上 下
70 / 144

70.思いがけない縁談 6

しおりを挟む
「ランクースの王子はどんな方です?」

 ノルーの目を押さえつけて意地でも眠らせたいと態度で示している王太子はリリーに向き直り話を続ける。

「さあ、な。会った事はないが。気になるならば調べさせよう。」

「いえ、それは私の方がいたします。」

 ヒョロッと手を上げてノルーが答える。ランクースの王子がゼス国に来るというのならばだ。今ならばヤリスの手も空いている。隠密は得意だし何よりここはゼス国内。危険はないだろうと思われた。

「……兄上。お子をお作り下さい…」

「……何を言うかと思ったら。」

 現在王太子は28歳。成婚して5年は経つ。そろそろ第1子の声を聞いたとしても全く早くはないだろう。第1王子が王太子として立っているのだから落胤であるリリーは成婚を突っぱねる事ができるというもの。もし今の王太子妃に子ができなければ新しいΩを側妃として後宮に入れる事になる。王太子自身に子を作る能力がないと言うのならば話は別だが…

「時には難しい事もあるものだな。リーシュレイト…」

 何を考えているのかさっぱりわからない。王太子はポーカーフェイスに慣れてしまってその感情を読み取らせてはくれないのだ。

「妃殿下に、何か問題が?」

 王太子妃には国内の貴族家から選りすぐったΩを選んでいるはず。その選考にはもちろん王太子も関わり本人達の意思も尊重されたと聞いている。のだが……

「私達の関係には問題はない。が、因果というものはあるのだな…」

「兄上?」

「婚姻は関係なくリーシュレイト、城には足繁く来なさい。」

「何を?」

 本当に何を言われるのか?

「番をそんなに拒否するお前の気持ちが少し分からなくてね。私の妃ならば良い話し相手になるのでは無いか?」

「王太子妃の相手をせよと?」

 Ωの番と言うのならば白の邸宅から嫁いで行ったΩ達が身近に居る。そもそも実際リリーはそんなに暇ではないのだ。ランクース国のΩ問題に王子、この城の父か兄に献上されたかもしれないアーキンの妹の捜索に………後宮…!!

「リーシュレイトさえ良ければね?あれも後宮からおいそれと外には出られないから。」

「兄上にお聞きしたい。」 

「ん?」

「この城に新しく入ったΩは何人います?」

 たまに居るのだ、王妃や王太子妃の不況を買わないのならば後宮に行儀見習いの一環として妃達の側仕えになるΩが…そしてそのまま手つきになって子を設ければ側妃として召し上げられる…身分のある家のΩの子達ならばこの様な道もある……

「さ、ぁ?父の所と私の所にだろう?母が許す筈がないからな。では私の所の者の事か?」

 ゼス国王妃は自分の後宮に自分の他にΩがいる事を酷く嫌う。だからこそリリーの母ミライエは城を出された。

「どこでも、いや、兄上の所か?」

「誰を探したいのか、と聞いた方が早そうだな?知り合いがここに居るのか?」

 リリーが国中のΩに関わらず国外からのΩの保護を行っている事は周知の事実だ。だからその関係でリリーの探しているΩが王太子の後宮に入ったかもしれないのだろう。

「特徴と名前は?」

「私はまだ会ったことがありませんが、歳は12、赤目に濃い金髪のΩの少女です。名をメリアン・テグリス。」

「……メリアン…?」

 王太子の表情が微かに動く。

「ご存じで?」

「…いや、その名前には心当たりがないが…妃が知っているか?」

「もしかしたら本来の名前を伏せているかもしれません。」

「訳ありなのか?」

「そうとも言えましょうか…その娘、ある所から拐われた者なのです。」

「なんと……その様な者が後宮に?」

「いるかも知れないと言うことだけです。断言は出来ません。」

「分かった、留意しておこう。さて、ノルー?落ち着いたか?」

「はい、随分と…」

「そうか、では私はもう行こう。」

 王太子はノルーからそっと手を離す。
 
「兄上、ノルーがお世話かけました。」

 リリーならばノルー1人を抱き抱えて連れて来る事は不可能ではない。そしてそれを知らない王太子でもない。でも王太子はここまでわざわざノルーを連れてきたのだから彼なりに何かリリーに用件があるのだろうと見ていたのだが…本当に単にノルーの事が心配でここまで連れてきてくれただけ…?

「いや構わない。いいな、リーシュレイト城へ来なさい。」

「ご命令とあれば。」

「お前にまで命を下す事はしたくは無い。では気が向けば顔を見せる様に…」
 
 それだけ言い置いて王太子は出て行った。

「……ノルー体調は?」

「はい、随分回復いたしました。」

 ソファーに寄りかかる様に座り直したノルーの額にはまだ冷や汗が浮いている。

「今日はここに泊まろう…」

「…!?…え…リリー今なんと?」

「ここに泊まる。外の者に告げて来るから横になっておけ。それとも医官を呼ぶか?」

「いえ!いえ、医官など私目にはいりません!それよりもリリー…!」

 リリーが産まれてから未だかつて本城に泊まった事など無かったのに……ノルーは驚きすぎてそれ以上聞けないでいた。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

処理中です...