届いているのかさえも疑わしい。
「ダバル殿下…その可愛らしい方とはどちらで出逢われたのですか?」
「うん?」
「あ、ダバル!あれも食べてみたい!」
「あぁ、わかったよ、イルン。取ってあげよう。美味しいか?」
「うん!」
言葉使いは置いておいて、イルンのテーブルマナーの習得は間に合った様である。
参加者の質問さえも遮って食事を続けるあたりイルンも肝が据わっているのかもしれない。
「あぁ、悪かったね。どこで私の番とあったかだっけ?あれは…そう。」
祭り騒ぎの様な城下に見物がてら出た際に、丁度買い物に来ていたイルンと会った。両者すぐに番であると気がついて、ダバルの方から結婚を申し込む運びとなったと言う事だ。
これを話しながらもダバルの視線はイルンに注がれている。徹底した番重視の食事会であった…
この状況には絶句しかないのだが、ランクース国の王子がゼス国のΩを本気で所望している、それも王族との婚約を蹴ってでも自分で見つけた番との結婚を望んでいる、と言うアピールには大成功を収めている。Ωに対して理解があるゼス国国民からはリリーとの婚約が成立しなかったとしても、ダバルはこれでゼス国国民からは絶大な支持が得られるだろう。
ダバルはこれをゼス国城内でも見せつける気なのだ。リリーとの婚約を白紙に戻してしまうのはこれだけ番同士で惹かれあっていては最早どうしようもなかったのだと言う事をリリーとの婚約を推し進めている貴族達に見せつける為にも。そして心からの謝罪を込めてランクース国のΩをゼス国へと献上する。αを産み落とせる貴重なΩだ。ゼス国とて王子とも認めず世間に公表もしていないリリーの婚約が流れるだけでこの対応ならば申し分ないはずである。
背筋を伸ばし堂々と闊歩するダバルの姿は飄々と城内を歩き回っていた姿からは想像もつかない程に気品に溢れ、王族である事を誰もが認めざるを得ない貫禄さえもあった。
「流石だな…」
ダバルは全く食えない男である。王族である事に未練のカケラも無いだろうにそれでもその価値を最大限に活かす事に長けているのだから。
「もったいない事だ…」
「何がです?リリー?」
大通りを一挙に見渡せる塔の上からパレードというには少な過ぎるダバル一行の行進をリリーはノルーと見守っていた。
「ダバル殿が上ならば……」
そう…政治的にももう少しだけ強い立場にいたのならばハウラの様な子を取り上げられる様な悲惨なΩはもっと減っていただろうに…
「今言っても詮無い事ですけれどね…」
「あぁ、こればかりはな。」
ゆっくり進むダバル一行は徐々にリリーの視界からも遠ざかる。
「さあ、リリー。私達も参りますか?他ならぬ貴方様の婚約者候補であった方の来城ですし、形式的にもお迎えしないわけには行けませんからね。」
「分かっているよ。」
今日、王都は対魔法騎士団が警備を担当している。総司令となるリリーはまた城に戻らなくてはならないが、何となくここにいる間に探してしまう。気配を読もうと思えば直ぐにでも見つける事ができるであろう、自分の番を…ここまで吹いてくる風の中にもアーキンの香りが紛れていないか…
番を得る為に浮かれて常ならぬ自分の姿を曝け出すのは何もダバルだけじゃない様だ。
「全く…厄介なものだ…」
そんな変化も嫌じゃないと思ってしまうからもう重症だろう…
「ほら、これも美味しそうだ…お食べ…」
「あ、本当!美味しいです!」
誰かヤツの目を潰してはくれないか………
国を上げてのランクース国王子の歓待の宴の席にて、当のダバルは主催者を一切気にしない態度を貫いている。そして気品あるランクース国の正装に合う様に着飾らされ、髪も肌も整えられて天使の様な装いにされたイルンはビッタリと隣に張り付くダバルから用意されたご馳走をあれもこれもと口に運んでもらっていたりする。客あしらいならばどんとこいと言わんばかりのイルンは一向にダバルの行動を意に介さず嬉しそうに食事をしているものの、本日の歓待の席に招かれている貴族達の視線が右往左往と泳いでいた……これでもまだΩに寛容で理解あるゼス国だから生暖かい視線で見られるだけで済んだとも言えるのだ。ランクース国と親交が深い外務大臣であるムーブラン侯爵でさえ苦虫を潰したような表情でダバルの事を見つめてしまっている程にはお行儀良い行いとは言い難い。
まるでこの世の者など目に入らない様だな。
番に夢中になっている演技、でもないのだろうが、は功を奏していて参加している大多数の者達が生暖かくも祝福している雰囲気であった。本人同士は言わずもがなで自分達の空気の中にいるし、食事の席に珍しく呼ばれて参席しているリリーの立場は非常に気まずいのだが…
番しか目に入らない。これを実現するには致し方ない行動であったのだろう。
「なんとご熱心な事でしょうな?」
「ええ…微笑ましい限りですね…」
「私達などあの方の眼中にはない様ですな。」
チラチラと感想の声が上がるのだがそれもダバルに届いているのかさえも疑わしい。
「ダバル殿下…その可愛らしい方とはどちらで出逢われたのですか?」
「うん?」
「あ、ダバル!あれも食べてみたい!」
「あぁ、わかったよ、イルン。取ってあげよう。美味しいか?」
「うん!」
言葉使いは置いておいて、イルンのテーブルマナーの習得は間に合った様である。
参加者の質問さえも遮って食事を続けるあたりイルンも肝が据わっているのかもしれない。
「あぁ、悪かったね。どこで私の番とあったかだっけ?あれは…そう。」
祭り騒ぎの様な城下に見物がてら出た際に、丁度買い物に来ていたイルンと会った。両者すぐに番であると気がついて、ダバルの方から結婚を申し込む運びとなったと言う事だ。
これを話しながらもダバルの視線はイルンに注がれている。徹底した番重視の食事会であった…
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