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90.異国の王子 1
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「あぁ~~!もうしょうがねぇ!で、どこまで行くの?」
このままこの者を放って行っても全く構わないのだ。自分の国の者じゃないしΩだし…
「あの……ここまで……」
おずおずとそのΩが差し出してきた物に書いてあった場所はとんでも無い所だった…
「おま…!馬鹿か!!どこのΩが番も連れずに奴隷市になんて行けると思うんだ!」
やはりΩはΩだった…短絡的で思慮深くも無い…
「で、でも……きっと、そこに行くと思うので……」
ビクビクしながらもこのΩは必死に自分の言いたい事を伝えてくる。
「あのなぁ…あんた世間知らずなのか?奴隷市がどんな所か知らないのか?」
「知っています………」
「何でそんな所行きたいんだよ?」
「きっと…お役に立てると思ったから…」
「お前の番のか?」
「はい…」
しょんぼりと項垂れてしまったΩは翠の大きな瞳に黒髪の整った顔立ちだ。市に出されたならば良い値がつくだろう。本来ならば自分の身の上も考えないで一人でこんな所まで来るような馬鹿なΩだし自業自得と放って置くに限る。が、どうにもこのΩからは見知ったαの香りがしていて落ち着かないのだ。
どこであった?
身近な者では無いだろう。が、見過ごさない方が良いと自分の中でさっきから警鐘が鳴っている。
「だってよ?あんたならどうする?あんたの国のΩだろ?」
上を向いて声をかける。が、やはり返答はない。
「参ったな…自国民の保護は職務外か?」
「あの…どなたかいらっしゃるのですか?」
「ん?あ~~いい!分からないんなら気にしてもしょうがないだろ?どうするかなぁ?」
「一人ではやはり無理な所でしょうか?」
「は?今更そんなこと言ってるのかよ?誰だ?お前の番は?こんなに世間知らずなΩなんかがこんな所行ってみろ?番がいようがお構いなしに売り飛ばされるぞ!」
「……!?」
どうやらこのΩは売り飛ばされる恐怖は知っているらしい。身体を固くして顔色が一瞬で青くなる。
「なあ、怖いんだろう?何でそんな思いまでしてこんな所に行きたいんだ?知り合いがいるんでもないだろうが?」
「Ωは……αを恐るかもしれませんから…」
「ん?」
「もし、保護されたΩがいるとしても…その、もし酷い事をされていたらいくら助けてもらったとしてもαを怖がりますから…だから…」
「同じΩがいた方がいいって思ったのか?」
コクリ………小さく頷くΩの怯えた様子は確かに庇護欲をそそるものだ。それと同時に力ずくでねじ伏せて有無も言えないほどに泣かせてみたい…
これだからΩは搾取され続けるのだ。
「あんたはやり方を間違えたな…」
はぁぁぁぁ……と、大きく大げさにため息を吐く。
「まずは絶対に先に自分の番に話しておくべきだった。知らんぞ?後でお仕置きされても…ほら!行くんだろ?」
「え?お仕置き…?」
明らかにドギマギしだしたΩを見てまたため息をつく。
「ほれ、早くしないとあんたの足じゃ近くの村まで行くのに夜中になるぞ?」
この国ではΩは歓迎されていない。どこの誰とも分からない番持ちならば尚更だろう。いつかは捕まえられて無理矢理いう事を聞かせて子供を産ませる。胸糞の悪い結末しか見えてこないからこの国は終わっているんだ…
「αがいれば少しは怪しまれんだろうが?」
一人でゼス国に帰したとしても愚かなΩはまた同じ事を繰り返すかもしれない。ならば目的を果たしつつこのΩにしばらく付き従ってもいいだろう。
「ほら!行くぞ!」
「え?え…良いのですか?道案内をお願いしても!?」
「あ~ぁ…俺はあんたの番様に心から同情するね………なぁ、そこの!心当たりがあるんなら君のご主人様に知らせてくれよ?」
返事は期待していないが言いたい事は伝わっているだろう。勘が外れていなければリリーに近しい者の誰かの番では無いかと推測できる。この者に付いているαの匂いはゼス国の者の匂いじゃ無いからだ。
ランクース国は酷くΩを嫌う国の一つとして挙げられている。優秀なαはΩからしか産まれないにも拘らずΩを毛嫌いする風潮が未だに理解できない。
「全く、馬鹿馬鹿しいよなぁ!」
あ~~ん!と、焼いたウサギの肉にかぶり付きながらダバルは愚痴る。宝を大事に扱わないのに更にそこからもっと価値のある物を作り出せと叩きつけていじめ抜いているのだから。
「ほら、あんたも食いな?肉は嫌いか?」
偶然国境付近で見つけたΩの男。名乗っても驚きもせずにダバルに接してくる。これはダバルの正体を知らないからに他ならない。
「いえ、嫌いでは無いです。これ、大きいですね?」
これは先程ダバルが一瞬で捕まえたウサギであっという間に捌き終わったかと思ったら直ぐに焚き火に放り込まれたのだ。
「何だ?森にいたらこんなの普通だろ?」
「はい。でも僕達は自由に食べられませんでしたから…」
村は貧しく、誘拐されてからは食事を選ぶ権利さえなかった。
「ふ~~ん…今は誰も取りはしないから存分に食え。」
村まではまだ距離があるのだ。その道中に目的のものを見つけられればそれでよし。そうじゃなくてもこのΩをずっと連れて歩くわけにも行かないし、さて、どうしたものか…
このままこの者を放って行っても全く構わないのだ。自分の国の者じゃないしΩだし…
「あの……ここまで……」
おずおずとそのΩが差し出してきた物に書いてあった場所はとんでも無い所だった…
「おま…!馬鹿か!!どこのΩが番も連れずに奴隷市になんて行けると思うんだ!」
やはりΩはΩだった…短絡的で思慮深くも無い…
「で、でも……きっと、そこに行くと思うので……」
ビクビクしながらもこのΩは必死に自分の言いたい事を伝えてくる。
「あのなぁ…あんた世間知らずなのか?奴隷市がどんな所か知らないのか?」
「知っています………」
「何でそんな所行きたいんだよ?」
「きっと…お役に立てると思ったから…」
「お前の番のか?」
「はい…」
しょんぼりと項垂れてしまったΩは翠の大きな瞳に黒髪の整った顔立ちだ。市に出されたならば良い値がつくだろう。本来ならば自分の身の上も考えないで一人でこんな所まで来るような馬鹿なΩだし自業自得と放って置くに限る。が、どうにもこのΩからは見知ったαの香りがしていて落ち着かないのだ。
どこであった?
身近な者では無いだろう。が、見過ごさない方が良いと自分の中でさっきから警鐘が鳴っている。
「だってよ?あんたならどうする?あんたの国のΩだろ?」
上を向いて声をかける。が、やはり返答はない。
「参ったな…自国民の保護は職務外か?」
「あの…どなたかいらっしゃるのですか?」
「ん?あ~~いい!分からないんなら気にしてもしょうがないだろ?どうするかなぁ?」
「一人ではやはり無理な所でしょうか?」
「は?今更そんなこと言ってるのかよ?誰だ?お前の番は?こんなに世間知らずなΩなんかがこんな所行ってみろ?番がいようがお構いなしに売り飛ばされるぞ!」
「……!?」
どうやらこのΩは売り飛ばされる恐怖は知っているらしい。身体を固くして顔色が一瞬で青くなる。
「なあ、怖いんだろう?何でそんな思いまでしてこんな所に行きたいんだ?知り合いがいるんでもないだろうが?」
「Ωは……αを恐るかもしれませんから…」
「ん?」
「もし、保護されたΩがいるとしても…その、もし酷い事をされていたらいくら助けてもらったとしてもαを怖がりますから…だから…」
「同じΩがいた方がいいって思ったのか?」
コクリ………小さく頷くΩの怯えた様子は確かに庇護欲をそそるものだ。それと同時に力ずくでねじ伏せて有無も言えないほどに泣かせてみたい…
これだからΩは搾取され続けるのだ。
「あんたはやり方を間違えたな…」
はぁぁぁぁ……と、大きく大げさにため息を吐く。
「まずは絶対に先に自分の番に話しておくべきだった。知らんぞ?後でお仕置きされても…ほら!行くんだろ?」
「え?お仕置き…?」
明らかにドギマギしだしたΩを見てまたため息をつく。
「ほれ、早くしないとあんたの足じゃ近くの村まで行くのに夜中になるぞ?」
この国ではΩは歓迎されていない。どこの誰とも分からない番持ちならば尚更だろう。いつかは捕まえられて無理矢理いう事を聞かせて子供を産ませる。胸糞の悪い結末しか見えてこないからこの国は終わっているんだ…
「αがいれば少しは怪しまれんだろうが?」
一人でゼス国に帰したとしても愚かなΩはまた同じ事を繰り返すかもしれない。ならば目的を果たしつつこのΩにしばらく付き従ってもいいだろう。
「ほら!行くぞ!」
「え?え…良いのですか?道案内をお願いしても!?」
「あ~ぁ…俺はあんたの番様に心から同情するね………なぁ、そこの!心当たりがあるんなら君のご主人様に知らせてくれよ?」
返事は期待していないが言いたい事は伝わっているだろう。勘が外れていなければリリーに近しい者の誰かの番では無いかと推測できる。この者に付いているαの匂いはゼス国の者の匂いじゃ無いからだ。
ランクース国は酷くΩを嫌う国の一つとして挙げられている。優秀なαはΩからしか産まれないにも拘らずΩを毛嫌いする風潮が未だに理解できない。
「全く、馬鹿馬鹿しいよなぁ!」
あ~~ん!と、焼いたウサギの肉にかぶり付きながらダバルは愚痴る。宝を大事に扱わないのに更にそこからもっと価値のある物を作り出せと叩きつけていじめ抜いているのだから。
「ほら、あんたも食いな?肉は嫌いか?」
偶然国境付近で見つけたΩの男。名乗っても驚きもせずにダバルに接してくる。これはダバルの正体を知らないからに他ならない。
「いえ、嫌いでは無いです。これ、大きいですね?」
これは先程ダバルが一瞬で捕まえたウサギであっという間に捌き終わったかと思ったら直ぐに焚き火に放り込まれたのだ。
「何だ?森にいたらこんなの普通だろ?」
「はい。でも僕達は自由に食べられませんでしたから…」
村は貧しく、誘拐されてからは食事を選ぶ権利さえなかった。
「ふ~~ん…今は誰も取りはしないから存分に食え。」
村まではまだ距離があるのだ。その道中に目的のものを見つけられればそれでよし。そうじゃなくてもこのΩをずっと連れて歩くわけにも行かないし、さて、どうしたものか…
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