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102.消えない熱 1 *
しおりを挟むいきなりと言うのは卑怯なのではないだろうか?
リリーが白の邸宅に帰って来てランクース王国第4王子ダバルとその番となるΩのイルンとの逢瀬の場をノルー、カルトンを交えて数日かけて煮詰めた後に事は起こった。
その日は既に対魔法第2・第3騎士団の帰城の報告を受けた後で、既にゼス国城へと帰って来ているだろうダバル宛に手紙を送った後だった。騎士団総司令の任を受けているリリーの身としては王城で開かれるであろう華やかなお茶会やら夜会やらに出席する暇など無い身だ。そしてΩのハウラを救出に出向く前にもらった一週間が近年まとめて貰えた休暇でもあった。
「リリー一段落いたしましたね?」
いつもの様にノルーはリリーの身の回りの世話をしながら業務の補佐もこなしている。白の邸宅離れの自室にて集まってくる報告書に目を通しながらリリーはノルーが入れた茶で喉を潤す。いつもの仕事の風景だ。
「ああ…」
考えられるだけの準備はした。イルンの方はサシュが身支度を整えて護衛には2人には馴染みのあるだろうヤリスをつけることにして…ダバルの方へもいつもの料理屋へ来れる様に采配をした。後は当人同士の問題だ。十中八九お互いが出会えれば番同士とわかるだろうから…その後の展開はダバルの方へと任せれば良い。一息ついたと言えば一息ついた。後はダバルの方から未だに囚われ続けているかもしれないΩの引き渡しをスムーズに行って貰えれば万々歳だ。
「後は…後々の事になりますが、イルン殿の輿入れ準備でございましょうか?」
王族へと嫁ぐのだ。着の身着のまま救出されたイルンには後ろ盾となる家も財産もない。
「番同士の婚姻に身分は要らんだろ?Ω蔑視があるランクースであってもダバル殿の強い希望があれば自分の城へ迎えることはできる。」
要はどれだけダバルがイルンを大切にしているかを周囲に示すことが大切なのだ。これは王族である自分のもので手を出すべからずとどれだけ示せるか。その為にダバルは手を抜かないだろう。イルンの輿入れ準備に係る物を全て自分で吟味しに来るに違いない。番とは時にはそんな執着を示すものだ。
「そうですね。その点ダバル殿下は優秀そうですものね。」
まったく物怖じしない彼の事だ。誰に何を言われようと自分の意思を押し通して強引にでも周囲を黙らせイルンを守っていくだろう。その気になればイルンを連れてランクース国を出れば良いだけのことなのだから。
「ではリリーも少しお休みしましょうか?」
「まだ全部片付いてないぞ?」
「一段落、尽きましたよね?」
ニッコリと兄の様な友の様な従者が微笑む。
「お部屋に贈り物を預かっておりますよ…」
「贈り物?」
リリーはゼス国王の落胤と言う立ち位置であったから貴族間の付き合いというものはほとんど持ってこなかった。なので手紙や贈り物を送り合う様な親しい関係の貴族はいない…
「はい。とても大切な物だそうです。」
「誰からだ?」
「行けばわかると言う事でした。」
ふ…と優しそうに笑うノルーのこの感じならば曰く付きの面倒な物ではないだろう。騎士団の関係の者か、その伴侶?騎士団に嫁いで行ったΩ達とてそんなに裕福なわけではない。王族として暮らすには不自由していないリリーに送れる様な物を用意できる者などそうはいないはずなのだが。
「さ、この書類は各所に届けておけば良いですね?こちらの後は引き受けますからまずは自室にお行きください。」
なかばノルーに押し出される様にしてリリーは執務室を追い出される。
「…全く…何を企んでいるのやら…」
リリーだとてまだやることがあった。騎士団としての仕事は確かに一段落を迎えたと言っても良いが、白の邸宅に運び込まれたハウラの様子やイルンの教育の進み具合などこの目で確かめに行こうとも思っていた事があるのだが、この分だと離れから出ようとしたらノルーに引き戻される事間違えなさそうな勢いである。ふ…とため息を吐きながらリリーは大人しく自室に向かった。
「あぁ……っあ…!」
リリーが部屋に入って若干の異変を嗅ぎ取ったと思った途端にいきなり背後から羽交締めにされて頸を噛まれた…!
リリーが振り解こうと思っても無理な事も分かってしまった…部屋に入って最初に嗅いだ違和感は魔力操作で極力自分の気配を抑えたアーキンのものだったから。今ではもう隠そうともしないアーキンの香りに充てられて、それもガードの上からだけれども頸を思い切り噛まれては身体の中を一気に熱と快感が駆け巡って力が入らなくなる。
「やぁ…っ…」
決してアーキンが嫌なわけではない、決して…けれども、ギリギリと頸ばかりを噛んでくる刺激にΩであるリリーの身体は耐えられそうに無いほどに疼いてくるものがあるのだ。既に力が抜けきって立つことも出来ないリリーはそのまま抱え上げられて自室の奥の寝室へと運ばれてしまった。
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