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104.消えない熱 3
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「恨んで恨んで、母の葬儀後一発父を殴ってやろうと思った。」
「は!?」
仮にもリリーの父はこのゼス国の国王である。いかに子供であろうとも王に手を挙げよう者ならば不敬罪は待ったなしだろう。
「フフ…まだサシュも残されているし、私は1人になった訳ではないのにな…後先など全く考えてなかった……」
王に対する不敬を働けばリリーの妹であるサシュだとて無事では済まないだろう。追放か幽閉、悪くすれば極刑だ。
「それだけ、どうしても許せなかったんだ。」
リリーの母ミライエの慎ましすぎる葬儀が終わった後、リリーはそれを実行に移した。その日の夜半、もう王も寝静まったと思われる時間帯に行動に出た。城内を闊歩することはできないリリーは城の外から王の居室へと向かう。不思議な事にその日には城外に居るであろう近衞騎士の数が圧倒的に少なくリリーは魔力も使わずに簡単に父の寝室まで辿り着いてしまう。大きな窓から室内をそっと伺うと、人気がない…曲がりなりにも王の寝室である。いつも王妃が同衾しているわけではないのも知ってはいるが、側に控えているはずの従者の気配も侍女の気配も全くしない。
人払いをしている。そうとしか思えない程の人気の無さだった。
今なら………
積年の恨みというものがある。リリーに直接的に何かをされたわけではないが、狂って行く母を目の前で見続けていただけでも子供の心は十分過ぎるほどに傷ついたのだ。
母の受けた痛みの分のほんの少しでもまた今更だろうが愛情を受けられなかった幼い子供の苦しさを知って貰っても良いだろう。
王の居室は広かった。部屋の中にもまた続き扉があり簡易な執務室と広々としたリビングとそれから寝室だ。父王の気配を探りながらその姿を探していく。
寝室だ…
王の寝室、王とその伴侶となる王妃と僅かな侍従にしか入室は許されていない場所だ。
「いた…」
その気配を察知した時、なんの感慨も無かった。ただ自分の思いのまま成せば良い…無責任にそれしか考えていなかったリリーは中に入ろうと一歩前に出た。
そこで見たのだ…
その日は月明かりの綺麗な晩で寝室の大きな窓からは部屋の中央がありありと見渡せるほど明るく照らしていた。窓際の側には寝台があり、寝台の側には簡易なテーブルとソファーがあった。王はその寝台とテーブルの間で蹲っていたのだ。そこには王としての威厳を持つ父は居なかった………
「………ミライエ…ミライエ……ミライエ…」
自分の胸を鷲掴みにして髪を引き毟る勢いでグッと掴みながら、声を殺しながら涙を流して泣く姿…その姿には威厳も何もあったものではなかった。
ただ番を無くした哀れな男が悲しみに打ち拉がれて嗚咽する姿だった。
一国の王が、その気になれば王妃を黙らせミライエを強引に側妃に召し上げる事だって可能だった国王が、ただ悲しみに呻いて泣いている。
このために…人払いをしたのか……?
こんな情けない姿を臣下に晒さない様に人知れずたった1人で………
リリーにはサシュがいた。しかしゼス国全土を統べる国王は今たった1人だった。
「母上……愛されて、いたんですね……」
番だけを愛して生涯求め続ける愛、そして敢えて寄り添わない愛…自分の心を殺しても貫こうとする愛…どれが良くて正解かリリーにはわからない。自分も国王と同じく涙で両目を濡らしている今は愛する事など分かりたくもなかった。
「多分、父は私に殺される事を望んでいたんだと思う…」
明らかに少な過ぎる近衛の数…侍従や侍女までも遠ざけて全てを闇に葬る形でリリーに殺されようとした。侵入者に反撃するならばリリーよりも魔力量溢れる王には簡単であったはずだ。近衛も少ないあの状況で近づいてくる者の気配を読まないわけはなかったから。王であった父は未練など微塵もなかったに違いない…ミライエが居なくなったこの世などに……
「俺もリリーが居なくなったら生きていたくないな……」
アーキンだとて番に出会うまではこんなに気持ちを動かされることなどなかった事だ。今ならば自分も王の気持ちがよく分かる。
「私には出来なかったんだ…結局父を殴れもしなかった…」
「リリー良かったんだよそれで…」
アーキンはリリーを抱え直す。よっと仰向けになって自由の利かないリリーを自分の胸の上で抱きしめた。
ダメだと思っていても手に入れずに居られない強い欲求…これはもう自分を抑えられるものではないものだから。だからミライエを自由にすること叶わず父王は手に入れてしまった…
「もし、リリーが行動を起こしていたら、こうして会う事はできなかっただろう?他のαに触られるのも婚約者面されるのもごめん被るがそんな事より、俺はリリーに会えない方がずっと堪える……」
「アーキン……」
「愛してる……リリー…」
優しい大きなアーキンの手がリリーの両頬を包んでそっと口付けを深くしていった…
「は!?」
仮にもリリーの父はこのゼス国の国王である。いかに子供であろうとも王に手を挙げよう者ならば不敬罪は待ったなしだろう。
「フフ…まだサシュも残されているし、私は1人になった訳ではないのにな…後先など全く考えてなかった……」
王に対する不敬を働けばリリーの妹であるサシュだとて無事では済まないだろう。追放か幽閉、悪くすれば極刑だ。
「それだけ、どうしても許せなかったんだ。」
リリーの母ミライエの慎ましすぎる葬儀が終わった後、リリーはそれを実行に移した。その日の夜半、もう王も寝静まったと思われる時間帯に行動に出た。城内を闊歩することはできないリリーは城の外から王の居室へと向かう。不思議な事にその日には城外に居るであろう近衞騎士の数が圧倒的に少なくリリーは魔力も使わずに簡単に父の寝室まで辿り着いてしまう。大きな窓から室内をそっと伺うと、人気がない…曲がりなりにも王の寝室である。いつも王妃が同衾しているわけではないのも知ってはいるが、側に控えているはずの従者の気配も侍女の気配も全くしない。
人払いをしている。そうとしか思えない程の人気の無さだった。
今なら………
積年の恨みというものがある。リリーに直接的に何かをされたわけではないが、狂って行く母を目の前で見続けていただけでも子供の心は十分過ぎるほどに傷ついたのだ。
母の受けた痛みの分のほんの少しでもまた今更だろうが愛情を受けられなかった幼い子供の苦しさを知って貰っても良いだろう。
王の居室は広かった。部屋の中にもまた続き扉があり簡易な執務室と広々としたリビングとそれから寝室だ。父王の気配を探りながらその姿を探していく。
寝室だ…
王の寝室、王とその伴侶となる王妃と僅かな侍従にしか入室は許されていない場所だ。
「いた…」
その気配を察知した時、なんの感慨も無かった。ただ自分の思いのまま成せば良い…無責任にそれしか考えていなかったリリーは中に入ろうと一歩前に出た。
そこで見たのだ…
その日は月明かりの綺麗な晩で寝室の大きな窓からは部屋の中央がありありと見渡せるほど明るく照らしていた。窓際の側には寝台があり、寝台の側には簡易なテーブルとソファーがあった。王はその寝台とテーブルの間で蹲っていたのだ。そこには王としての威厳を持つ父は居なかった………
「………ミライエ…ミライエ……ミライエ…」
自分の胸を鷲掴みにして髪を引き毟る勢いでグッと掴みながら、声を殺しながら涙を流して泣く姿…その姿には威厳も何もあったものではなかった。
ただ番を無くした哀れな男が悲しみに打ち拉がれて嗚咽する姿だった。
一国の王が、その気になれば王妃を黙らせミライエを強引に側妃に召し上げる事だって可能だった国王が、ただ悲しみに呻いて泣いている。
このために…人払いをしたのか……?
こんな情けない姿を臣下に晒さない様に人知れずたった1人で………
リリーにはサシュがいた。しかしゼス国全土を統べる国王は今たった1人だった。
「母上……愛されて、いたんですね……」
番だけを愛して生涯求め続ける愛、そして敢えて寄り添わない愛…自分の心を殺しても貫こうとする愛…どれが良くて正解かリリーにはわからない。自分も国王と同じく涙で両目を濡らしている今は愛する事など分かりたくもなかった。
「多分、父は私に殺される事を望んでいたんだと思う…」
明らかに少な過ぎる近衛の数…侍従や侍女までも遠ざけて全てを闇に葬る形でリリーに殺されようとした。侵入者に反撃するならばリリーよりも魔力量溢れる王には簡単であったはずだ。近衛も少ないあの状況で近づいてくる者の気配を読まないわけはなかったから。王であった父は未練など微塵もなかったに違いない…ミライエが居なくなったこの世などに……
「俺もリリーが居なくなったら生きていたくないな……」
アーキンだとて番に出会うまではこんなに気持ちを動かされることなどなかった事だ。今ならば自分も王の気持ちがよく分かる。
「私には出来なかったんだ…結局父を殴れもしなかった…」
「リリー良かったんだよそれで…」
アーキンはリリーを抱え直す。よっと仰向けになって自由の利かないリリーを自分の胸の上で抱きしめた。
ダメだと思っていても手に入れずに居られない強い欲求…これはもう自分を抑えられるものではないものだから。だからミライエを自由にすること叶わず父王は手に入れてしまった…
「もし、リリーが行動を起こしていたら、こうして会う事はできなかっただろう?他のαに触られるのも婚約者面されるのもごめん被るがそんな事より、俺はリリーに会えない方がずっと堪える……」
「アーキン……」
「愛してる……リリー…」
優しい大きなアーキンの手がリリーの両頬を包んでそっと口付けを深くしていった…
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