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84.ヤキモチ 4
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直ぐには動け無さそうなリリーを抱えてアーキンは管理小屋に移動した。そこは小さな木造りの机に椅子、簡易な寝台が置いてあるだけの小さな小屋だ。部屋の中央に大きな蓋つきの籠が置いてある。ベッドも真新しいシーツに変えてあったのはきっとヤリスが整えて行ったからだろう。
アーキンはリリーをとりあえずベッドへと運ぶと大きな籠を開けてみる。中には湯が入ったピッチャーにタライ、タオル、衣類に飲み物の瓶が数本、そして沢山の食糧が入っていた。
「何か食う?」
昨日会ってから二人とも何も食べていない。アーキンはリリーが寝入ってから途中だった厩舎の掃除と餌やりを終えていてそろそろ空腹が堪えてきていた。
「ん…そうだな…」
リリーは柔らかい表情でアーキンを見つめる。まだアーキンはリリーが思い切り笑った顔を見た事がない。いつも側にいるノルー・ダーウィンは見た事があるのだろうか?やっと落ち着いた嫉妬心がまたモヤモヤと湧き出してくる。
アーキンは飲み物の瓶の一つを開けると置いてあったグラスに注いでリリーのところに持っていった。それを自分の口に含み直接リリーの口に流し込んでやる。こんな事でリリーは柔らかく微笑むのだ。きっと、この顔はノルーであっても見たことはないだろう。
「リリー…」
何度でも望むままにアーキンはリリーに飲ませてやった。
「これ、取れないのか?」
ある程度腹を満たした二人はまだ自由にならないリリーに付き添って寝台の上でゴロゴロする。散々リリーの身体を堪能したであろうアーキンなのに、どうしてもリリーの首にしっかりと巻き付いているガードが気に入らなくて仕方ないらしい。
リリーのガードは二人が睦み合う中でアーキンが何度も噛み付いたために綺麗な革肌にいくつもの歯形が付いて表面に沢山傷がついてしまった…
「取らない」
「取らない?取れないじゃなくて?」
アーキンの瞳が驚愕に見開かれる。
昨夜はアーキンは何度も噛みたいとリリーに言った。リリーだとてもう真面に話せない様な状況下であってもまんざらでもない様子で首を何度も差し出してきていたのに。それなのにガードが外れないのは、きっと誰かから封印が掛けられているからだと思っていたのだが…
「ちゃんとここは駄目だと言っただろう?」
駄々っ子を諭す様な物言いだがリリーが正気の時には確かに言っていた事だ。
「リリーは…俺とは番たくはないのか……」
それを聞いたアーキンの声が情けなくも震えている…もし、お前は相手に不足だと言われでもしたら本気で立ち直れそうにない……
「勘違いするなアーキン。お前と、じゃなくて、私は誰とも番う気はない。」
無意識にリリーはするっと首のガードに触れる。アーキンが必死に齧り付いてきた時の歯形でボコボコになってしまっている……
「俺は……」
アーキンの瞳が揺れる。
「アーキン、話をしよう…」
横にゴロンと転がりながらリリーは自分の胸元にアーキンの頭を抱え込む。
「話したいことがある……」
知らずギュッとアーキンの頭を抱え込むリリーの両手に力が入った。
「ん………」
リリーを抱き返すアーキンの両腕の愛しい事…さっきまで散々押さえつけられていい様にされていたと言うのに少しも嫌悪を感じない…
「私の魔力量の事は知っているな?」
「あぁ…化け物級だって事は理解してる。」
何時ぞやは良くも眠らせてくれたものだと寝物語に恨み言でも言いたいが、それ以上の幸せをもらってしまってその時のことを考えると柄にもなくにやけそうになるから困る。
「そう…王家の血筋を濃く引いてしまって、父である国王陛下に次いで私の魔力量は多い…」
「それは凄い事なんだろう、リリー?」
「そうだな…兄上よりも、多いから…」
「王太子殿下?」
アーキンはまだ直接会った事もない。現ゼス国国王の正妃の子で腹違いのリリーの兄だ。
「そうだ。兄より多く、また特殊な能力もある…」
「………良いのか?」
王家の秘密…リリーが現国王の実の息子である事も公然の秘密とされている現在、その王家が隠しておきたい情報もまだあるのだろうが、リリーはそれを話そうとしている…?
「いいも、悪いも…それが番ってやれない秘密なんだが…知りたくはないのか?」
ガバッとアーキンはリリーに覆いかぶさる様に食いついてくる。
「本当に…?」
「こうなってからではお前が事情を知らないのはフェアじゃないだろ?」
ガードを傷だらけにする位に噛み跡をつけているんだから…共に過ごす覚悟をするならば話しておかなければならないだろう。
「私は自在にΩフェロモンを操れるんだ。それも、広範囲に渡って…」
覗き込むアーキンの頬にそっと触れながら紫金色のリリーの瞳は揺るがない。
「発情期でも無いのに?」
「そうだ……」
だからか…初めて崖の下でリリーを見た時も、セロントでの時も。確かに発情をしてΩフェロモンを漂わせていたのにリリーは全くαを求める事もせず敵対する者に凛と対峙していた……
「それに自分の魔力も被せて人を操る事もできる…」
これはもう、あの幼い日から一度も繰り返していないが…
アーキンはリリーをとりあえずベッドへと運ぶと大きな籠を開けてみる。中には湯が入ったピッチャーにタライ、タオル、衣類に飲み物の瓶が数本、そして沢山の食糧が入っていた。
「何か食う?」
昨日会ってから二人とも何も食べていない。アーキンはリリーが寝入ってから途中だった厩舎の掃除と餌やりを終えていてそろそろ空腹が堪えてきていた。
「ん…そうだな…」
リリーは柔らかい表情でアーキンを見つめる。まだアーキンはリリーが思い切り笑った顔を見た事がない。いつも側にいるノルー・ダーウィンは見た事があるのだろうか?やっと落ち着いた嫉妬心がまたモヤモヤと湧き出してくる。
アーキンは飲み物の瓶の一つを開けると置いてあったグラスに注いでリリーのところに持っていった。それを自分の口に含み直接リリーの口に流し込んでやる。こんな事でリリーは柔らかく微笑むのだ。きっと、この顔はノルーであっても見たことはないだろう。
「リリー…」
何度でも望むままにアーキンはリリーに飲ませてやった。
「これ、取れないのか?」
ある程度腹を満たした二人はまだ自由にならないリリーに付き添って寝台の上でゴロゴロする。散々リリーの身体を堪能したであろうアーキンなのに、どうしてもリリーの首にしっかりと巻き付いているガードが気に入らなくて仕方ないらしい。
リリーのガードは二人が睦み合う中でアーキンが何度も噛み付いたために綺麗な革肌にいくつもの歯形が付いて表面に沢山傷がついてしまった…
「取らない」
「取らない?取れないじゃなくて?」
アーキンの瞳が驚愕に見開かれる。
昨夜はアーキンは何度も噛みたいとリリーに言った。リリーだとてもう真面に話せない様な状況下であってもまんざらでもない様子で首を何度も差し出してきていたのに。それなのにガードが外れないのは、きっと誰かから封印が掛けられているからだと思っていたのだが…
「ちゃんとここは駄目だと言っただろう?」
駄々っ子を諭す様な物言いだがリリーが正気の時には確かに言っていた事だ。
「リリーは…俺とは番たくはないのか……」
それを聞いたアーキンの声が情けなくも震えている…もし、お前は相手に不足だと言われでもしたら本気で立ち直れそうにない……
「勘違いするなアーキン。お前と、じゃなくて、私は誰とも番う気はない。」
無意識にリリーはするっと首のガードに触れる。アーキンが必死に齧り付いてきた時の歯形でボコボコになってしまっている……
「俺は……」
アーキンの瞳が揺れる。
「アーキン、話をしよう…」
横にゴロンと転がりながらリリーは自分の胸元にアーキンの頭を抱え込む。
「話したいことがある……」
知らずギュッとアーキンの頭を抱え込むリリーの両手に力が入った。
「ん………」
リリーを抱き返すアーキンの両腕の愛しい事…さっきまで散々押さえつけられていい様にされていたと言うのに少しも嫌悪を感じない…
「私の魔力量の事は知っているな?」
「あぁ…化け物級だって事は理解してる。」
何時ぞやは良くも眠らせてくれたものだと寝物語に恨み言でも言いたいが、それ以上の幸せをもらってしまってその時のことを考えると柄にもなくにやけそうになるから困る。
「そう…王家の血筋を濃く引いてしまって、父である国王陛下に次いで私の魔力量は多い…」
「それは凄い事なんだろう、リリー?」
「そうだな…兄上よりも、多いから…」
「王太子殿下?」
アーキンはまだ直接会った事もない。現ゼス国国王の正妃の子で腹違いのリリーの兄だ。
「そうだ。兄より多く、また特殊な能力もある…」
「………良いのか?」
王家の秘密…リリーが現国王の実の息子である事も公然の秘密とされている現在、その王家が隠しておきたい情報もまだあるのだろうが、リリーはそれを話そうとしている…?
「いいも、悪いも…それが番ってやれない秘密なんだが…知りたくはないのか?」
ガバッとアーキンはリリーに覆いかぶさる様に食いついてくる。
「本当に…?」
「こうなってからではお前が事情を知らないのはフェアじゃないだろ?」
ガードを傷だらけにする位に噛み跡をつけているんだから…共に過ごす覚悟をするならば話しておかなければならないだろう。
「私は自在にΩフェロモンを操れるんだ。それも、広範囲に渡って…」
覗き込むアーキンの頬にそっと触れながら紫金色のリリーの瞳は揺るがない。
「発情期でも無いのに?」
「そうだ……」
だからか…初めて崖の下でリリーを見た時も、セロントでの時も。確かに発情をしてΩフェロモンを漂わせていたのにリリーは全くαを求める事もせず敵対する者に凛と対峙していた……
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