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73.初めての発情2 *

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 リリーにはもう既に数種類の抑制剤を飲ませている。どれもこれもΩに対しては有効で発情期であっても一定の効力を現す物ばかりだったはず…薬が誤魔化されない様に医官の目の前でも飲んでもらっているにも関わらず薬効は現れてこないのだ。

 夜も深けてリリーの部屋は少し慌ただしくなる。これだけの医官がいても発情を止めることもできずリリーは追い詰められて行く。自分で発散させたくても常に様子を伺いにくる医官やら側を離れようともしないノルーがいるのだからどうしようもなく、ただただ甘く痺れて焼け焦げそうになる身体を持て余し身悶えていた。

「も…ゃっ……ぅうっ……」
 
「リリー…!」

 少しの刺激でもリリーの身体中に快感が走る。もう何度となく我慢出来ずに精を放った…この部屋にαが居ないのがまだほんの少しの救いだ。ここにくる侍女も医官も全てβの者達でリリーの発情に釣られる心配はない。もしαが居たのならばきっとリリーは我を忘れて誰彼構わず縋りついてしまうだろう…

 ノルーにはどうやってリリーを介抱したら良いのか分からない。抑制剤を飲めばΩは落ち着くとまだ若い彼にはそれ位の知識しかなかったのだ。

「何の騒ぎだ?」

 リリーの部屋の人の出入りの多さに怪訝そうな声がかかった。

「…!…王太子殿下!?」   
 
 部屋にいた者達は一斉に王太子に向かって頭を下げる。開け放たれたリリーの部屋に供も連れずに入ってきたのは紛れもない王太子である。

「なりません!殿下!只今リーシュレイト様が初めての発情を起こされましてございます。現在投薬中でして…」
 
 部屋の主人の許可を取らずに王太子はずかずかと部屋の中に入ってくる。

「王太子殿下!なりません!リーシュレイト様への刺激にもなってしまいます!」

 王太子はαである。Ωのリリーからしたら今一番会いたくてそして会ってはいけない人物だろう。

「しかし、リリーには薬が効かないのです!」

 もうどうして良いのかわからないノルーは必至である。王太子に言った所でどうにかなるものでもないのだが何かに縋ることしかできないノルーは必死に訴えかけた。

「あぁ、そうだろうな?これだけフェロモンが漏れ出しているのだから。」

 王太子はリリーとは10歳離れているαの成人した大人である。

「王太子殿下、お願いでございます!貴方様にも影響が…!」

「私とて抑制剤を飲んでいる。それにΩのフェロモンの遮断位できるぞ?αの者達は遠ざけたか?」

「は、はい。発情がわかり次第即座にその様に対処しております。」

「ならば良い…リーシュレイト…?」

 身悶えるリリーのベッドの側で王太子はリリーに呼びかける。

「ふっ……ふっ………ぅ…」

 もう自分では起き上がることもできないリリーはぼやける紫金色の瞳をやっとのことで王太子に向けてきた。

「魔力が多いのも問題だな…しかし、上手く制御出来ていない事は幸いか……」

 どうやらリリーは発情の混乱の中で自身の魔力を上手く操りきれていないのだ。だからαを求めていても幼いあの頃の様に広範囲にフェロモンを撒き散らすことができなかった。それが今回は幸いしている。でなければリリーは誰彼構わずここでα求め続け、目も当てられない惨状が出来上がっていたはずだからだ。

「ノルー。全ての者を直ぐに部屋から出しなさい。」

 無表情の様な王太子の声が少し優しく聞こえた気がした。表情の無い一見冷たい様な王太子の視線は必死に王太子のαの香りを嗅ぎ取って震える手を伸ばしてくるリリーに注がれている。そっと王太子はリリーに手を伸ばす。

「あ……んっ……」

 顔にかかる髪を払うだけでリリーは身を震わせた。

「ノルーどうした?早くしなさい。そしてお前はリーシュレイトが飲めそうな飲み物をもらってまたここに来なさい。」

「は、はい…!」

 王太子が何をしようとしているのかノルーには分からない。けれどリリーに触れる優しい手つきを見ればきっと酷い事はしないだろう。どうにかしてリリーを助けたいノルーは王太子の命令に素直に従うことにする。しかしこれを聞いた医官達は非常に複雑そうな顔をし直ぐには承諾しなかった。

「他に、今手立ては?」

 けれども逆に王太子に聞き返されてここにいる医官の誰もが答えられず結局皆王太子の言った通りにしたのである。ノルーも当然言われた通りに従った。
 暫く誰もリリーの部屋には近付いてはならないと他の者達は厳命される。ノルーは急いで果実水を受け取って言われた通りにリリーの部屋へと戻った。
 
 ずっと汗と涙を流しているのだからきっとリリーは喉も渇いているはずだ。いつもよりも冷たく、果実分を多くしてもらって部屋へと持ってきたのである。

 勿論人払いがされた後の部屋には人の気配が無い。静かな部屋でリリーが寝ているベッドから衣擦れの音と未だに苦しそうなリリーの声が漏れてきていた。

「リリー戻りました…!」

 片時も離れたくはなかったノルーは直ぐにベッドへと駆け寄って行く。

「…………!?」

「戻ったか?」

 ベッドで寝ているのはリリーだけのはずなのに、何故か王太子がほぼ半裸の状態でリリーを自身の膝の上に抱え上げていた。





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