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95.異国の王子 6

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「秘密裏には…易々と上手く事は運ばないか……」

「おや?何かおいたをしたかったのか?リリー?と、リーシュレイト殿下?」

 親しくない内は愛称で呼ぶなとつい先日ダバルはノルーに進言されたばかりであった。

「それではこちらもお聞きしたい。ダバル殿下は只今ゼス国に滞在中でありましょう。何故にこちらへランクース国?」

 一呼吸ついて落ち着きを取り戻したジーンもレイを腕に抱きしめたまま会話に参戦する。

「それはここは俺の故郷だしな。ただのホームシックさ…で?そっちは?まさか愛しの我が番殿が追いかけて来てくれたのかな?それならば大歓迎さ!」

「私には番はいない。」

「そうだろうな。どこかの野良犬君はうろうろしているようだけどな?」

「ダバル殿下!」

 ノルーは野良犬の部分をどうしても聞き逃すことができずに声を上げた。

「ヤリス、ノルーを連れて一度本隊へ戻れ。」

「おい…まさか、ゼスはランクースに攻め入る気か?」

「まさか…いくらなんでもそんなに愚かしい事はしない。私の本隊はゼス国国境にて私の帰りを出迎える為にいる隊だ。ヤリスはしっかり休養して来る様に、ノルーは治療だ。」

 ダバルの行動を監視するために自身の休息をほとんど取っていないヤリスの体力も限界に近いだろう。ノルーもだ。ジーンが放った水魔法攻撃の効力はダバルの前にノルーが飛び出す直前に消し去ったが一緒に巻き込まれた木の枝か何かで肩を負傷しているため手当てが必要だ。

「まさか!私がリリーの側を離れるなんて!」

 ありえません…!

「ここには第1騎士団団長とその部下の精鋭騎士がいる。ダーウィン卿問題はない。そして私達には敵意はない。そうですね?リリー。」

 敵意がないと言う部分に1番程遠いジーンが己に言い聞かせる様にそう言い切った。

「流石団長ともなると話が少しは通じるのかな?さて…?」

「Ωの保護を行っている。」

 リリーが単刀直入に言い切った。

「ダーウィン卿、ヤリス行きなさい。」

 レイを離そうとしないジーンに促されノルーとヤリスは一礼してその場から姿を消す。

「いい部下をお持ちだな?番殿?主人の命令を徹底遵守している。」

 見た目ならば1番年若いヤリスが一言も話す事なくダバルについてきた。見張っておけとでも言い付けられていたのだろう。どんな事態になろうとも、例え自国のΩが巻き込まれようとも主人の命令を遂行する、強靭な精神力の持ち主であった。

「お褒めいただき感謝する。近年貴国で起こっているΩの失踪について追っていて私はその件についてここに来た。」

「ゼス国には関係なくないか?」

 Ωの失踪ねぇ…こっちランクースには心当たりがありすぎるな。

「そうとも言い切れない。ゼス国内で違法にΩの人身売買の動きがあった。」

「……うちとの関与は?」

「Ωを買った者がランクース国の兵から買ったと自供している。」

「まじか!!あいつら……!」

……?やはりランクースのそれも国を上げての関与か?」

 ザワリ…森の中の空気が動く…

「いや、国は関係ねぇな。俺の一存だ。」

「は…?貴殿の?」

「なんだ?家に帰してやれって言っておいたのに……?」

「………どう言う事か、説明してもらおうか?」

 リリーの周囲に火花が散る…

「待て!確かにΩを集めてるのは俺だ…!だが売り飛ばしていいとは言っていない!」

「ダバル殿下…理由はどうであれ現に娼館に売り飛ばされていた子がいるんですよ!」

 リリーから飛んでくる火の粉からレイを庇いながら少しだけジーンはリリーから距離を取る。レイをリリーの攻撃範囲外に移したいのだろう。

「集めたΩは家に帰す様に言いつけていたはずだ…!」

「確認はしたのか?」

 どんな理由であれ勝手に力尽くで攫って置いて用はなくなったら無責任に放り出す。最低なやり方ではないか…

「嫌…そこまではしてなかったな?何しろより多くΩに目通ししたかったからなぁ…」

 ビシリ…本格的にリリーの周囲の木が軋む…

「リリー、ダーウィン卿はいませんからね?無茶はしないでくださいよ?」

 何と言ってもここは他国で相手は王族だからだ。

「何の為に、Ωを集めている?」

 リリーの声が低くなる。

「…ふ…そりゃ自分の番を見つける為だろうが?」

 風が吹き荒れてきて各々の髪や服を乱して行くがダバルは驚くほど落ち着いていた。

「ま、もう俺の目の前にいるからもう探さなくてもいいんだけどな?」

 そう…どんなΩであれ会ってみなければ分からないものだ。顔も覚えていないあのΩについては手がかりはあの香りのみ…だから隣国ゼス国のΩの王子との縁談が来た時にも大いに乗り気だったのだ。一つ手がかりを手に入れられるのだから。会ってみて、正解だったと確信したはずなのに…

 でも、何故まだ俺は探している……?

「私はダバル殿下の番ではないし番にもなれん。」

「前にも言ったが、リーシュレイト…あんただ。俺の番の香りがする…」

 いくらリリーが否定しようとも、これだけは譲れない。忘れるはずなんてないだろう?自分の番の香りを…

「俺はその香りを知っていたんだ…!」











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