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70.思いがけない縁談 6
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「ランクースの王子はどんな方です?」
ノルーの目を押さえつけて意地でも眠らせたいと態度で示している王太子はリリーに向き直り話を続ける。
「さあ、な。会った事はないが。気になるならば調べさせよう。」
「いえ、それは私の方がいたします。」
ヒョロッと手を上げてノルーが答える。ランクースの王子がゼス国に来るというのならばだ。今ならばヤリスの手も空いている。隠密は得意だし何よりここはゼス国内。危険はないだろうと思われた。
「……兄上。お子をお作り下さい…」
「……何を言うかと思ったら。」
現在王太子は28歳。成婚して5年は経つ。そろそろ第1子の声を聞いたとしても全く早くはないだろう。第1王子が王太子として立っているのだから落胤であるリリーは成婚を突っぱねる事ができるというもの。もし今の王太子妃に子ができなければ新しいΩを側妃として後宮に入れる事になる。王太子自身に子を作る能力がないと言うのならば話は別だが…
「時には難しい事もあるものだな。リーシュレイト…」
何を考えているのかさっぱりわからない。王太子はポーカーフェイスに慣れてしまってその感情を読み取らせてはくれないのだ。
「妃殿下に、何か問題が?」
王太子妃には国内の貴族家から選りすぐったΩを選んでいるはず。その選考にはもちろん王太子も関わり本人達の意思も尊重されたと聞いている。のだが……
「私達の関係には問題はない。が、因果というものはあるのだな…」
「兄上?」
「婚姻は関係なくリーシュレイト、城には足繁く来なさい。」
「何を?」
本当に何を言われるのか?
「番をそんなに拒否するお前の気持ちが少し分からなくてね。私の妃ならば良い話し相手になるのでは無いか?」
「王太子妃の相手をせよと?」
Ωの番と言うのならば白の邸宅から嫁いで行ったΩ達が身近に居る。そもそも実際リリーはそんなに暇ではないのだ。ランクース国のΩ問題に王子、この城の父か兄に献上されたかもしれないアーキンの妹の捜索に………後宮…!!
「リーシュレイトさえ良ければね?あれも後宮からおいそれと外には出られないから。」
「兄上にお聞きしたい。」
「ん?」
「この城に新しく入ったΩは何人います?」
たまに居るのだ、王妃や王太子妃の不況を買わないのならば後宮に行儀見習いの一環として妃達の側仕えになるΩが…そしてそのまま手つきになって子を設ければ側妃として召し上げられる…身分のある家のΩの子達ならばこの様な道もある……
「さ、ぁ?父の所と私の所にだろう?母が許す筈がないからな。では私の所の者の事か?」
ゼス国王妃は自分の後宮に自分の他にΩがいる事を酷く嫌う。だからこそリリーの母ミライエは城を出された。
「どこでも、いや、兄上の所か?」
「誰を探したいのか、と聞いた方が早そうだな?知り合いがここに居るのか?」
リリーが国中のΩに関わらず国外からのΩの保護を行っている事は周知の事実だ。だからその関係でリリーの探しているΩが王太子の後宮に入ったかもしれないのだろう。
「特徴と名前は?」
「私はまだ会ったことがありませんが、歳は12、赤目に濃い金髪のΩの少女です。名をメリアン・テグリス。」
「……メリアン…?」
王太子の表情が微かに動く。
「ご存じで?」
「…いや、その名前には心当たりがないが…妃が知っているか?」
「もしかしたら本来の名前を伏せているかもしれません。」
「訳ありなのか?」
「そうとも言えましょうか…その娘、ある所から拐われた者なのです。」
「なんと……その様な者が後宮に?」
「いるかも知れないと言うことだけです。断言は出来ません。」
「分かった、留意しておこう。さて、ノルー?落ち着いたか?」
「はい、随分と…」
「そうか、では私はもう行こう。」
王太子はノルーからそっと手を離す。
「兄上、ノルーがお世話かけました。」
リリーならばノルー1人を抱き抱えて連れて来る事は不可能ではない。そしてそれを知らない王太子でもない。でも王太子はここまでわざわざノルーを連れてきたのだから彼なりに何かリリーに用件があるのだろうと見ていたのだが…本当に単にノルーの事が心配でここまで連れてきてくれただけ…?
「いや構わない。いいな、リーシュレイト城へ来なさい。」
「ご命令とあれば。」
「お前にまで命を下す事はしたくは無い。では気が向けば顔を見せる様に…」
それだけ言い置いて王太子は出て行った。
「……ノルー体調は?」
「はい、随分回復いたしました。」
ソファーに寄りかかる様に座り直したノルーの額にはまだ冷や汗が浮いている。
「今日はここに泊まろう…」
「…!?…え…リリー今なんと?」
「ここに泊まる。外の者に告げて来るから横になっておけ。それとも医官を呼ぶか?」
「いえ!いえ、医官など私目にはいりません!それよりもリリー…!」
リリーが産まれてから未だかつて本城に泊まった事など無かったのに……ノルーは驚きすぎてそれ以上聞けないでいた。
ノルーの目を押さえつけて意地でも眠らせたいと態度で示している王太子はリリーに向き直り話を続ける。
「さあ、な。会った事はないが。気になるならば調べさせよう。」
「いえ、それは私の方がいたします。」
ヒョロッと手を上げてノルーが答える。ランクースの王子がゼス国に来るというのならばだ。今ならばヤリスの手も空いている。隠密は得意だし何よりここはゼス国内。危険はないだろうと思われた。
「……兄上。お子をお作り下さい…」
「……何を言うかと思ったら。」
現在王太子は28歳。成婚して5年は経つ。そろそろ第1子の声を聞いたとしても全く早くはないだろう。第1王子が王太子として立っているのだから落胤であるリリーは成婚を突っぱねる事ができるというもの。もし今の王太子妃に子ができなければ新しいΩを側妃として後宮に入れる事になる。王太子自身に子を作る能力がないと言うのならば話は別だが…
「時には難しい事もあるものだな。リーシュレイト…」
何を考えているのかさっぱりわからない。王太子はポーカーフェイスに慣れてしまってその感情を読み取らせてはくれないのだ。
「妃殿下に、何か問題が?」
王太子妃には国内の貴族家から選りすぐったΩを選んでいるはず。その選考にはもちろん王太子も関わり本人達の意思も尊重されたと聞いている。のだが……
「私達の関係には問題はない。が、因果というものはあるのだな…」
「兄上?」
「婚姻は関係なくリーシュレイト、城には足繁く来なさい。」
「何を?」
本当に何を言われるのか?
「番をそんなに拒否するお前の気持ちが少し分からなくてね。私の妃ならば良い話し相手になるのでは無いか?」
「王太子妃の相手をせよと?」
Ωの番と言うのならば白の邸宅から嫁いで行ったΩ達が身近に居る。そもそも実際リリーはそんなに暇ではないのだ。ランクース国のΩ問題に王子、この城の父か兄に献上されたかもしれないアーキンの妹の捜索に………後宮…!!
「リーシュレイトさえ良ければね?あれも後宮からおいそれと外には出られないから。」
「兄上にお聞きしたい。」
「ん?」
「この城に新しく入ったΩは何人います?」
たまに居るのだ、王妃や王太子妃の不況を買わないのならば後宮に行儀見習いの一環として妃達の側仕えになるΩが…そしてそのまま手つきになって子を設ければ側妃として召し上げられる…身分のある家のΩの子達ならばこの様な道もある……
「さ、ぁ?父の所と私の所にだろう?母が許す筈がないからな。では私の所の者の事か?」
ゼス国王妃は自分の後宮に自分の他にΩがいる事を酷く嫌う。だからこそリリーの母ミライエは城を出された。
「どこでも、いや、兄上の所か?」
「誰を探したいのか、と聞いた方が早そうだな?知り合いがここに居るのか?」
リリーが国中のΩに関わらず国外からのΩの保護を行っている事は周知の事実だ。だからその関係でリリーの探しているΩが王太子の後宮に入ったかもしれないのだろう。
「特徴と名前は?」
「私はまだ会ったことがありませんが、歳は12、赤目に濃い金髪のΩの少女です。名をメリアン・テグリス。」
「……メリアン…?」
王太子の表情が微かに動く。
「ご存じで?」
「…いや、その名前には心当たりがないが…妃が知っているか?」
「もしかしたら本来の名前を伏せているかもしれません。」
「訳ありなのか?」
「そうとも言えましょうか…その娘、ある所から拐われた者なのです。」
「なんと……その様な者が後宮に?」
「いるかも知れないと言うことだけです。断言は出来ません。」
「分かった、留意しておこう。さて、ノルー?落ち着いたか?」
「はい、随分と…」
「そうか、では私はもう行こう。」
王太子はノルーからそっと手を離す。
「兄上、ノルーがお世話かけました。」
リリーならばノルー1人を抱き抱えて連れて来る事は不可能ではない。そしてそれを知らない王太子でもない。でも王太子はここまでわざわざノルーを連れてきたのだから彼なりに何かリリーに用件があるのだろうと見ていたのだが…本当に単にノルーの事が心配でここまで連れてきてくれただけ…?
「いや構わない。いいな、リーシュレイト城へ来なさい。」
「ご命令とあれば。」
「お前にまで命を下す事はしたくは無い。では気が向けば顔を見せる様に…」
それだけ言い置いて王太子は出て行った。
「……ノルー体調は?」
「はい、随分回復いたしました。」
ソファーに寄りかかる様に座り直したノルーの額にはまだ冷や汗が浮いている。
「今日はここに泊まろう…」
「…!?…え…リリー今なんと?」
「ここに泊まる。外の者に告げて来るから横になっておけ。それとも医官を呼ぶか?」
「いえ!いえ、医官など私目にはいりません!それよりもリリー…!」
リリーが産まれてから未だかつて本城に泊まった事など無かったのに……ノルーは驚きすぎてそれ以上聞けないでいた。
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