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111.見出された花 3
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どんな顔をして喜ぶのだろう、なんと言葉をかけようか……しばし悩んだリリーの身体は今愛しい番の逞しい両腕にガッチリと抱きしめられている。今日アーキンには騎士団の訓練後に王城騎士団本部にあるリリーの執務室に寄ってもらったのだ。まだ訓練後の汗も乾き切らないアーキンの香りが濃くてそれが幸せすぎてクラクラと目眩がしてきそうである。
「…………………」
無言で抱き締めてくる…これが妹が見つかった後のアーキンの答えだった。メリアンが見つかった事を告げたリリーを見つめていたかと思えば、アーキンに何も言われずにいきなり抱き竦められる…その両腕はきっと喜びを力強さで表しているのだろうけれども、隠れる様に震える弱さも伝えてきていて言葉よりも雄弁にアーキンの心をリリーに語っている様に思えてかえって胸が締め付けられた…
ポンポンポン……リリーは逞しいアーキンの背中に回した手で宥める様に優しく背中を叩いてやる…
「面会の日を設定させる…義姉上はご両親を呼び寄せてはどうかと言われていたがどうしようか?」
「………いいのか……」
もう会えないと思っていたのだ…だから無事に見つかっただけでも御の字であった。それなのに両親を含めた面会まで許可が出るかもしれないという…
「義姉上の提案だ。兄上も否とは言わないだろう。」
なんと言っても自分の番の家族である。無碍にするなど考えられない。
「俺達の家は田舎の外れで…こんなに大きな王都には来た事もない…」
「では誰か使いを送ろう。王太子の番のご家族だ。王家も丁寧に扱って下さるだろう。」
そう、願う……母の時の様ではなくて皆んなに喜ばれて幸せに輿入れしてもらいたい。
それがリリーの望みだからだ。
ぎゅうっとリリーを抱きしめたままアーキンは離れない。気を回すことに長けているノルーは既に部下を引き連れてこの部屋から出ていった後だった。
「アーキン…」
「……ん…」
「アーキン…良かったな?」
「……あぁ…感謝する…どう礼をすればいいのか……」
「礼など要らん。その為にしたのでは無い。」
「そうは行かない……掛け替えの無い俺の番が…ここまでしてくれたんだ…」
「…メリアンも会いたがっていた…」
「…あぁ……あぁ、リリー……」
アーキンの肩が震えている…リリーはアーキンの顔を見ずに宥める様にキスを首筋に落としていった…
ゼス国の東に位置するサリーシュ王国。その国のゼス国側にロンスールという領地がある。土地は痩せていて作物の収穫量は多くはないが、古来からの独特な農法で住民達が食べていくには十分な収穫量を保っていた地である。十分と言っても領民が飢えずに済むという面で言えば十分であるだけで決して余裕のない貧しい土地であるのは変わりなかった。だから能力のある民はその力を利用して出稼ぎに行って領地を護るのも珍しくは無く、アーキンとメリアンはそんな地の騎士の家に産まれたのだった。
テグリス家は騎士の父がα母がΩの両親である。サリーシュ王国も他国に殉じてΩを尊重しない様な国ではあるが、貧しく守りの乏しい田舎の領地では騎士である父の影響力は大きく、テグリス家ではΩの母も堂々と暮らしてきた。そんな中父から徹底的に鍛え上げられてきた長男であるアーキンが、騎士として独り立ちするかどうかという時にあのメリアンの誘拐事件が起こったのだった。そしてアーキンは1人故郷を後にした。
「両親に手紙を書く…」
事が終わってリリーを自分の騎士のマントで包み抱きしめながらアーキンが言う。
目元が少し赤くなっている事は知らないふりで通してやろう。
「ご両親のために馬車と迎えの騎士をつけよう。」
それ位ならば国王や王太子の許可がなくてもリリーの配下の中から出してやれる。最も王太子側も近衛の中から出してきそうではあるのだが。
「俺は、一緒には行かない方が良いんだよな?」
アーキンの身分はまだまだ下っ端の一騎士だ。両親を迎えにいく為だけの長期休暇は許可されないだろう。
「王太子の番の家族を迎えるのだから、父も動く。アーキンが行こうとしても多分やる事などないぞ?」
早く両親の顔を見たいのならば話は別だが…
「そうか…なら俺はリリーの側を離れたくは無い…」
リリーを抱きしめながらアーキンはリリーの首筋にキスをする。リリーの首にはアーキンが送ったガードがピッタリと肌に吸い付く様に密着している。自分が送ったガードの上からアーキンは何度も何度もキスを落とす。たった一つの気掛かりだった妹が見つかった今、アーキンの中からはこんな事をしている後めたさが無くなったのだ。ならば好きなだけ番に触れていたいと思う。ガードの奥のきっと今は僅かに汗ばんでいるだろう柔らかな肌に、思い切り齧りつきたい衝動をあらん限りの理性を総動員して押さえつけていても溢れ出てしまう思いは止められそうも無いのだから…
「…………………」
無言で抱き締めてくる…これが妹が見つかった後のアーキンの答えだった。メリアンが見つかった事を告げたリリーを見つめていたかと思えば、アーキンに何も言われずにいきなり抱き竦められる…その両腕はきっと喜びを力強さで表しているのだろうけれども、隠れる様に震える弱さも伝えてきていて言葉よりも雄弁にアーキンの心をリリーに語っている様に思えてかえって胸が締め付けられた…
ポンポンポン……リリーは逞しいアーキンの背中に回した手で宥める様に優しく背中を叩いてやる…
「面会の日を設定させる…義姉上はご両親を呼び寄せてはどうかと言われていたがどうしようか?」
「………いいのか……」
もう会えないと思っていたのだ…だから無事に見つかっただけでも御の字であった。それなのに両親を含めた面会まで許可が出るかもしれないという…
「義姉上の提案だ。兄上も否とは言わないだろう。」
なんと言っても自分の番の家族である。無碍にするなど考えられない。
「俺達の家は田舎の外れで…こんなに大きな王都には来た事もない…」
「では誰か使いを送ろう。王太子の番のご家族だ。王家も丁寧に扱って下さるだろう。」
そう、願う……母の時の様ではなくて皆んなに喜ばれて幸せに輿入れしてもらいたい。
それがリリーの望みだからだ。
ぎゅうっとリリーを抱きしめたままアーキンは離れない。気を回すことに長けているノルーは既に部下を引き連れてこの部屋から出ていった後だった。
「アーキン…」
「……ん…」
「アーキン…良かったな?」
「……あぁ…感謝する…どう礼をすればいいのか……」
「礼など要らん。その為にしたのでは無い。」
「そうは行かない……掛け替えの無い俺の番が…ここまでしてくれたんだ…」
「…メリアンも会いたがっていた…」
「…あぁ……あぁ、リリー……」
アーキンの肩が震えている…リリーはアーキンの顔を見ずに宥める様にキスを首筋に落としていった…
ゼス国の東に位置するサリーシュ王国。その国のゼス国側にロンスールという領地がある。土地は痩せていて作物の収穫量は多くはないが、古来からの独特な農法で住民達が食べていくには十分な収穫量を保っていた地である。十分と言っても領民が飢えずに済むという面で言えば十分であるだけで決して余裕のない貧しい土地であるのは変わりなかった。だから能力のある民はその力を利用して出稼ぎに行って領地を護るのも珍しくは無く、アーキンとメリアンはそんな地の騎士の家に産まれたのだった。
テグリス家は騎士の父がα母がΩの両親である。サリーシュ王国も他国に殉じてΩを尊重しない様な国ではあるが、貧しく守りの乏しい田舎の領地では騎士である父の影響力は大きく、テグリス家ではΩの母も堂々と暮らしてきた。そんな中父から徹底的に鍛え上げられてきた長男であるアーキンが、騎士として独り立ちするかどうかという時にあのメリアンの誘拐事件が起こったのだった。そしてアーキンは1人故郷を後にした。
「両親に手紙を書く…」
事が終わってリリーを自分の騎士のマントで包み抱きしめながらアーキンが言う。
目元が少し赤くなっている事は知らないふりで通してやろう。
「ご両親のために馬車と迎えの騎士をつけよう。」
それ位ならば国王や王太子の許可がなくてもリリーの配下の中から出してやれる。最も王太子側も近衛の中から出してきそうではあるのだが。
「俺は、一緒には行かない方が良いんだよな?」
アーキンの身分はまだまだ下っ端の一騎士だ。両親を迎えにいく為だけの長期休暇は許可されないだろう。
「王太子の番の家族を迎えるのだから、父も動く。アーキンが行こうとしても多分やる事などないぞ?」
早く両親の顔を見たいのならば話は別だが…
「そうか…なら俺はリリーの側を離れたくは無い…」
リリーを抱きしめながらアーキンはリリーの首筋にキスをする。リリーの首にはアーキンが送ったガードがピッタリと肌に吸い付く様に密着している。自分が送ったガードの上からアーキンは何度も何度もキスを落とす。たった一つの気掛かりだった妹が見つかった今、アーキンの中からはこんな事をしている後めたさが無くなったのだ。ならば好きなだけ番に触れていたいと思う。ガードの奥のきっと今は僅かに汗ばんでいるだろう柔らかな肌に、思い切り齧りつきたい衝動をあらん限りの理性を総動員して押さえつけていても溢れ出てしまう思いは止められそうも無いのだから…
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