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65.思いがけない縁談 1
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貴族牢から出ればヤリスは一礼をしてリリーに言われた伝令を対魔法第1騎士団へと伝えに走る。
「これからどちらへ行かれます?」
王城はリリーの父と兄の住まい。普段と言わず騎士団を引き継いでからは呼ばれなければまず自分から足を向ける様な所では無い。
「父の所へ…」
今更もう父に対する恐怖も特段親子の愛情を求める事もないが父、と呼ぶのにはまだ戸惑いがある王の顔を見に行くつもりではある。
「では先触れを頼みましょうか。」
王子と言っても公にはされていないリリーだ。父の所へ行くのにも身分に応じての手続きは必要だからだ。
「そこの者!」
王城に努める侍女にノルーは声をかけた。
「陛下は…」
「おや!これはこれはお珍しい!」
ノルーが侍女に言付けを伝え終わる前にリリー達の後方から大きな声が掛かった。
「朝から貴方様の顔を見る事ができるなんて今日は良い日ですな!」
大きな声を出す人物が近づいて来ればくるほどリリーはフードを引き下げる。
「こんな所でどうされたのです?」
大股で歩いて来る姿は自信に溢れ、会釈のみで通り過ぎるのは許されぬ様な有無を言わさぬ迫力がある。
「これは…お久しぶりにございます。ご機嫌麗麗しく何よりに…」
ノルーはサッと礼を取り近づいて来る貴族の為に通路を開ける。
「本当だとも!君は別にどうでも良いんだがね、こちらに居られるリーシュレイト殿下にはこれからも足繁くこちらに通って頂かなくてはなりますまい!」
目の前にいるのは大臣クラスの高位貴族。それも外交を担当している由緒正しいムーブラン侯爵家のβの現当主。中年の中程の年齢であっても精力的に政務に取りくんでいて国王の信頼も厚い者だったと記憶している。
「久しいと言うほどお会いした事がないと思うが?」
リリーは本来城にはいないし寄り付きもしない。そして自分の担当は外交ではなく騎士団である。仕事内容の畑違いもいいところでこの様に個人的に言葉を交わした覚えもない程の希薄な付き合いで同じ国内にいたとしてもお互い顔と名前を知っている程度のものだろう。
「まぁ、そう釣れなくなさいますな!ささ、陛下の所へ行かれるのですかな?」
ムーブラン侯爵はずずいとリリーの隣を陣取って親しげに肩に手を回してきたりする。
ここにヤリスがいなくてよかったですね…
こんな2人を頭を下げながら横目で見つつノルーはホッと胸を撫で下ろす。
それにしても………
「たまには父のご機嫌を伺おうと思ってな…」
高位貴族がいるとしてもリリーは深く被ったフードを取ることはない。父王の前だとしても命令がなければこのままだ。だからムーブラン侯爵が親しげに近寄ってきたとしても、リリーからは距離感を縮める事は一切無かった。
ムーブラン侯爵は何やらリリーの隣であれやこれやと話し続けているがリリーは最初の挨拶らしき物のほか一切口を聞かなかった。話したい奴には勝手に話させておけ。ノルーは何度か話の間に合槌を打とうとしていたのだがそれもリリーは手で払ってやめさせた。
「それにしても!本日はなんともいい日ですな!」
全くと言っていいほどリリーは返事もしないのにムーブラン侯爵には諦めると言う概念はないものなのか…
「失礼します。侯爵閣下…まだリーシュレイト様の来訪を陛下へお伝えしておりません…」
のでまずは先触れを…
とノルーが言おうとしている言葉を遮って来る。
「ああ、では其方が伝えに行くといい。リーシュレイト殿下は私が共にお連れしよう。さ、行って参るといい。」
然もいい案だ、とばかりにムーブラン侯爵はニコニコと満面の笑みだ。
「私はリーシュレイト様の侍従ですので…そこの者に頼むといたします。」
そう言うと侍女を捕まえてリリーの来城と面会を伝えに行かせる。
「なんとも場を読まない侍従ですな?リーシュレイト殿下、あのような者がお側付きでお困りではありませんか?もしご希望でしたら私が侍従の人選をして差し上げますぞ?」
ノルーは現在粗相など一つもしていない。それにリリーの幼い頃から側にいたのだから何処の誰よりもリリーの事を良く理解している侍従の1人である。きっと今城にいる全ての者より父である国王よりも信頼できる人物だ。
「今まで一度もノルーには苦労をかけられた事がないが、私の従者が貴方に何か?」
人の物にあれこれ難癖つけて来るのはお世辞にも礼儀に長けた者が取る方法ではない。
「いえいえ、そうであるならばいいのですがね?ほら、貴方様にはもっと良い人材が付いても良かろうと思った次第でして。」
「お気遣い無用。で、私には何用だ?」
さっきから同道する理由はなんだ?
「釣れませんなぁ殿下…陛下への謁見の折、貴方様を見つけましたからにはご一緒しようかと思った次第でございますよ。」
「私には侯爵と共に行く意味が無い。」
本当に無いのだ。それよりも急に距離を縮めて来るムーブラン侯爵に今までにない不快感さえ抱いている。
「まあ、不安を覚えるのも仕方ない事でございましょう。何せ喜ばしい事と言っても殿下にとっては初めてのこと。ふむふむ。私にも覚えがありますなぁ…」
「これからどちらへ行かれます?」
王城はリリーの父と兄の住まい。普段と言わず騎士団を引き継いでからは呼ばれなければまず自分から足を向ける様な所では無い。
「父の所へ…」
今更もう父に対する恐怖も特段親子の愛情を求める事もないが父、と呼ぶのにはまだ戸惑いがある王の顔を見に行くつもりではある。
「では先触れを頼みましょうか。」
王子と言っても公にはされていないリリーだ。父の所へ行くのにも身分に応じての手続きは必要だからだ。
「そこの者!」
王城に努める侍女にノルーは声をかけた。
「陛下は…」
「おや!これはこれはお珍しい!」
ノルーが侍女に言付けを伝え終わる前にリリー達の後方から大きな声が掛かった。
「朝から貴方様の顔を見る事ができるなんて今日は良い日ですな!」
大きな声を出す人物が近づいて来ればくるほどリリーはフードを引き下げる。
「こんな所でどうされたのです?」
大股で歩いて来る姿は自信に溢れ、会釈のみで通り過ぎるのは許されぬ様な有無を言わさぬ迫力がある。
「これは…お久しぶりにございます。ご機嫌麗麗しく何よりに…」
ノルーはサッと礼を取り近づいて来る貴族の為に通路を開ける。
「本当だとも!君は別にどうでも良いんだがね、こちらに居られるリーシュレイト殿下にはこれからも足繁くこちらに通って頂かなくてはなりますまい!」
目の前にいるのは大臣クラスの高位貴族。それも外交を担当している由緒正しいムーブラン侯爵家のβの現当主。中年の中程の年齢であっても精力的に政務に取りくんでいて国王の信頼も厚い者だったと記憶している。
「久しいと言うほどお会いした事がないと思うが?」
リリーは本来城にはいないし寄り付きもしない。そして自分の担当は外交ではなく騎士団である。仕事内容の畑違いもいいところでこの様に個人的に言葉を交わした覚えもない程の希薄な付き合いで同じ国内にいたとしてもお互い顔と名前を知っている程度のものだろう。
「まぁ、そう釣れなくなさいますな!ささ、陛下の所へ行かれるのですかな?」
ムーブラン侯爵はずずいとリリーの隣を陣取って親しげに肩に手を回してきたりする。
ここにヤリスがいなくてよかったですね…
こんな2人を頭を下げながら横目で見つつノルーはホッと胸を撫で下ろす。
それにしても………
「たまには父のご機嫌を伺おうと思ってな…」
高位貴族がいるとしてもリリーは深く被ったフードを取ることはない。父王の前だとしても命令がなければこのままだ。だからムーブラン侯爵が親しげに近寄ってきたとしても、リリーからは距離感を縮める事は一切無かった。
ムーブラン侯爵は何やらリリーの隣であれやこれやと話し続けているがリリーは最初の挨拶らしき物のほか一切口を聞かなかった。話したい奴には勝手に話させておけ。ノルーは何度か話の間に合槌を打とうとしていたのだがそれもリリーは手で払ってやめさせた。
「それにしても!本日はなんともいい日ですな!」
全くと言っていいほどリリーは返事もしないのにムーブラン侯爵には諦めると言う概念はないものなのか…
「失礼します。侯爵閣下…まだリーシュレイト様の来訪を陛下へお伝えしておりません…」
のでまずは先触れを…
とノルーが言おうとしている言葉を遮って来る。
「ああ、では其方が伝えに行くといい。リーシュレイト殿下は私が共にお連れしよう。さ、行って参るといい。」
然もいい案だ、とばかりにムーブラン侯爵はニコニコと満面の笑みだ。
「私はリーシュレイト様の侍従ですので…そこの者に頼むといたします。」
そう言うと侍女を捕まえてリリーの来城と面会を伝えに行かせる。
「なんとも場を読まない侍従ですな?リーシュレイト殿下、あのような者がお側付きでお困りではありませんか?もしご希望でしたら私が侍従の人選をして差し上げますぞ?」
ノルーは現在粗相など一つもしていない。それにリリーの幼い頃から側にいたのだから何処の誰よりもリリーの事を良く理解している侍従の1人である。きっと今城にいる全ての者より父である国王よりも信頼できる人物だ。
「今まで一度もノルーには苦労をかけられた事がないが、私の従者が貴方に何か?」
人の物にあれこれ難癖つけて来るのはお世辞にも礼儀に長けた者が取る方法ではない。
「いえいえ、そうであるならばいいのですがね?ほら、貴方様にはもっと良い人材が付いても良かろうと思った次第でして。」
「お気遣い無用。で、私には何用だ?」
さっきから同道する理由はなんだ?
「釣れませんなぁ殿下…陛下への謁見の折、貴方様を見つけましたからにはご一緒しようかと思った次第でございますよ。」
「私には侯爵と共に行く意味が無い。」
本当に無いのだ。それよりも急に距離を縮めて来るムーブラン侯爵に今までにない不快感さえ抱いている。
「まあ、不安を覚えるのも仕方ない事でございましょう。何せ喜ばしい事と言っても殿下にとっては初めてのこと。ふむふむ。私にも覚えがありますなぁ…」
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