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99.香りの行方3
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ランクースから連れ出したΩはハウラと言う女のΩで年は25。双子を出産後直ぐに婚家から追い出されたんだそうだ。フラフラと道を歩いていてもわざわざΩに関わろうとする者も無く実家まで自力で帰るしか方法は無かった。極度の貧血と脱水、栄養失調にαに対しての拒絶反応があった。ゼス国国境で待ち構えていた対魔法騎士団本隊と合流し、対魔法第2騎士団所属マルス・オークスの回復魔法によって一時的に体力を戻したものの、αばかりの騎士団内ではどうしても落ち着く事ができずにレイが付きそう形でリリーとジーン率いる第1騎士団と共に先に帰城する事になった。
第2、第3騎士団はそれまでの経緯を説明された後、国境沿いを巡回しつつ帰城の運びとなる。
やっとハウラが寝ついた後、レイはリリーに挨拶してからそっとテントを後にする。対魔法第1騎士団はハウラの体力を考えてゆっくりと帰城する事になったからだ。
「大丈夫かな?」
「リリーは?」
「まだお仕事中ですね。ノルーさんに後をお願いしてそのまま出てきました。」
ノルーの怪我も大した事はなくいつもと変わらずにリリーの身の回りの事をしつつ更にハウラの世話までもこなしている。
「じゃ、お前も早く寝るんだ。」
「ジーンは?まだ仕事が?」
「まだ報告が上がって来るからな。お前はテントでいい子にしてな?」
やっと皆一息ついた頃合いである。騎士団内では各々休息をとっている時間帯であった。レイとて徒歩で国境越えをしているのだから疲れているだろう。
「僕……迷惑でした?」
本来ならばジーンはゼス国国境付近で本隊と共に待機であった。しかしレイがランクース国の軍の馬車に乗っていると聞いた時には心臓を鷲掴みにされた様な思いであったのだ。
ゼス国国境には後2人騎士団長がいる。
あの時の報告後、後ろも振り返らずにジーンは一人空へと飛び出していた。
「何を今更…」
そう、無事だった…1番最初にレイを囮に使うと決断したのは何を隠そうジーンだ。今回の様に連れていかれる事も、囮で攫われる事も同じ様な危険はあるのだ。そんな中に自分の番を……
計画をかえりみず飛び出して行った自分を振り返れば結局の所何の決意もできていなかった事に愕然とする。
「無事で良かったよ、レイ…でも頼むから、一人で決めていかないでくれ…」
そっとレイを抱きしめて来るジーンの腕が震えている。
「はい…でも、ハウラさんにとってはやっぱりΩがいた方が良かったでしょう?」
今までどんな扱いを受けてきたのか、小屋に入った時に騎士がαである事を告げた瞬間に弱った身体に鞭打ってハウラは最大限騎士達から距離を取ろうと必死に逃げ惑ったのだ。
「僕もそうだったから…」
「レイ…思い出さなくていい…愛してる…」
「ジーン…仕事、まだあるんでしょ?いってらっしゃい…!」
「ああ…続きは帰ってからな?」
チュウッと一度深く口付けしてジーンは名残惜しそうにゆっくりと離れて行った。
「ばか…!早く行って下さい!」
まだ部下の騎士達は起きて活動している。なんならここはテントの外で…まだ結婚していない騎士だって多いのにわざわざ見せつける様な事しなくてもいいのに…!
「あぁ、行ってくる!」
フッと意地の悪い笑顔を浮かべてジーンは仕事に戻って行った。
「……バカ……」
キスなんて何回もして、慣れているのにまだ顔が熱くなる。何度触れても飽きないのは何でだろう?何度でもまだ触れていたくなるのは?あの可哀想なハウラはきっとまだ知らない。自分の命よりも願いよりも大切に思える相手がいるって事を。
「リリー様も…バカだ…」
こんなに愛しい人、知らない。自分がこんなに人を愛せるって事も分からなかった。愛する人から触れてもらえる感覚も特権も自分が相手へ与える事のできる喜びも全てが自分のものだって言う幸福感と優越感…手放せるはずなんてないのに………
「落ち着いた様ですね?」
「熱は?」
「はい、先程解熱剤を飲んで頂きましたから。」
リリーのテントの中ではノルーがこまめにハウラの世話を焼く。このテントにはβのノルーとΩのリリーしかいない。しかし女性のハウラをここに置いておくのはどうかとも思えるのだが、ハウラの体調は思わしく無くマルスの回復魔法でやっと真面に話せるようになった程なのだ。まだ人の手を借りて世話を焼いた方が良いだろうとリリーも判断してのことだった。
「お子様の事…心配でしょうね…」
掛け物からはハウラの痩せ細った腕が見えていて痛々しい…自分の子供を取り上げられる事の無念さは如何程だろう…
「子供か…αならば文句無く大切に育ててもらえるだろうな…」
α至上主義の国だ。きっと優遇して育ててもらえる。子供の幸せは何処からでも祈れるものだと言っても母の温かみだけは触れて初めて知る物なのに…
「真っ直ぐに、強く良い子に育ってほしいですね…」
リリーの様に強く優しい子に………
「子供か………」
そうαならば申し分なく十分に、保護して貰えて暮らしていけるはずである。ハウラの子の様にリリーとサシュがαであったなら、一体どんな人生だったのだろう……
第2、第3騎士団はそれまでの経緯を説明された後、国境沿いを巡回しつつ帰城の運びとなる。
やっとハウラが寝ついた後、レイはリリーに挨拶してからそっとテントを後にする。対魔法第1騎士団はハウラの体力を考えてゆっくりと帰城する事になったからだ。
「大丈夫かな?」
「リリーは?」
「まだお仕事中ですね。ノルーさんに後をお願いしてそのまま出てきました。」
ノルーの怪我も大した事はなくいつもと変わらずにリリーの身の回りの事をしつつ更にハウラの世話までもこなしている。
「じゃ、お前も早く寝るんだ。」
「ジーンは?まだ仕事が?」
「まだ報告が上がって来るからな。お前はテントでいい子にしてな?」
やっと皆一息ついた頃合いである。騎士団内では各々休息をとっている時間帯であった。レイとて徒歩で国境越えをしているのだから疲れているだろう。
「僕……迷惑でした?」
本来ならばジーンはゼス国国境付近で本隊と共に待機であった。しかしレイがランクース国の軍の馬車に乗っていると聞いた時には心臓を鷲掴みにされた様な思いであったのだ。
ゼス国国境には後2人騎士団長がいる。
あの時の報告後、後ろも振り返らずにジーンは一人空へと飛び出していた。
「何を今更…」
そう、無事だった…1番最初にレイを囮に使うと決断したのは何を隠そうジーンだ。今回の様に連れていかれる事も、囮で攫われる事も同じ様な危険はあるのだ。そんな中に自分の番を……
計画をかえりみず飛び出して行った自分を振り返れば結局の所何の決意もできていなかった事に愕然とする。
「無事で良かったよ、レイ…でも頼むから、一人で決めていかないでくれ…」
そっとレイを抱きしめて来るジーンの腕が震えている。
「はい…でも、ハウラさんにとってはやっぱりΩがいた方が良かったでしょう?」
今までどんな扱いを受けてきたのか、小屋に入った時に騎士がαである事を告げた瞬間に弱った身体に鞭打ってハウラは最大限騎士達から距離を取ろうと必死に逃げ惑ったのだ。
「僕もそうだったから…」
「レイ…思い出さなくていい…愛してる…」
「ジーン…仕事、まだあるんでしょ?いってらっしゃい…!」
「ああ…続きは帰ってからな?」
チュウッと一度深く口付けしてジーンは名残惜しそうにゆっくりと離れて行った。
「ばか…!早く行って下さい!」
まだ部下の騎士達は起きて活動している。なんならここはテントの外で…まだ結婚していない騎士だって多いのにわざわざ見せつける様な事しなくてもいいのに…!
「あぁ、行ってくる!」
フッと意地の悪い笑顔を浮かべてジーンは仕事に戻って行った。
「……バカ……」
キスなんて何回もして、慣れているのにまだ顔が熱くなる。何度触れても飽きないのは何でだろう?何度でもまだ触れていたくなるのは?あの可哀想なハウラはきっとまだ知らない。自分の命よりも願いよりも大切に思える相手がいるって事を。
「リリー様も…バカだ…」
こんなに愛しい人、知らない。自分がこんなに人を愛せるって事も分からなかった。愛する人から触れてもらえる感覚も特権も自分が相手へ与える事のできる喜びも全てが自分のものだって言う幸福感と優越感…手放せるはずなんてないのに………
「落ち着いた様ですね?」
「熱は?」
「はい、先程解熱剤を飲んで頂きましたから。」
リリーのテントの中ではノルーがこまめにハウラの世話を焼く。このテントにはβのノルーとΩのリリーしかいない。しかし女性のハウラをここに置いておくのはどうかとも思えるのだが、ハウラの体調は思わしく無くマルスの回復魔法でやっと真面に話せるようになった程なのだ。まだ人の手を借りて世話を焼いた方が良いだろうとリリーも判断してのことだった。
「お子様の事…心配でしょうね…」
掛け物からはハウラの痩せ細った腕が見えていて痛々しい…自分の子供を取り上げられる事の無念さは如何程だろう…
「子供か…αならば文句無く大切に育ててもらえるだろうな…」
α至上主義の国だ。きっと優遇して育ててもらえる。子供の幸せは何処からでも祈れるものだと言っても母の温かみだけは触れて初めて知る物なのに…
「真っ直ぐに、強く良い子に育ってほしいですね…」
リリーの様に強く優しい子に………
「子供か………」
そうαならば申し分なく十分に、保護して貰えて暮らしていけるはずである。ハウラの子の様にリリーとサシュがαであったなら、一体どんな人生だったのだろう……
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