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54.王の決断 1

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「ルメイ・ワルストは良い師か?」

「ルメイ…ですか?」

 先日国王の命でリーシュレイトの魔力制御の手助けとなるべく送られてきたルメイ。

「はい…知らない事を教えてくれます。」

「ほう…王子殿下例えばどの様な事でしょう?」

 座っている国王の執務机の両脇にはそれぞれ2名ずつ高位貴族が姿勢よく立ちリーシュレイトを見定めるように見つめてくる。今、声を掛けたのは国王左隣にいる白髪を綺麗に整えた中肉中背の紳士だ。穏やかそうな表情に掛けている眼鏡が一層知的さを増して紳士という者を具現化した様な姿だ。

「は…い。私の魔力量のことや…」

「それと?」

「魔力の流れ方や、抑え方…」

「大事なことですね?それと?」

「私はΩなので、身体のことや気を付けなければいけない事…」

「そうです、Ωなんですよ…!」

 ワース公爵がやや乱暴な物言いでこの紳士貴族との会話に割って入ってきた。

「ワース公爵…今は私が王子殿下と話をしているのですがね?」

 穏やかそうな表情に少しだけ真剣味を増して紳士貴族はワース公爵に視線を送る。

「要はΩの能力を最大限に使える様になればいいのですよ、王子殿下。貴方にはそれだけの価値があるのだから。」

 Ωの男女しか優秀なαを産む事はできない。だからワース公爵はΩであるリーシュレイトに早く子供を産んで来い、とそう言いたいかの様な内容を口にしたのだ。

「確かに王子殿下はΩですね。でも発情期にはまだまだ程遠い。貴方様は子を残すことよりもご自分の価値を把握した方が宜しいでしょう。」

 紳士貴族はワース公爵から視線をリーシュレイトに戻すと元の穏やかな表情を見せてくれる。

 この人は好きだな…

 ワース公爵は2度しか会った事はないのに始めからリーシュレイトを攻撃する様な態度しか見せてこない。ただでさえ歓迎されてもいないだろう父王のところに来るのは緊張するのだ。ワース公爵の様にずっと攻め立てられることばかり言われたら耐えられずにこの部屋から逃げ出してしまいそうだ。

「私の価値って?」

 子を産む事以外の何かの役に立つのだろうか。

「先日王子殿下が引き起こした事は覚えていますか?」

「……はい……」

「よろしい。では、ご自分で魔力を操っていたのはわかりましたか?」

「……いいえ…」

 父会いたさにただ必死だったから…

「そうですか…王子殿下はあの時ご自分の魔力を非常に繊細に操っておいででしたよ…そう、それと不思議なことにあの場はΩのフェロモンで貴方様の香りで充満しておりました。」

「ええ、私も覚えております。」

 それまで会話に聞き入るだけで参加してこなかった高位貴族もこの件に同調の意を示す。

「まだたったの6歳なのにです。ここにいる私達は皆α性です。ですから王子殿下がフェロモンを出していた事は間違いなく断言できる。」

「私…良く、分かりません。」

「でしょうね?まだ発情期には早すぎますから。」

「それどころか、そのフェロモンで酔わせた多数のαをただαとして発情させるだけでなく貴方様は意のままに操った。非常に稀有なお力です。」

 最後の1人の高位貴族がそう付け加えた。

「私達は近衞騎士もですが、少々特殊な訓練をしておりましてね。Ωのフェロモンが溢れたくらいでは理性を失わないのです。」

 そうだ、この場にいた全員はαと言っていてもあの場では冷静に対処できていた… 
 
「ゼス国は魔力に富む国ですからね。魔力操作が得意な者ならば難しくはないのです。ま、しばらくこれを会得するまでに苦労はあるのですが…さて…」

 紳士貴族はゼス国王の執務机から離れリーシュレイトの側まで歩いてくると幼い子供と視線を合わせる為にリーシュレイトの前に跪く。

「王子殿下。私共は貴方様のお力を尊いものと見ております。陛下に次ぐ魔力量を持ち母上と同じΩであって、その魔力操作は物理的な能力まで引き上げてくるとなるとこれは如何した物でしょうね、陛下?」

「ぶつ…り?」

「あぁ、まだ少し難しかったでしょうか。あの日近衞騎士が嘆きましてね?あそこにいた者達は非常に優秀で力も技量も粒揃いだったのですが…まさか、6歳児に負けそうになるとはねぇ…?」

 穏やかな表情を保っていた紳士貴族はさも楽しそうに破顔する。

「……?」

 リーシュレイトは何がそんなに楽しいのかと小首をかしげるばかりだ。

「ふふふ…貴方様を拘束していた騎士がいたでしょう?」

「え、はい。」

「その者が言うのですよ。王子殿下の身体能力強化に自分の全力を持ってしても破られそうになりましたと。」

 あの時は必死で母に罰を与えない様に父王に頼み込むことしか頭になかった。騎士が力負けしそうになったと言っても必死で暴れた所であの騎士はビクともしなかったのに…

「…学ぶのだ。第二王子よ…」

 ビックリした…先程から高官達の話には一言も口を挟まなかったゼス国王がリーシュレイトに声をかけて来た。

「え……」

「学問然り、武術についても然り…ただのΩとして母の様に望まぬ番を持たされたく無ければ、自分の身は自分で立てるが良い…」

 望まぬ番…?それは父上の事か?あんなにも…痩せ細るほど母上は父上を番を求めているのに?

 声を出して父王にそう抗議しようとしたリーシュレイトを次の言葉が押しとどめた。

「では、出来るだけ早急に城から出された方が宜しいですな。」
 













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