105 / 144
105.消えない熱 4
しおりを挟む
「新しい物にしなければなりませんね。」
訳知り顔で朝食の用意を整えつつノルーはサラッとそんなことを口にする。昨夜リリーに何があったのか新しい何を用意するべきなのかノルーは分かりきっててリリーに生暖かい笑顔を向けてきているのだ。
「…………」
ノルーに指摘されるまでもなくリリーにもちゃんとわかっている。あれだけアーキンに噛みつかれているのだから革製のガードが見る影も無くなるほどに傷んでいるくらいは…
「アーキン殿は?」
寝室を出たリビングに2人分の朝食がキチンと整えられていてノルーがアーキンを無碍にしていない事が良くわかりむず痒い。
「……浴室。」
ノルーがリリーの自室に入ってくる前にアーキンは身体を流しに部屋を出たのだ。
「…こちらはどうされますか?」
肯きつつノルーは小さな小瓶を自分の制服のポケットから出してきた。
「……持ち歩いてるのか?それ…」
ノルーが差し出したのは掌にすっぽりと収まってしまうくらいの小瓶である。豪華な容器ではなく極素朴な作りの物だ。
「必要な物でしょう?」
ほぼリリーの事を把握し尽くしていると言っても過言ではないノルーだからこそわかる事がある。きっとリリーはまだそれを望んではいないから…
「……あぁ飲むよ。」
案の定リリーの返答はそっけなくノルーから小瓶を受け取ると小さな蓋を開けて一気に中の薬液を飲み干した。
「体調は変わりありませんね?」
心配気なノルーの表情にやや寂し気な笑みが見えるがリリーは敢えて見なかったことにする。
「全く。」
ノルーは薬液を飲み干したリリーから空き瓶を受け取るとまた制服のポケットへとそれをしまう。
「では、アーキン殿と一緒にゆっくりと召し上がってください。アーキン殿はきっと登城するでしょうけれどリリーはどうなさいますか?」
ランクース、ダバルの一見はあちらの方が動く迄こちらは待つより他ないのでリリーは他の案件を片付けなければならない。
「ハウラを見舞ってから私も城へ行く。義姉君に会おう。」
やらなければならない事…大切なアーキンの妹の行方を掴むのもその一つ…王太子である兄に言われていた王太子の後宮にお邪魔しようではないか。
「では、先触れを出しましょう。」
そう言い置いてノルーは部屋を出て行った。
「…いると良いのだが…」
会った事もない、愛する者の大切な身内。王太子の側室として召されてしまっているのならば後宮から出してやるのは不可能だろう。だが妹のメリアンはまだ12と聞いた。側室としては早すぎる年だ。せめて行儀見習いとして下働きで働くくらいの年齢だろうか…
「リリー?」
もしメリアンが後宮にいたら何と王太子妃と本人に説明しようか、どうやって後宮から出そうかと悶々と考えているうちにどうやらアーキンは入浴が終わって部屋に戻ってきたらしい。
「…ん?」
「食ってなかったのか?」
朝食としてノルーが用意してくれた物にリリーはまだ一切手をつけていない。
「ああ、待っていたからな。」
折角同じ家にいるのだから2人でいる時間を少しでも共有したいとどうしても思ってしまう。こんな事は番と出会わなければ思いもしなかった事だろうが…
「冷めてしまってる物もあるじゃないか…リリー今度からは待たないで先に食べていてくれ。」
思わずフッと微笑みたくなる…お互いにお互いを思おう気遣おうとする意志が垣間見える。きっとアーキンは温かい料理の有り難みを良く知っているのだ。温かいまま1番美味しい物をリリーに食べて貰いたかったに違いない。すっかり身を清めてノルーが用意していたのだろう真新しい騎士服を身に付けてきたアーキンはこれから出仕だ。のんびり料理に舌鼓を打つわけにはいかない。それを良くわかっているリリーはそれでも一緒に食事がしたかった。
我ながら見苦しいな…
「私と一緒の食事では落ち着かないか?」
ただでさえノルーの用意した朝食は庶民出のアーキンからしたら馴染みのない上流階級向きの物かもしれないだろうから。それをテーブルマナーも完璧なリリーを前に食べるの事は落ち着かないことかもしれない。
「いや全然?リリーと一緒の物ならなんでも美味いだろうし。だが、お前が美味しく食べられない様では困る。俺は冷えた物でも何でも良いけど、リリーには美味くないだろう?」
全てに置いて番が全て…食べ物でも、着る物でも自分が与えられる物の内1番良い物を与えたい…αの欲の本能の内の一つでもあると言って良い。アーキンも自分の物より事よりもリリーの物が如何であるかが最大の関心事である。
「私はお前と食事したかったんだ。だからこれで良い…」
最高級品なんて要らない、温かくなくてもいい…ただ目の前にアーキンいる…リリーにとってもそれが一番の望みにさえ思える。
お前の全てが欲しい……
絶対に口には出してやらないつもりでいるけれども…
訳知り顔で朝食の用意を整えつつノルーはサラッとそんなことを口にする。昨夜リリーに何があったのか新しい何を用意するべきなのかノルーは分かりきっててリリーに生暖かい笑顔を向けてきているのだ。
「…………」
ノルーに指摘されるまでもなくリリーにもちゃんとわかっている。あれだけアーキンに噛みつかれているのだから革製のガードが見る影も無くなるほどに傷んでいるくらいは…
「アーキン殿は?」
寝室を出たリビングに2人分の朝食がキチンと整えられていてノルーがアーキンを無碍にしていない事が良くわかりむず痒い。
「……浴室。」
ノルーがリリーの自室に入ってくる前にアーキンは身体を流しに部屋を出たのだ。
「…こちらはどうされますか?」
肯きつつノルーは小さな小瓶を自分の制服のポケットから出してきた。
「……持ち歩いてるのか?それ…」
ノルーが差し出したのは掌にすっぽりと収まってしまうくらいの小瓶である。豪華な容器ではなく極素朴な作りの物だ。
「必要な物でしょう?」
ほぼリリーの事を把握し尽くしていると言っても過言ではないノルーだからこそわかる事がある。きっとリリーはまだそれを望んではいないから…
「……あぁ飲むよ。」
案の定リリーの返答はそっけなくノルーから小瓶を受け取ると小さな蓋を開けて一気に中の薬液を飲み干した。
「体調は変わりありませんね?」
心配気なノルーの表情にやや寂し気な笑みが見えるがリリーは敢えて見なかったことにする。
「全く。」
ノルーは薬液を飲み干したリリーから空き瓶を受け取るとまた制服のポケットへとそれをしまう。
「では、アーキン殿と一緒にゆっくりと召し上がってください。アーキン殿はきっと登城するでしょうけれどリリーはどうなさいますか?」
ランクース、ダバルの一見はあちらの方が動く迄こちらは待つより他ないのでリリーは他の案件を片付けなければならない。
「ハウラを見舞ってから私も城へ行く。義姉君に会おう。」
やらなければならない事…大切なアーキンの妹の行方を掴むのもその一つ…王太子である兄に言われていた王太子の後宮にお邪魔しようではないか。
「では、先触れを出しましょう。」
そう言い置いてノルーは部屋を出て行った。
「…いると良いのだが…」
会った事もない、愛する者の大切な身内。王太子の側室として召されてしまっているのならば後宮から出してやるのは不可能だろう。だが妹のメリアンはまだ12と聞いた。側室としては早すぎる年だ。せめて行儀見習いとして下働きで働くくらいの年齢だろうか…
「リリー?」
もしメリアンが後宮にいたら何と王太子妃と本人に説明しようか、どうやって後宮から出そうかと悶々と考えているうちにどうやらアーキンは入浴が終わって部屋に戻ってきたらしい。
「…ん?」
「食ってなかったのか?」
朝食としてノルーが用意してくれた物にリリーはまだ一切手をつけていない。
「ああ、待っていたからな。」
折角同じ家にいるのだから2人でいる時間を少しでも共有したいとどうしても思ってしまう。こんな事は番と出会わなければ思いもしなかった事だろうが…
「冷めてしまってる物もあるじゃないか…リリー今度からは待たないで先に食べていてくれ。」
思わずフッと微笑みたくなる…お互いにお互いを思おう気遣おうとする意志が垣間見える。きっとアーキンは温かい料理の有り難みを良く知っているのだ。温かいまま1番美味しい物をリリーに食べて貰いたかったに違いない。すっかり身を清めてノルーが用意していたのだろう真新しい騎士服を身に付けてきたアーキンはこれから出仕だ。のんびり料理に舌鼓を打つわけにはいかない。それを良くわかっているリリーはそれでも一緒に食事がしたかった。
我ながら見苦しいな…
「私と一緒の食事では落ち着かないか?」
ただでさえノルーの用意した朝食は庶民出のアーキンからしたら馴染みのない上流階級向きの物かもしれないだろうから。それをテーブルマナーも完璧なリリーを前に食べるの事は落ち着かないことかもしれない。
「いや全然?リリーと一緒の物ならなんでも美味いだろうし。だが、お前が美味しく食べられない様では困る。俺は冷えた物でも何でも良いけど、リリーには美味くないだろう?」
全てに置いて番が全て…食べ物でも、着る物でも自分が与えられる物の内1番良い物を与えたい…αの欲の本能の内の一つでもあると言って良い。アーキンも自分の物より事よりもリリーの物が如何であるかが最大の関心事である。
「私はお前と食事したかったんだ。だからこれで良い…」
最高級品なんて要らない、温かくなくてもいい…ただ目の前にアーキンいる…リリーにとってもそれが一番の望みにさえ思える。
お前の全てが欲しい……
絶対に口には出してやらないつもりでいるけれども…
14
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
アデルの子
新子珠子
BL
僕が前世の記憶を取り戻したのは13歳の時だった。
生まれ変わったこの世界には男性しか存在しない。
しかも、この世界の人口の9割は妊娠ができる男性で、子種を作る事ができる男性は一握りしかいなかった。子種を作ることができる男性に生まれた僕は、沢山の男性からセックスを求められる立場だった。
トラウマを抱えた男の子が子作りができる男性となるために少しずつ成長し、愛を育む物語。
※主人公は攻め、複数の相手がいます。真面目なふりをしたエロゲーのような世界観です。
※男性妊娠や近親相姦などの表現があります。
※ムーンライトノベルズ様へも掲載をしております。
【完結】酔った勢いで子供が出来た?!しかも相手は嫌いなアイツ?!
愛早さくら
BL
酔って記憶ぶっ飛ばして朝起きたら一夜の過ちどころか妊娠までしていた。
は?!!?なんで?!!?!って言うか、相手って……恐る恐る隣を見ると嫌っていたはずの相手。
えー……なんで…………冷や汗ダラダラ
焦るリティは、しかしだからと言ってお腹にいる子供をなかったことには出来なかった。
みたいなところから始まる、嫌い合ってたはずなのに本当は……?!
という感じの割とよくあるBL話を、自分なりに書いてみたいと思います。
・いつも通りの世界のお話ではありますが、今度は一応血縁ではありません。
(だけど舞台はナウラティス。)
・相変わらず貴族とかそういう。(でも流石に王族ではない。)
・男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。
・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。
・頭に☆があるお話は残酷な描写、とまではいかずとも、たとえ多少であっても流血表現などがあります。
・言い訳というか解説というかは近況ボードの「突発短編2」のコメント欄からどうぞ。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ
天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。
俺が王子の婚約者?
隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。
てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。
婚約は解消の方向で。
あっ、好みの奴みぃっけた。
えっ?俺とは犬猿の仲?
そんなもんは過去の話だろ?
俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた?
あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。
BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。
そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。
同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる