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75.初めての発情 4
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「……行きません…私はリリーの侍従ですから。あの方が、出ていけと本気で言われるまで私はリリーのお側にいます。」
「そうか……では、早々に相手を探す様に。私が弟に精を注ぐ事など出来ないからな…ふむ。流石にβではリリーのフェロモンにはあてられてないか…」
カッとまた顔が熱くなる……これから、リリーとあの様な関係を持つ相手を探していかなければならない。リリーが望むにしろ望まないにしろ…自分が……
王太子が部屋を後にしたのちノルーはあの一時の痕跡を残すまいと徹底的に証拠を片付け始めた。リリーが目覚めてからいつもと変わらない態度でいつもと変わらない朝を迎えてあげたかったからだ。ただ汚れたリリーの身体を清める時だけは、これはリリーが望んだ事じゃ無いと分かるだけに知らず涙が込み上げてきた。
「おはようございます!リリー!」
いつもの様に良い朝だ。外の天気は申し分なく本日も騎士団においては手加減なしの訓練メニューが展開されて行く事だろう。変哲のない1日がまた始まったに過ぎないとも言える。ただ、朝を迎えた場所がまだ本城だと言う事だけがいつもと違う。
「…………ん。」
「さぁ、もう目覚めていますよね?昨日は汗をかいたでしょう?湯を沸かしています。さ、朝食の前に入ってしまってください。今日はフルーツの盛り合わせもあるそうですよ?」
「……………」
リリーは言葉少なげにノルーに言われるままに浴室へと向かう。
「リリー、おめでとうございます。」
「何が……」
湯船に香油を垂らしながらノルーはそう切り出した。
「貴方はΩ性ですから、発情期を迎えられました事心よりお祝い申し上げます。」
これでリリーはΩとしては1人の成人としてみられるわけで、王家の血筋ならばきっとどこぞの良家のαの番を得て…
「…発情期などいらない…」
「リリー?」
「私には邪魔なだけだ……」
「そんな事はありませんよ。私の自慢の主人は見目麗しいですからね。きっと番候補のαからも引くて数多でしょうね。私も鼻が高いです!」
「番などいらん…」
「貴方様は貴重なΩ性ですよ?リリー。」
優秀であるαはΩからしか産まれないのだ。だからゼス国ではΩ性の者が他国よりも尊重されている。
「子供を産むつもりも無い………」
「リリー………」
やりたい事がある、と幼い頃に早々にリリーが自分で決めた自分の望み。番を持ち良家の家庭に入ったら叶うものではなくなるだろう。夢を叶えるその力がリリーには十分にあると言うのに……
「………ノルー…私は、あさましいな……」
小さな感情のない声でリリーは呟く。
何が………?
昨日の事をリリーはきっと全て覚えている。覚えていてまだ自分でも受け入れられ無いのも仕方のない事だ。
「いいえ!貴方はあさましくなんてありませんよ!」
「……流されるしかなかった……」
「発情期なんですから当たり前です!あさましくなんてありません!」
あれだけ薬を使っても発情を抑制できなかったのに、昨夜たっぷりと王太子から体液を分けてもらったリリーは今日は普段と変わらない程落ち着いていてその激しい落差に本人が一番戸惑っているに違いなかった。
「Ωなんて……」
ギュウっと湯船でリリーは身体を小さくする。
「貴方は大切な方です。リリー。」
「兄上を……汚した……」
「何を言うのです、リリー!貴方に触れたからと言って誰も汚れませんし、貴方も汚くなんてありません!自然な事じゃないですか!必死に子を残そうとする事は自然な事です!」
たまらずノルーはリリーをギュッと抱きしめる。リリーの母はΩであったから王妃に嫌われて城から追い出され、Ωであるから番である父王だけを恋慕った。それも精神を保っていられなくなるほどに…リリーも同じだ。Ωであったからαを引きつけ父王の前で取り返しのつかない失態を冒し、挙句の果てには兄とノルーの前であの様な醜態を晒す羽目にもなった…いくらΩからαが産まれてくるからとその存在が尊重されていても本人にはまだ受け入れ難いのだ。
「貴方は綺麗ですよ、リリー!誰よりも、もちろん私よりも、貴方は綺麗です…!」
泣き喚くでもなく怒るのでもなく、全てを諦めたかの様に静かに語るリリーを見るのが悲しくて、リリーを抱きしめながら何故かノルーが泣きながら慰めの言葉を紡ぐ。
「ノルーが、代わりに泣いてくれるのか…」
「ええ、いくらでも。私は貴方の元にいると決めたのです。だから貴方が何も悩む必要なんてありません。リリーに貴方だけしかできない事がある様に私にだって、私にしかできない事がありますから。出来る事なら何でもします…!」
だから、リリーには泣いて欲しくない。小さな宝物の様な、笑顔の眩しかったリリーがミライエの様に壊れて行くところなんて誰が見たいと思うものか。
「…そうか……私にもまだ出来る事がある…」
「ええ、その通りですよ?何も諦めなくたっていいんです。リリーがΩである事も否定しなくていいんです!」
「………そうか…」
「ええ、そうです…」
まだ14だ。Ωだからかリリーには急激な成長期は訪れてこない。まだ線の細く小柄なリリー。ノルーが抱きしめるだけでもすっぽりと両手に収まってしまう大事な主人。決して弱くはないけれどこの人が曲がる事もひねくれる事もなく己の道を進める様にとノルーは心から願うのだ。
「そうか……では、早々に相手を探す様に。私が弟に精を注ぐ事など出来ないからな…ふむ。流石にβではリリーのフェロモンにはあてられてないか…」
カッとまた顔が熱くなる……これから、リリーとあの様な関係を持つ相手を探していかなければならない。リリーが望むにしろ望まないにしろ…自分が……
王太子が部屋を後にしたのちノルーはあの一時の痕跡を残すまいと徹底的に証拠を片付け始めた。リリーが目覚めてからいつもと変わらない態度でいつもと変わらない朝を迎えてあげたかったからだ。ただ汚れたリリーの身体を清める時だけは、これはリリーが望んだ事じゃ無いと分かるだけに知らず涙が込み上げてきた。
「おはようございます!リリー!」
いつもの様に良い朝だ。外の天気は申し分なく本日も騎士団においては手加減なしの訓練メニューが展開されて行く事だろう。変哲のない1日がまた始まったに過ぎないとも言える。ただ、朝を迎えた場所がまだ本城だと言う事だけがいつもと違う。
「…………ん。」
「さぁ、もう目覚めていますよね?昨日は汗をかいたでしょう?湯を沸かしています。さ、朝食の前に入ってしまってください。今日はフルーツの盛り合わせもあるそうですよ?」
「……………」
リリーは言葉少なげにノルーに言われるままに浴室へと向かう。
「リリー、おめでとうございます。」
「何が……」
湯船に香油を垂らしながらノルーはそう切り出した。
「貴方はΩ性ですから、発情期を迎えられました事心よりお祝い申し上げます。」
これでリリーはΩとしては1人の成人としてみられるわけで、王家の血筋ならばきっとどこぞの良家のαの番を得て…
「…発情期などいらない…」
「リリー?」
「私には邪魔なだけだ……」
「そんな事はありませんよ。私の自慢の主人は見目麗しいですからね。きっと番候補のαからも引くて数多でしょうね。私も鼻が高いです!」
「番などいらん…」
「貴方様は貴重なΩ性ですよ?リリー。」
優秀であるαはΩからしか産まれないのだ。だからゼス国ではΩ性の者が他国よりも尊重されている。
「子供を産むつもりも無い………」
「リリー………」
やりたい事がある、と幼い頃に早々にリリーが自分で決めた自分の望み。番を持ち良家の家庭に入ったら叶うものではなくなるだろう。夢を叶えるその力がリリーには十分にあると言うのに……
「………ノルー…私は、あさましいな……」
小さな感情のない声でリリーは呟く。
何が………?
昨日の事をリリーはきっと全て覚えている。覚えていてまだ自分でも受け入れられ無いのも仕方のない事だ。
「いいえ!貴方はあさましくなんてありませんよ!」
「……流されるしかなかった……」
「発情期なんですから当たり前です!あさましくなんてありません!」
あれだけ薬を使っても発情を抑制できなかったのに、昨夜たっぷりと王太子から体液を分けてもらったリリーは今日は普段と変わらない程落ち着いていてその激しい落差に本人が一番戸惑っているに違いなかった。
「Ωなんて……」
ギュウっと湯船でリリーは身体を小さくする。
「貴方は大切な方です。リリー。」
「兄上を……汚した……」
「何を言うのです、リリー!貴方に触れたからと言って誰も汚れませんし、貴方も汚くなんてありません!自然な事じゃないですか!必死に子を残そうとする事は自然な事です!」
たまらずノルーはリリーをギュッと抱きしめる。リリーの母はΩであったから王妃に嫌われて城から追い出され、Ωであるから番である父王だけを恋慕った。それも精神を保っていられなくなるほどに…リリーも同じだ。Ωであったからαを引きつけ父王の前で取り返しのつかない失態を冒し、挙句の果てには兄とノルーの前であの様な醜態を晒す羽目にもなった…いくらΩからαが産まれてくるからとその存在が尊重されていても本人にはまだ受け入れ難いのだ。
「貴方は綺麗ですよ、リリー!誰よりも、もちろん私よりも、貴方は綺麗です…!」
泣き喚くでもなく怒るのでもなく、全てを諦めたかの様に静かに語るリリーを見るのが悲しくて、リリーを抱きしめながら何故かノルーが泣きながら慰めの言葉を紡ぐ。
「ノルーが、代わりに泣いてくれるのか…」
「ええ、いくらでも。私は貴方の元にいると決めたのです。だから貴方が何も悩む必要なんてありません。リリーに貴方だけしかできない事がある様に私にだって、私にしかできない事がありますから。出来る事なら何でもします…!」
だから、リリーには泣いて欲しくない。小さな宝物の様な、笑顔の眩しかったリリーがミライエの様に壊れて行くところなんて誰が見たいと思うものか。
「…そうか……私にもまだ出来る事がある…」
「ええ、その通りですよ?何も諦めなくたっていいんです。リリーがΩである事も否定しなくていいんです!」
「………そうか…」
「ええ、そうです…」
まだ14だ。Ωだからかリリーには急激な成長期は訪れてこない。まだ線の細く小柄なリリー。ノルーが抱きしめるだけでもすっぽりと両手に収まってしまう大事な主人。決して弱くはないけれどこの人が曲がる事もひねくれる事もなく己の道を進める様にとノルーは心から願うのだ。
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