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68.思いがけない縁談 4
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「ムーブラン卿、まだそうとは決まっていないだろう?」
1人嬉々として祝いの言葉を述べているムーブラン侯爵を王太子が制する。
「まだリーシュレイトの考えを聞いていない。」
「相手は、何方になります?」
ムーブラン侯爵を諌めていた王太子に向かってリリーは問う。
「第4王子になる。彼方は子沢山で良いな。」
その質問に国王が答えた。第4王子……王太子でも無くその次席ですらも無い。身分的には居ても居なくても良い位にいる王子だ。王の落胤とされているリリーにとっては王族に嫁げるだけまだ良しとせよと言う事だろうか?
「お断りする事は?」
王族としても主要な地位ではない者同士の結婚だ。国と国との結びつき云々を言うのならばもっと地位の高い婚姻が望ましいだろう。結局の所程の良い厄介払いの様な結婚話しとしか思えないでいる。が、これではゼス国にとって利はないだろう。
「やはりそう来るか?」
「利がございません。」
良くも悪くもリリーはしっかりとゼス国における自分の存在価値を客観的に把握している。Ωのリリーの能力の高さ。意味のない結婚ならば断ったほうが国のためになるというものだ。
「ふふ…」
「何を仰るのです?リーシュレイト殿下!Ωの貴方様にとってはαに嫁ぐ事こそが幸せではないですか!彼方様は酷く乗り気でおられまして、今すぐにでもお迎えにあがりたいとそうまで申してくれているのですよ?」
国王とリリーのやり取りを面白そうにクスリと笑いながら見ている王太子とは打って変わってムーブラン侯爵は必死にランクースの第4王子を売り込んでくる。
「落ち着かれませ。ムーブラン侯爵!御前ですよ?」
見かねた大臣の1人がムーブラン侯爵を嗜めた。
「何を悠長な事を…ただでさえご落胤のリーシュレイト殿下ですぞ?王族の方から声をかけていただけるだけありがたい事ではありませんか!」
「侯爵…!」
よりにもよって国王の前でその発言とは…!周囲の者が本格的にムーブラン侯爵を止めに入る。
「国王陛下に申し上げます!」
大臣達が入り乱れて場が騒然となり出した所でリリーは声を張り上げた。各自自分の意見を言い始めていた者達は皆黙り謁見の間は一時しんと静まり返った。
「私、リーシュレイトは今後一切番を持たぬ事を国王陛下の御前にて宣言いたします!」
「リリー……」
フードを被ったままの一見不敬に問われそうな王子リーシュレイト。国王から未だに王子とも認められず名前さえ呼んでもらった事はない。その小さい身体で、己の不遇を嘆く事もなく今堂々と国王の前で言い切った。その背後ではノルーが蒼白な顔で主人の名を呟いている。
「………」
「………」
国王も王太子も沈黙のまま、ジッとリリーを見つめる。
「陛下!何か申してくださいませ!貴重なΩであり、能力に長けたリーシュレイト殿下が番を持たないなど考えられましょうや?もったいないことでございます。陛下!!」
ムーブラン侯爵は悲鳴にも近い声あげていた。
「侯爵!ムーブラン卿!!御前ですぞ!お控えなさい…!何故貴方はそんなにリーシュレイト様の婚姻を進めるのです?ご本人にはその意思がないと…」
「卿こそ!何を言うのです?優秀なΩであられるリーシュレイト殿下からはきっと更に優秀なαが産まれてくるに違いないではないですか!なのにその機会を自ずと捨て去るとは…正気の沙汰とは思えませんぞ!」
「卿!なんて事を!リーシュレイト様とてお考えがあるでしょうに!」
「では卿にお聞きしたい。番を持たぬと決めた私はただ子を成して産んでくれば良いのか?さすれば其方の気が済むのか?」
αはΩからしか産まれない。だからΩは子を成すべきだ。理由も理屈も理解できる。が、それは通常の普通のΩであったらの話だ。
「何故それではいけないのです?ランクースの王子はそれは楽しみにしていると今にもこちらに押しかけそうにしておりました。こんなにも望まれているのに、それがΩの幸せではありませんか?」
「………そこに、私の意思があればな……」
小さくポツリと呟いたリリーの声はノルーにしか届かなかっただろう。
「いい、いい、分かったムーブラン卿…そう喚くな…」
流石にこの終わりなきやりとりに頭痛でも覚えたのか、片手で頭を押さえた王が反対の手を振って止めに入った。
「しかし……こちらにも利ならばございますものを…」
ランクース側の要望でリリーが第4王子に嫁いだ場合の事をムーブラン侯爵はそう言っている。
「其方…誰とも番わぬと申したか?」
「御意に…」
国王は既にムーブラン侯爵への興味を失いリリーへと視線を移した。
「うむ。では生涯それを守り抜くが良い。ランクースの事はこちらでも調べよう。ソール!!」
「はっ!」
国王の側に控えていた侍従の1人に何やら耳打ちをして指示を出す。
「行くがいい。王太子と大臣は残るように。」
国王の片手一振りでリリーたちは謁見の間から追い出される羽目になった。
1人嬉々として祝いの言葉を述べているムーブラン侯爵を王太子が制する。
「まだリーシュレイトの考えを聞いていない。」
「相手は、何方になります?」
ムーブラン侯爵を諌めていた王太子に向かってリリーは問う。
「第4王子になる。彼方は子沢山で良いな。」
その質問に国王が答えた。第4王子……王太子でも無くその次席ですらも無い。身分的には居ても居なくても良い位にいる王子だ。王の落胤とされているリリーにとっては王族に嫁げるだけまだ良しとせよと言う事だろうか?
「お断りする事は?」
王族としても主要な地位ではない者同士の結婚だ。国と国との結びつき云々を言うのならばもっと地位の高い婚姻が望ましいだろう。結局の所程の良い厄介払いの様な結婚話しとしか思えないでいる。が、これではゼス国にとって利はないだろう。
「やはりそう来るか?」
「利がございません。」
良くも悪くもリリーはしっかりとゼス国における自分の存在価値を客観的に把握している。Ωのリリーの能力の高さ。意味のない結婚ならば断ったほうが国のためになるというものだ。
「ふふ…」
「何を仰るのです?リーシュレイト殿下!Ωの貴方様にとってはαに嫁ぐ事こそが幸せではないですか!彼方様は酷く乗り気でおられまして、今すぐにでもお迎えにあがりたいとそうまで申してくれているのですよ?」
国王とリリーのやり取りを面白そうにクスリと笑いながら見ている王太子とは打って変わってムーブラン侯爵は必死にランクースの第4王子を売り込んでくる。
「落ち着かれませ。ムーブラン侯爵!御前ですよ?」
見かねた大臣の1人がムーブラン侯爵を嗜めた。
「何を悠長な事を…ただでさえご落胤のリーシュレイト殿下ですぞ?王族の方から声をかけていただけるだけありがたい事ではありませんか!」
「侯爵…!」
よりにもよって国王の前でその発言とは…!周囲の者が本格的にムーブラン侯爵を止めに入る。
「国王陛下に申し上げます!」
大臣達が入り乱れて場が騒然となり出した所でリリーは声を張り上げた。各自自分の意見を言い始めていた者達は皆黙り謁見の間は一時しんと静まり返った。
「私、リーシュレイトは今後一切番を持たぬ事を国王陛下の御前にて宣言いたします!」
「リリー……」
フードを被ったままの一見不敬に問われそうな王子リーシュレイト。国王から未だに王子とも認められず名前さえ呼んでもらった事はない。その小さい身体で、己の不遇を嘆く事もなく今堂々と国王の前で言い切った。その背後ではノルーが蒼白な顔で主人の名を呟いている。
「………」
「………」
国王も王太子も沈黙のまま、ジッとリリーを見つめる。
「陛下!何か申してくださいませ!貴重なΩであり、能力に長けたリーシュレイト殿下が番を持たないなど考えられましょうや?もったいないことでございます。陛下!!」
ムーブラン侯爵は悲鳴にも近い声あげていた。
「侯爵!ムーブラン卿!!御前ですぞ!お控えなさい…!何故貴方はそんなにリーシュレイト様の婚姻を進めるのです?ご本人にはその意思がないと…」
「卿こそ!何を言うのです?優秀なΩであられるリーシュレイト殿下からはきっと更に優秀なαが産まれてくるに違いないではないですか!なのにその機会を自ずと捨て去るとは…正気の沙汰とは思えませんぞ!」
「卿!なんて事を!リーシュレイト様とてお考えがあるでしょうに!」
「では卿にお聞きしたい。番を持たぬと決めた私はただ子を成して産んでくれば良いのか?さすれば其方の気が済むのか?」
αはΩからしか産まれない。だからΩは子を成すべきだ。理由も理屈も理解できる。が、それは通常の普通のΩであったらの話だ。
「何故それではいけないのです?ランクースの王子はそれは楽しみにしていると今にもこちらに押しかけそうにしておりました。こんなにも望まれているのに、それがΩの幸せではありませんか?」
「………そこに、私の意思があればな……」
小さくポツリと呟いたリリーの声はノルーにしか届かなかっただろう。
「いい、いい、分かったムーブラン卿…そう喚くな…」
流石にこの終わりなきやりとりに頭痛でも覚えたのか、片手で頭を押さえた王が反対の手を振って止めに入った。
「しかし……こちらにも利ならばございますものを…」
ランクース側の要望でリリーが第4王子に嫁いだ場合の事をムーブラン侯爵はそう言っている。
「其方…誰とも番わぬと申したか?」
「御意に…」
国王は既にムーブラン侯爵への興味を失いリリーへと視線を移した。
「うむ。では生涯それを守り抜くが良い。ランクースの事はこちらでも調べよう。ソール!!」
「はっ!」
国王の側に控えていた侍従の1人に何やら耳打ちをして指示を出す。
「行くがいい。王太子と大臣は残るように。」
国王の片手一振りでリリーたちは謁見の間から追い出される羽目になった。
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