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59.番の証明 4
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「番にはなってないんだろう?」
トントンとジーンは自分の首を指差す。
生きていれば世にも珍しいものは起こるようで、ジーンの言っている意味がわかったリリーはカッと赤面する。ベッドの中では肌を見せあってそれ以上だってやっているって言うのにこんなリリーの初心な反応はジーンも始めて見るものだ。
番っているならばその番の跡がΩの首筋にはっきりと残されるはずだから…色白のリリーの首筋は仄かに朱に染まってはいても傷一つなく綺麗なものだった。
「それがどうした?私には必要のないものだ。だから…」
だから、誰に縛られることもない。
「そうじゃないリリー。番を持たないΩを行かせる事ができないのは当たり前だが、貴方は相手がいるだろう?もし、間違えが起こったら?少数のみしかこっちの手の者は入れられないんだ。起こったら、では遅い…」
自分の番が自分以外のαに取られる。その苦痛はαを狂気の沙汰に追いやるものだ。そんな地獄に番を落としたいのかと、だから浅慮はするなと釘を刺された。
「………………」
「セロントから連れてきた奴からの情報を待ってこちらも動くつもりだ。それでいいな?」
「後で…ここにレンを呼べ…」
「あぁ、そのつもりだ。挨拶はしたいと言っていたからな。時間を作ろう。」
「分かった…ノルー城へ向かう!」
リリーは騎士団隊服の上に騎士団のマントではなくマントと同色のフードを被るとグッと深く引き下げた。
どうのような状況にあるΩであっても助けるつもりではいるが、だからと言って番を持つΩを囮にするつもりもない。そしてリリー自分が単身乗り込むわけにも行かない……
「水面下で繋がっている事を祈るか…」
西と北、国は違えど犯罪を犯す者達にとってはそんなものは障害にもならないだろう。西側ランクース国と北側ヨメイニ国、セロント領も近接しているものだから何某か手がかりがありそうなものだ…
城まで騎士団の馬車が2人を送迎する為に白の邸宅前で待機しているはずである。普段ならば何の障害もなく既に城への道のりを移動しているはずであった…
なのに、今朝は別邸から出たところでなぜか足止めを食らう羽目になった。
「アーキン……?」
まさかと思った…けれど番の匂いや体温、聞いただけで心を揺さぶる声質も番となるべく者の全ては決して忘れるはずがないもので…
だからこそ信じ難いのだが、確かにリリーの相手であるアーキンが今リリーの目の前でジーンによって地面に押さえつけられているとは…
白の邸宅別邸を出た瞬間、直近からリリーを呼ぶ声がした。幻聴かとも思える番の声を確かめる間も無く、逞しいアーキンの両腕にリリーはスッポリと包まれてしまう。
忘れるはずもない先日直に接していた匂いに体温…直ぐにアーキンのものだと確信したが、リリーには何故アーキンがここに居るのかと疑問しか浮かんでこない。
「アーキン…」
ポツリと愛しい者の名前を呼べば、一気に心が満たされるような温かい気持ちになった…
「どうした?」
だがしかし、今は2人だけの逢瀬の時ではないだろう。アーキンは結界を張った白の邸宅に侵入してきているし、別邸前には見送りに出ているノルーやら他の侍女達やらジーンがいるからだ。明らかにアーキンの様子がおかしい事にリリーは気付く。アーキンがまだ若さ故リリーへ思いを遂げた残り火がまだその身に燻っているとしても、一介の騎士である事を忘れるほど前後不覚になる様な性格ではないと理解しているつもりであった。
だから、おかしいと思ったのだ。
「………見つからないんだ………」
アーキンは名前を呼ばれて尚更にギュッとリリーを抱きしめる腕に力をこめてくる。まるで縋り付いてくる様にも何かに怯えているかのようにも見えて、リリーには力任せに振り払う事ができそうにも無かった。
「何があった…」
少しだけ顔を動かして見えたアーキンの表情は明らかに憔悴していて目の下には隈も見える。きっと一睡もしていないだろうと思われた。遠征から帰った翌日の今日、新騎士達は非番であるはずで本来ならば
ゆっくりと自分の時間を過ごしているはずである。
「…………」
「アーキン……?」
少し体をずらし正面からちゃんと顔を見ようとした所でアーキンの身体が音も立てずに浮かび上がる。
「…!?」
そしてあっという間もなくジーンによってアーキンは地面に沈められる事になった。
「おいこら坊主。この方はまだお前のものじゃ無いだろう?っとに、番にもしてないくせに図々しいと思わんか?これだと不法侵入にΩへの暴行罪もつくぞ?」
「…………」
強引に白の邸宅敷地内に入ってくる強行手段は取るのにアーキンは意外な程大人しく押さえつけられたまま顔も上げなかった。
「アーキン…」
リリーはジーンに離すように手振りをし、アーキンには静かに声をかけた。白の邸宅に入れた事ならばリリーの匂いと気配が濃厚にアーキンに染み付いていた所為だろうと想像がつく。それよりもアーキンの様子がおかしいのが気にかかるのだった。
「メリーが見つからない……」
「メリー?」
アーキンがゼス王国王都へやってきた理由は妹のメリアンを見つけ出すことだ。
トントンとジーンは自分の首を指差す。
生きていれば世にも珍しいものは起こるようで、ジーンの言っている意味がわかったリリーはカッと赤面する。ベッドの中では肌を見せあってそれ以上だってやっているって言うのにこんなリリーの初心な反応はジーンも始めて見るものだ。
番っているならばその番の跡がΩの首筋にはっきりと残されるはずだから…色白のリリーの首筋は仄かに朱に染まってはいても傷一つなく綺麗なものだった。
「それがどうした?私には必要のないものだ。だから…」
だから、誰に縛られることもない。
「そうじゃないリリー。番を持たないΩを行かせる事ができないのは当たり前だが、貴方は相手がいるだろう?もし、間違えが起こったら?少数のみしかこっちの手の者は入れられないんだ。起こったら、では遅い…」
自分の番が自分以外のαに取られる。その苦痛はαを狂気の沙汰に追いやるものだ。そんな地獄に番を落としたいのかと、だから浅慮はするなと釘を刺された。
「………………」
「セロントから連れてきた奴からの情報を待ってこちらも動くつもりだ。それでいいな?」
「後で…ここにレンを呼べ…」
「あぁ、そのつもりだ。挨拶はしたいと言っていたからな。時間を作ろう。」
「分かった…ノルー城へ向かう!」
リリーは騎士団隊服の上に騎士団のマントではなくマントと同色のフードを被るとグッと深く引き下げた。
どうのような状況にあるΩであっても助けるつもりではいるが、だからと言って番を持つΩを囮にするつもりもない。そしてリリー自分が単身乗り込むわけにも行かない……
「水面下で繋がっている事を祈るか…」
西と北、国は違えど犯罪を犯す者達にとってはそんなものは障害にもならないだろう。西側ランクース国と北側ヨメイニ国、セロント領も近接しているものだから何某か手がかりがありそうなものだ…
城まで騎士団の馬車が2人を送迎する為に白の邸宅前で待機しているはずである。普段ならば何の障害もなく既に城への道のりを移動しているはずであった…
なのに、今朝は別邸から出たところでなぜか足止めを食らう羽目になった。
「アーキン……?」
まさかと思った…けれど番の匂いや体温、聞いただけで心を揺さぶる声質も番となるべく者の全ては決して忘れるはずがないもので…
だからこそ信じ難いのだが、確かにリリーの相手であるアーキンが今リリーの目の前でジーンによって地面に押さえつけられているとは…
白の邸宅別邸を出た瞬間、直近からリリーを呼ぶ声がした。幻聴かとも思える番の声を確かめる間も無く、逞しいアーキンの両腕にリリーはスッポリと包まれてしまう。
忘れるはずもない先日直に接していた匂いに体温…直ぐにアーキンのものだと確信したが、リリーには何故アーキンがここに居るのかと疑問しか浮かんでこない。
「アーキン…」
ポツリと愛しい者の名前を呼べば、一気に心が満たされるような温かい気持ちになった…
「どうした?」
だがしかし、今は2人だけの逢瀬の時ではないだろう。アーキンは結界を張った白の邸宅に侵入してきているし、別邸前には見送りに出ているノルーやら他の侍女達やらジーンがいるからだ。明らかにアーキンの様子がおかしい事にリリーは気付く。アーキンがまだ若さ故リリーへ思いを遂げた残り火がまだその身に燻っているとしても、一介の騎士である事を忘れるほど前後不覚になる様な性格ではないと理解しているつもりであった。
だから、おかしいと思ったのだ。
「………見つからないんだ………」
アーキンは名前を呼ばれて尚更にギュッとリリーを抱きしめる腕に力をこめてくる。まるで縋り付いてくる様にも何かに怯えているかのようにも見えて、リリーには力任せに振り払う事ができそうにも無かった。
「何があった…」
少しだけ顔を動かして見えたアーキンの表情は明らかに憔悴していて目の下には隈も見える。きっと一睡もしていないだろうと思われた。遠征から帰った翌日の今日、新騎士達は非番であるはずで本来ならば
ゆっくりと自分の時間を過ごしているはずである。
「…………」
「アーキン……?」
少し体をずらし正面からちゃんと顔を見ようとした所でアーキンの身体が音も立てずに浮かび上がる。
「…!?」
そしてあっという間もなくジーンによってアーキンは地面に沈められる事になった。
「おいこら坊主。この方はまだお前のものじゃ無いだろう?っとに、番にもしてないくせに図々しいと思わんか?これだと不法侵入にΩへの暴行罪もつくぞ?」
「…………」
強引に白の邸宅敷地内に入ってくる強行手段は取るのにアーキンは意外な程大人しく押さえつけられたまま顔も上げなかった。
「アーキン…」
リリーはジーンに離すように手振りをし、アーキンには静かに声をかけた。白の邸宅に入れた事ならばリリーの匂いと気配が濃厚にアーキンに染み付いていた所為だろうと想像がつく。それよりもアーキンの様子がおかしいのが気にかかるのだった。
「メリーが見つからない……」
「メリー?」
アーキンがゼス王国王都へやってきた理由は妹のメリアンを見つけ出すことだ。
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