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91.異国の王子 2

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「なぁ、あんたは何で名前だ?」

「あ!失礼しました…!僕はレイって言います。」

 かれこれ出会ってからかなり時間が経つのにダバルの名前を聞きはしてもレイは自分の名前を名乗っていない事に気が付かなかった。

「ふ~~ん、レイね?あんたの番は?」

「…僕の、ですか………」

 ウサギ肉を抱えながらレイが固まる。難しい事を聞いたつもりはないのだがどうにもレイは言い淀んでいる。

「悪い。立場上言えない場合もあるよな?」

「あ!いえ、言っちゃいけない事ではないんです。ただ………本当に、黙ってでてきちゃったから……」

「今頃心配して発狂でもしてるかもしれないって?」

「いえ……家にはいませんから…」

「あ?一緒に住んでないのか?」

 そんなにαの匂いをさせてるのに?

「違います!勿論、一緒に住んでますよ?今はお仕事で出てしまっていて、帰ってきていないだけで…」

「へ~忙しいんだな?」

「はい!立派なお仕事をされています!」

 おどおどしているΩのくせに、自分の番の事を話す時にはキッパリと誇らしげに語り出す。

「ふ…やっぱり番が1番か?」

「勿論です!あの方以外に添い遂げようと思う人はいません!」

 手をギュッと握りしめて力説だ。

「ふっ…そんなもんかねぇ?」

 ΩはΩ…発情してしまえばそんな夢や理想もすぐに吹き飛ぶはずなのに…

「ダバル様には番様は居ないのですか?」

「…………」

 このΩ、痛い所をついてくる。つい最近婚約者だと思っていた者にこっ酷く振られたばかりだ。

「ま……まだ諦めてないけどな!」

「どなたか候補の方がおられるんですね?」

「まぁね。でも靡いてくれなくてさ…」

 はは、参ったね。まさかランクース国の王族とあろうものが他国の番持ちのΩに愚痴る事になろうとは思わなかった。

「勿体無いですね?こんなに優れていらっしゃる方なのに!」

 何を基準に優れている、のかは甚だ疑問ではあるがレイはレイなりにダバルを慰めてくれている様である。
 
「こればかりはなぁ…自分の番じゃなければなんとも……」

 おかしいな…確かに匂いはしているのに…あの時のたった一度の口付けでこんなに人を夢中にさせておいて自分は我関せずなんて、どんないけずだ全く……

「ダバル様は本当にその方が好きなんですね…?」

 フワリと笑うレイの表情はかなり柔らかくなった。あったばかりの頃と比べれば随分と慣れてきたのだろう。

「う~ん?そうなんだろうな?会うのを随分楽しみにもしていたんだがな?その前に虫が付いてて気分が悪いったら!」

「え?横恋慕ですか?」

「なんだそりゃ?」

 どこの恋愛小説を読み漁っているんだこのΩは…横恋慕される程の隙を作ったこっちの問題で、取られたら取り返せばそれで終わりだ。

「俺が、番を取られたら指を咥えて黙ってみてる様な玉に見えるか?」

「いいえ…牙を剥き出して襲いかかっていきそうです。相手の人に…」

「くくくくっ!おまえ、良くαを理解しているな!当たり前だ、赤の他人に取られて黙っていられるか!」

 そうだ、黙って待っている必要などないのだから。野良犬が邪魔ならば排除すればそれでいい…俺のΩを少しの間好きに出来ただけでもありがたいと思ってもらおう…

「ひっ…!あの…ダバル様?」

「あ?」

「恐ろしいお顔をしていますよ?」

 Ωは弱い…少しのαの威嚇にも対抗することができないだろうほどに…

「あ、悪かった。お前に怒っているのではない。俺のΩを掻っ攫ったやつに腹を立ててるんだ。」

「ダバル様の番様はどんな方です?僕の方は……強い方です……」

 しんみりと噛み締める様な言い方をする。

「なぁ、レイよ、お前幾つ?」

「僕はこれでも28になるんですよ?」

「うぇ!年上かよ………」

 なんともこの頼りなさ加減でてっきり年下だとばかり思っていたのに…

「幼く、頼りなく見えるもんですよねぇ…Ωって…」

 全てを頼りにして欲しいわけじゃ無いけど少しばかりは大切な人の役に立ちたいと思っているのに…いつもいつも…助けてもらって、良くしてもらって、愛してもらってばかりなのはこっちの方で…

「あ…なんか情けなくなってきました……」

「なんでお前が落ち込むのさ?」

「だって…ダバル様だって僕の事は頼りなく見えるのでしょう?だったら僕はあの方からもそう見えているんだろうなぁって考えちゃって…」

「番か?」

「ええ…」

「ばっかじゃねーの?」

「はい?」

「番ったら自分の番がどんな優秀なものよりも優秀に見えるんだよ!お前がどんな奴だからとか関係ないだろう?お前は違うのか?」

 身分や地位で自分の番を判断するのか?

「いいえ!違いません!あの方がどんな方だって!僕の大切な1番ですから!」

「だろう?そうやってわかってるんだったらお前の番だってお前のことをそう思ってるさ。だからもう落ち込むな、辛気臭い。」

「失礼しました。ダバル様の番様に早くお気持ちが届くといいですね?」

 気持ちが届く、か…あの王子にねぇ…

 見たところ、全くこちらを振り向く気配さえしない。こっちは反応しているって言うのに、表情も微塵も動かさなかった…

「なんて言う自制心なんだか……」

 やれやれ、と強情な番にはふ…と苦笑しか漏れてこない。顔を見れなかったのが非常に残念だった。あのフードの下にはどんな色が隠されていて、愛の言葉を囁いたならどんな表情を見せてくれるのやら…

「さて、食い終わったな?日が落ちる前に中央に向かって進むぞ?」

「あ!はい、只今!」

 従順と思えるΩのレイは言われるままについてくる。もし、リリーがこうだったなら?

「いや、面白く無いな…」

 あれはあれだから、それでいい。







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