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105.消えない熱 4
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「新しい物にしなければなりませんね。」
訳知り顔で朝食の用意を整えつつノルーはサラッとそんなことを口にする。昨夜リリーに何があったのか新しい何を用意するべきなのかノルーは分かりきっててリリーに生暖かい笑顔を向けてきているのだ。
「…………」
ノルーに指摘されるまでもなくリリーにもちゃんとわかっている。あれだけアーキンに噛みつかれているのだから革製のガードが見る影も無くなるほどに傷んでいるくらいは…
「アーキン殿は?」
寝室を出たリビングに2人分の朝食がキチンと整えられていてノルーがアーキンを無碍にしていない事が良くわかりむず痒い。
「……浴室。」
ノルーがリリーの自室に入ってくる前にアーキンは身体を流しに部屋を出たのだ。
「…こちらはどうされますか?」
肯きつつノルーは小さな小瓶を自分の制服のポケットから出してきた。
「……持ち歩いてるのか?それ…」
ノルーが差し出したのは掌にすっぽりと収まってしまうくらいの小瓶である。豪華な容器ではなく極素朴な作りの物だ。
「必要な物でしょう?」
ほぼリリーの事を把握し尽くしていると言っても過言ではないノルーだからこそわかる事がある。きっとリリーはまだそれを望んではいないから…
「……あぁ飲むよ。」
案の定リリーの返答はそっけなくノルーから小瓶を受け取ると小さな蓋を開けて一気に中の薬液を飲み干した。
「体調は変わりありませんね?」
心配気なノルーの表情にやや寂し気な笑みが見えるがリリーは敢えて見なかったことにする。
「全く。」
ノルーは薬液を飲み干したリリーから空き瓶を受け取るとまた制服のポケットへとそれをしまう。
「では、アーキン殿と一緒にゆっくりと召し上がってください。アーキン殿はきっと登城するでしょうけれどリリーはどうなさいますか?」
ランクース、ダバルの一見はあちらの方が動く迄こちらは待つより他ないのでリリーは他の案件を片付けなければならない。
「ハウラを見舞ってから私も城へ行く。義姉君に会おう。」
やらなければならない事…大切なアーキンの妹の行方を掴むのもその一つ…王太子である兄に言われていた王太子の後宮にお邪魔しようではないか。
「では、先触れを出しましょう。」
そう言い置いてノルーは部屋を出て行った。
「…いると良いのだが…」
会った事もない、愛する者の大切な身内。王太子の側室として召されてしまっているのならば後宮から出してやるのは不可能だろう。だが妹のメリアンはまだ12と聞いた。側室としては早すぎる年だ。せめて行儀見習いとして下働きで働くくらいの年齢だろうか…
「リリー?」
もしメリアンが後宮にいたら何と王太子妃と本人に説明しようか、どうやって後宮から出そうかと悶々と考えているうちにどうやらアーキンは入浴が終わって部屋に戻ってきたらしい。
「…ん?」
「食ってなかったのか?」
朝食としてノルーが用意してくれた物にリリーはまだ一切手をつけていない。
「ああ、待っていたからな。」
折角同じ家にいるのだから2人でいる時間を少しでも共有したいとどうしても思ってしまう。こんな事は番と出会わなければ思いもしなかった事だろうが…
「冷めてしまってる物もあるじゃないか…リリー今度からは待たないで先に食べていてくれ。」
思わずフッと微笑みたくなる…お互いにお互いを思おう気遣おうとする意志が垣間見える。きっとアーキンは温かい料理の有り難みを良く知っているのだ。温かいまま1番美味しい物をリリーに食べて貰いたかったに違いない。すっかり身を清めてノルーが用意していたのだろう真新しい騎士服を身に付けてきたアーキンはこれから出仕だ。のんびり料理に舌鼓を打つわけにはいかない。それを良くわかっているリリーはそれでも一緒に食事がしたかった。
我ながら見苦しいな…
「私と一緒の食事では落ち着かないか?」
ただでさえノルーの用意した朝食は庶民出のアーキンからしたら馴染みのない上流階級向きの物かもしれないだろうから。それをテーブルマナーも完璧なリリーを前に食べるの事は落ち着かないことかもしれない。
「いや全然?リリーと一緒の物ならなんでも美味いだろうし。だが、お前が美味しく食べられない様では困る。俺は冷えた物でも何でも良いけど、リリーには美味くないだろう?」
全てに置いて番が全て…食べ物でも、着る物でも自分が与えられる物の内1番良い物を与えたい…αの欲の本能の内の一つでもあると言って良い。アーキンも自分の物より事よりもリリーの物が如何であるかが最大の関心事である。
「私はお前と食事したかったんだ。だからこれで良い…」
最高級品なんて要らない、温かくなくてもいい…ただ目の前にアーキンいる…リリーにとってもそれが一番の望みにさえ思える。
お前の全てが欲しい……
絶対に口には出してやらないつもりでいるけれども…
訳知り顔で朝食の用意を整えつつノルーはサラッとそんなことを口にする。昨夜リリーに何があったのか新しい何を用意するべきなのかノルーは分かりきっててリリーに生暖かい笑顔を向けてきているのだ。
「…………」
ノルーに指摘されるまでもなくリリーにもちゃんとわかっている。あれだけアーキンに噛みつかれているのだから革製のガードが見る影も無くなるほどに傷んでいるくらいは…
「アーキン殿は?」
寝室を出たリビングに2人分の朝食がキチンと整えられていてノルーがアーキンを無碍にしていない事が良くわかりむず痒い。
「……浴室。」
ノルーがリリーの自室に入ってくる前にアーキンは身体を流しに部屋を出たのだ。
「…こちらはどうされますか?」
肯きつつノルーは小さな小瓶を自分の制服のポケットから出してきた。
「……持ち歩いてるのか?それ…」
ノルーが差し出したのは掌にすっぽりと収まってしまうくらいの小瓶である。豪華な容器ではなく極素朴な作りの物だ。
「必要な物でしょう?」
ほぼリリーの事を把握し尽くしていると言っても過言ではないノルーだからこそわかる事がある。きっとリリーはまだそれを望んではいないから…
「……あぁ飲むよ。」
案の定リリーの返答はそっけなくノルーから小瓶を受け取ると小さな蓋を開けて一気に中の薬液を飲み干した。
「体調は変わりありませんね?」
心配気なノルーの表情にやや寂し気な笑みが見えるがリリーは敢えて見なかったことにする。
「全く。」
ノルーは薬液を飲み干したリリーから空き瓶を受け取るとまた制服のポケットへとそれをしまう。
「では、アーキン殿と一緒にゆっくりと召し上がってください。アーキン殿はきっと登城するでしょうけれどリリーはどうなさいますか?」
ランクース、ダバルの一見はあちらの方が動く迄こちらは待つより他ないのでリリーは他の案件を片付けなければならない。
「ハウラを見舞ってから私も城へ行く。義姉君に会おう。」
やらなければならない事…大切なアーキンの妹の行方を掴むのもその一つ…王太子である兄に言われていた王太子の後宮にお邪魔しようではないか。
「では、先触れを出しましょう。」
そう言い置いてノルーは部屋を出て行った。
「…いると良いのだが…」
会った事もない、愛する者の大切な身内。王太子の側室として召されてしまっているのならば後宮から出してやるのは不可能だろう。だが妹のメリアンはまだ12と聞いた。側室としては早すぎる年だ。せめて行儀見習いとして下働きで働くくらいの年齢だろうか…
「リリー?」
もしメリアンが後宮にいたら何と王太子妃と本人に説明しようか、どうやって後宮から出そうかと悶々と考えているうちにどうやらアーキンは入浴が終わって部屋に戻ってきたらしい。
「…ん?」
「食ってなかったのか?」
朝食としてノルーが用意してくれた物にリリーはまだ一切手をつけていない。
「ああ、待っていたからな。」
折角同じ家にいるのだから2人でいる時間を少しでも共有したいとどうしても思ってしまう。こんな事は番と出会わなければ思いもしなかった事だろうが…
「冷めてしまってる物もあるじゃないか…リリー今度からは待たないで先に食べていてくれ。」
思わずフッと微笑みたくなる…お互いにお互いを思おう気遣おうとする意志が垣間見える。きっとアーキンは温かい料理の有り難みを良く知っているのだ。温かいまま1番美味しい物をリリーに食べて貰いたかったに違いない。すっかり身を清めてノルーが用意していたのだろう真新しい騎士服を身に付けてきたアーキンはこれから出仕だ。のんびり料理に舌鼓を打つわけにはいかない。それを良くわかっているリリーはそれでも一緒に食事がしたかった。
我ながら見苦しいな…
「私と一緒の食事では落ち着かないか?」
ただでさえノルーの用意した朝食は庶民出のアーキンからしたら馴染みのない上流階級向きの物かもしれないだろうから。それをテーブルマナーも完璧なリリーを前に食べるの事は落ち着かないことかもしれない。
「いや全然?リリーと一緒の物ならなんでも美味いだろうし。だが、お前が美味しく食べられない様では困る。俺は冷えた物でも何でも良いけど、リリーには美味くないだろう?」
全てに置いて番が全て…食べ物でも、着る物でも自分が与えられる物の内1番良い物を与えたい…αの欲の本能の内の一つでもあると言って良い。アーキンも自分の物より事よりもリリーの物が如何であるかが最大の関心事である。
「私はお前と食事したかったんだ。だからこれで良い…」
最高級品なんて要らない、温かくなくてもいい…ただ目の前にアーキンいる…リリーにとってもそれが一番の望みにさえ思える。
お前の全てが欲しい……
絶対に口には出してやらないつもりでいるけれども…
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