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55.王の決断 2
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城から出される…王族としてここに住んではいけないという事……?
父に言おうとしていた言葉を飲み込んでリーシュレイトは絶句する。
「城外の警備し易い所といえば、離宮に当たるあそこでしょうか?」
「ええ、それがよろしいでしょうな。」
「では警備としては結界を…」
「待って下さい!」
リーシュレイトの理解が追いついて行かないうちに周囲の大人達の話は進む。
「私達は、追い出されるのですか?」
父王に側妃として認めてもらえなくても、母ミライエは父王の番である事に変わりはないはずだ。医官のルメイは言っていた。番とは自分自身の命よりも大切な半身の様な者だと。けれども母ミライエは父王からそんな扱いを受けたことなどこれっぽっちもない…煌びやかな王城で王妃の様な扱いをしてもらったことも、華やかなドレスを来て自分の好きな踊りを舞踏会で踊る事だってない、大切な番と言っても一年に一回も、それよりも今までずっと顔も見に来たことがないじゃないか!なのになんで番にしてこの城に母ミライエを留めたのか、番にする前に城から解放してくれていればあんな寂しい思いも苦しい思いもしなかったかも知れないのに!自分の命よりも大切というのならなぜ悲しい思いばかりさせるのか!
リーシュレイトの中では今までの父王に対する疑問やら行き所のない感情が渦の様にグルグルと回っている。
「愚か者!!」
ビクッ………
突然、今までに聞いた事のないような父王の怒声が執務室に響き渡る。
「其方は同じ事を繰り返すのか?」
同じこと…先日の王の間での事だろうか。
「己の身を案じ、行く末を嘆くならば自分を鍛え磨き上げる事に尽力を注ぐのだ。それがΩであろうとも其方が立つ唯一の方法だろう。皆が言うのは白の邸宅か?」
「左様です、陛下。」
「ふむ……悪くはない、な。騎士団長にでも結界を張らせておく様に。」
「心得ております。」
「公に発言し、行動したいのならばそれだけの立場を得るものだ。まだただのΩの子供に過ぎん其方にはここではその権利さえないだろう。良く覚えておく様に。」
王の言いつけは臣下ならば絶対である。異議異論があったとしても事実6歳のリーシュレイトには王の決定を覆す事など出来はしなかった。
「其方には月に一度登城を命ずる。心して精進する様に。」
こうして王家の所有白の邸宅は王の番であるミライエに下賜される事になった。離宮よりも更にこじんまりとした白の邸宅にミライエと双子の子供達は数名の侍女侍従と騎士に医官、下働きをする者達と共に速やかに王城離宮から移り住むこととなる。
忘れる筈がない……国王の番ミライエ様はこの日より医官から処方される鎮静剤が欠かせなくなったのだから…愛した者にあれだけ放置され続けていても、下々の者に優しく微笑んで下さる綺麗な笑顔は子供心にもそうそう忘れられるものではない。白の邸宅に移される事になってしまっては番から見放され捨てられたと思ってしまったとしてもしょうがないのだ。心を強く持てなどと残酷すぎて誰も言えはしなかった。
だから心を壊してしまった方が、彼の方には救いになったのかもしれないのだが………
「……陛下も絶対的にお言葉が足りないのです…」
気持ちの良い夜風を浴びながら草原を飛びつつ過去の記憶に飛んでいるノルーの密かな望みはもう一度リリーの笑顔を見ることだ。
あの日からただの一度も笑うことがなくなってしまったリリーが心から笑う事…些細な望みなのだから自分のような侍従如きが願ってもいいだろう…
「全く……」
本当に言われた通りに草原でスヤスヤと寝かされている主人の番を見つけた時にはどんな反応をすればいいと言うのか…意識が無いことが彼にとっても唯一の救いとしか言えないだろう。
「これ、本当にどう説明するんです?ご本人に……」
そっと掛け物を掛けながら、もう苦笑しか出てこない。振動を最小限に抑えつつゆっくりと浮遊魔法を行使する。
あの後、白の邸宅に移ってからリリーは貪欲に学び幼いうちから武術にも取り組んでは早々に騎士団長達を打ち負かすまでに成長し、立場の弱いΩを守るべき対魔法騎士団を結成したのだ。母と自分と同じΩが少しでも幸せを掴む為に…
静かな風に乗りアーキンに染み付いたリリーの気配が漂ってくる。こんなに濃厚に存在感を残すのならば番ってしまえば良かったのに…口惜しいことこの上無い…!
それをしない理由はあるにはあるが、そんなものはきっと今のリリーになんら問題にもならないだろうに…
「陛下も人が悪い…側から離したくないからって…」
頑なな主人の父もそれはもう頑なで…自分の身分ならば何でも自由に出来ただろうに…その頑なさが結果悲しい結末を作ってしまったと言うのに……
「陛下……私は貴方様の命令を破るかもしれません……」
誰が聞く訳でも無くノルーの独り言は静かな風にそっと運ばれて行った…
父に言おうとしていた言葉を飲み込んでリーシュレイトは絶句する。
「城外の警備し易い所といえば、離宮に当たるあそこでしょうか?」
「ええ、それがよろしいでしょうな。」
「では警備としては結界を…」
「待って下さい!」
リーシュレイトの理解が追いついて行かないうちに周囲の大人達の話は進む。
「私達は、追い出されるのですか?」
父王に側妃として認めてもらえなくても、母ミライエは父王の番である事に変わりはないはずだ。医官のルメイは言っていた。番とは自分自身の命よりも大切な半身の様な者だと。けれども母ミライエは父王からそんな扱いを受けたことなどこれっぽっちもない…煌びやかな王城で王妃の様な扱いをしてもらったことも、華やかなドレスを来て自分の好きな踊りを舞踏会で踊る事だってない、大切な番と言っても一年に一回も、それよりも今までずっと顔も見に来たことがないじゃないか!なのになんで番にしてこの城に母ミライエを留めたのか、番にする前に城から解放してくれていればあんな寂しい思いも苦しい思いもしなかったかも知れないのに!自分の命よりも大切というのならなぜ悲しい思いばかりさせるのか!
リーシュレイトの中では今までの父王に対する疑問やら行き所のない感情が渦の様にグルグルと回っている。
「愚か者!!」
ビクッ………
突然、今までに聞いた事のないような父王の怒声が執務室に響き渡る。
「其方は同じ事を繰り返すのか?」
同じこと…先日の王の間での事だろうか。
「己の身を案じ、行く末を嘆くならば自分を鍛え磨き上げる事に尽力を注ぐのだ。それがΩであろうとも其方が立つ唯一の方法だろう。皆が言うのは白の邸宅か?」
「左様です、陛下。」
「ふむ……悪くはない、な。騎士団長にでも結界を張らせておく様に。」
「心得ております。」
「公に発言し、行動したいのならばそれだけの立場を得るものだ。まだただのΩの子供に過ぎん其方にはここではその権利さえないだろう。良く覚えておく様に。」
王の言いつけは臣下ならば絶対である。異議異論があったとしても事実6歳のリーシュレイトには王の決定を覆す事など出来はしなかった。
「其方には月に一度登城を命ずる。心して精進する様に。」
こうして王家の所有白の邸宅は王の番であるミライエに下賜される事になった。離宮よりも更にこじんまりとした白の邸宅にミライエと双子の子供達は数名の侍女侍従と騎士に医官、下働きをする者達と共に速やかに王城離宮から移り住むこととなる。
忘れる筈がない……国王の番ミライエ様はこの日より医官から処方される鎮静剤が欠かせなくなったのだから…愛した者にあれだけ放置され続けていても、下々の者に優しく微笑んで下さる綺麗な笑顔は子供心にもそうそう忘れられるものではない。白の邸宅に移される事になってしまっては番から見放され捨てられたと思ってしまったとしてもしょうがないのだ。心を強く持てなどと残酷すぎて誰も言えはしなかった。
だから心を壊してしまった方が、彼の方には救いになったのかもしれないのだが………
「……陛下も絶対的にお言葉が足りないのです…」
気持ちの良い夜風を浴びながら草原を飛びつつ過去の記憶に飛んでいるノルーの密かな望みはもう一度リリーの笑顔を見ることだ。
あの日からただの一度も笑うことがなくなってしまったリリーが心から笑う事…些細な望みなのだから自分のような侍従如きが願ってもいいだろう…
「全く……」
本当に言われた通りに草原でスヤスヤと寝かされている主人の番を見つけた時にはどんな反応をすればいいと言うのか…意識が無いことが彼にとっても唯一の救いとしか言えないだろう。
「これ、本当にどう説明するんです?ご本人に……」
そっと掛け物を掛けながら、もう苦笑しか出てこない。振動を最小限に抑えつつゆっくりと浮遊魔法を行使する。
あの後、白の邸宅に移ってからリリーは貪欲に学び幼いうちから武術にも取り組んでは早々に騎士団長達を打ち負かすまでに成長し、立場の弱いΩを守るべき対魔法騎士団を結成したのだ。母と自分と同じΩが少しでも幸せを掴む為に…
静かな風に乗りアーキンに染み付いたリリーの気配が漂ってくる。こんなに濃厚に存在感を残すのならば番ってしまえば良かったのに…口惜しいことこの上無い…!
それをしない理由はあるにはあるが、そんなものはきっと今のリリーになんら問題にもならないだろうに…
「陛下も人が悪い…側から離したくないからって…」
頑なな主人の父もそれはもう頑なで…自分の身分ならば何でも自由に出来ただろうに…その頑なさが結果悲しい結末を作ってしまったと言うのに……
「陛下……私は貴方様の命令を破るかもしれません……」
誰が聞く訳でも無くノルーの独り言は静かな風にそっと運ばれて行った…
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