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49.発現 1
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幼い頃には日常的に見ることができたリリーの幸せそうな顔。それはある日を境にピタッと見る事ができなくなってしまったものだった。その記憶に蓋をしようにもあまりにもリリーと密接に関わってきていたノルーには生涯消え去ることのできないものとなった。
まだまだ小さく甘えたい盛りに出会った自分の主人リリーは、幼い頃から見目麗しく母であるΩのミライエにそっくりな綺麗な子供であった。しかしゼス国国王の番であったミライエは他国籍のそれも興行を目的としてゼス国に入国した身分の低い踊り子で、既に有力貴族からΩの正妃を娶っていたゼス国国王の側妃としてはあまりにも後ろ盾の弱い立場であった。既にαの王子を産んでいた王妃の面子を立てるためにゼス国国王はミライエを側妃としては召し上げずミライエが亡くなるまで妾の様な扱いをしたのだ。
ゼス国国王とミライエの間には二人の双子の子供が与えられた。しかし兄として産まれたΩのリリー以外にはゼスの名を名乗る事が許されず母であるミライエの姓リヨールを名乗っている事からも国王の徹底ぶりが窺える。
ミライエの双子の子供であるリリー、リーシュレイト・リヨール・ゼスはΩでありながらゼス国王家の血を濃く受け継ぎ産まれながらにして王に次ぐ魔力の持ち主であった。それとΩであった事がゼスの名を名乗る事が許される理由となった様なもので、幼い時には母ミライエと妹サシュと共に城内離宮にて生活する事が許されており王子としての体面は最低限守られる様な形で過ごしていた。使用人は多くは無かったがリーシュレイトも妹のサシュも義兄である王太子と同じくらいの基礎教育は受けさせてもらっていた。
リーシュレイトもサシュも生活には何一つ不自由はしていなかったのだ。だが年齢が上がる度に自分の周囲の状況を把握していく事はいくら幼い子供であったとしてもそんなに難しくはない事だった。
リーシュレイトとサシュには兄がいる事、その兄は自分とは同じ宮には住んでおらずもっと立派な本城に父と共に住んでいる事を幼いリーシュレイトが知った時には無性に父と兄、この二人が恋しくなったとしても決しておかしな事ではないだろう。離宮には母と妹がいるし遊んでくれる侍従もいる。けれど自分の父をこの宮で一度たりとも見た事が無いと気がついた子供が父を求めた所で誰が責める事ができたであろうか。
ゼス国王はゼス国内で一番偉い人であり魔力量も多く常に堂々と大勢の臣下を伴って城内を歩いている。
物心ついたリーシュレイトが知る父親の姿の全てがこれに尽きた。いや、これだけしか無かった。監禁されているわけではないが正妃の目につかない様に離宮から出ることを禁じられている様な生活の中で、父がここを訪れた記憶がリーシュレイトには無いのである。侍従や侍女にあの方が父君です、と教えられなければきっとリーシュレイトは父親の名前さえ知る事ができなかったかもしれない。時折庭に出て自由に遊べる時間に少し本城まで足を伸ばして向かった先に偶然居合わせた国王一行を隠れて盗み見る様にしてやっと父の顔が知れたほどだ。じっと見つめていても父王はリーシュレイトには気がつかない。だから実際にリーシュレイトと父である王は会った事がないとも言える。
同じ家に住んでいるのに何で会えない?
政治の機微にはまだまだ疎い幼子はただただ父への愛情を募らせていく。侍女達によれば本城には兄が父と一緒に暮らしているというのだから自分だって父の所に行ってもいいのだろうと幼いリーシュレイトは母ミライエに希った。
けれどそんな時、自分にそっくりな母は酷く悲しそうな顔をして終いには両目に涙を溜めて何かを耐え忍びながらリーシュレイトをギュッと抱きしめるのだ。父の所に行って良いとも悪いとも母ミライエは結局最後まで言わなかった。母のそんな姿を見てしまえば子供心にもう聞いてはいけないものとリーシュレイトは理解してしまう。けれども心の中の渇望はなかなか消えてはくれないのだ。離宮にいても催事や式典の賑わいは聞こえてくる。兄である王太子を褒め称える話題も尽きる事はなく離宮を駆け巡る。その度毎に胸を躍らせ瞳を輝かせて父の兄の訪問を心待ちにしていたリーシュレイトの心の中には、その度毎に会えない現実を突きつけられて寂しさで一杯になってしまった。
子供は純粋だからこそ思いが強い。リーシュレイトはただ寂しかった。本当の家族なら父に母に兄弟もいるのなら皆んなで一緒に暮らすそうだ。けれどリーシュレイトにはそれが与えられない。目の前に見せられているのに自分から駆け寄ることさえも許してはもらえないのだから。
でも会いたい…会って近くでお顔を見たいしお話もしたい。リーシュレイトとサシュと自分達兄妹の名前を呼んで母が泣かない様にしてほしい。
だから、誰か連れて行って…!父上の所に!一人では行っては駄目なのならば他の大人の人と行ったのなら怒られないでしょう?
この日王城内は大混乱に陥ることになった。特殊な訓練を受けていなかった城内にいるαと言うαが一斉に離宮に押し寄せたのだから。どんな地位や身分の者も関係なく何かに取り憑かれた者の様に離宮にいるリーシュレイトに傅きその身体を抱え上げて更には本城へ押し寄せたのだから。
まだまだ小さく甘えたい盛りに出会った自分の主人リリーは、幼い頃から見目麗しく母であるΩのミライエにそっくりな綺麗な子供であった。しかしゼス国国王の番であったミライエは他国籍のそれも興行を目的としてゼス国に入国した身分の低い踊り子で、既に有力貴族からΩの正妃を娶っていたゼス国国王の側妃としてはあまりにも後ろ盾の弱い立場であった。既にαの王子を産んでいた王妃の面子を立てるためにゼス国国王はミライエを側妃としては召し上げずミライエが亡くなるまで妾の様な扱いをしたのだ。
ゼス国国王とミライエの間には二人の双子の子供が与えられた。しかし兄として産まれたΩのリリー以外にはゼスの名を名乗る事が許されず母であるミライエの姓リヨールを名乗っている事からも国王の徹底ぶりが窺える。
ミライエの双子の子供であるリリー、リーシュレイト・リヨール・ゼスはΩでありながらゼス国王家の血を濃く受け継ぎ産まれながらにして王に次ぐ魔力の持ち主であった。それとΩであった事がゼスの名を名乗る事が許される理由となった様なもので、幼い時には母ミライエと妹サシュと共に城内離宮にて生活する事が許されており王子としての体面は最低限守られる様な形で過ごしていた。使用人は多くは無かったがリーシュレイトも妹のサシュも義兄である王太子と同じくらいの基礎教育は受けさせてもらっていた。
リーシュレイトもサシュも生活には何一つ不自由はしていなかったのだ。だが年齢が上がる度に自分の周囲の状況を把握していく事はいくら幼い子供であったとしてもそんなに難しくはない事だった。
リーシュレイトとサシュには兄がいる事、その兄は自分とは同じ宮には住んでおらずもっと立派な本城に父と共に住んでいる事を幼いリーシュレイトが知った時には無性に父と兄、この二人が恋しくなったとしても決しておかしな事ではないだろう。離宮には母と妹がいるし遊んでくれる侍従もいる。けれど自分の父をこの宮で一度たりとも見た事が無いと気がついた子供が父を求めた所で誰が責める事ができたであろうか。
ゼス国王はゼス国内で一番偉い人であり魔力量も多く常に堂々と大勢の臣下を伴って城内を歩いている。
物心ついたリーシュレイトが知る父親の姿の全てがこれに尽きた。いや、これだけしか無かった。監禁されているわけではないが正妃の目につかない様に離宮から出ることを禁じられている様な生活の中で、父がここを訪れた記憶がリーシュレイトには無いのである。侍従や侍女にあの方が父君です、と教えられなければきっとリーシュレイトは父親の名前さえ知る事ができなかったかもしれない。時折庭に出て自由に遊べる時間に少し本城まで足を伸ばして向かった先に偶然居合わせた国王一行を隠れて盗み見る様にしてやっと父の顔が知れたほどだ。じっと見つめていても父王はリーシュレイトには気がつかない。だから実際にリーシュレイトと父である王は会った事がないとも言える。
同じ家に住んでいるのに何で会えない?
政治の機微にはまだまだ疎い幼子はただただ父への愛情を募らせていく。侍女達によれば本城には兄が父と一緒に暮らしているというのだから自分だって父の所に行ってもいいのだろうと幼いリーシュレイトは母ミライエに希った。
けれどそんな時、自分にそっくりな母は酷く悲しそうな顔をして終いには両目に涙を溜めて何かを耐え忍びながらリーシュレイトをギュッと抱きしめるのだ。父の所に行って良いとも悪いとも母ミライエは結局最後まで言わなかった。母のそんな姿を見てしまえば子供心にもう聞いてはいけないものとリーシュレイトは理解してしまう。けれども心の中の渇望はなかなか消えてはくれないのだ。離宮にいても催事や式典の賑わいは聞こえてくる。兄である王太子を褒め称える話題も尽きる事はなく離宮を駆け巡る。その度毎に胸を躍らせ瞳を輝かせて父の兄の訪問を心待ちにしていたリーシュレイトの心の中には、その度毎に会えない現実を突きつけられて寂しさで一杯になってしまった。
子供は純粋だからこそ思いが強い。リーシュレイトはただ寂しかった。本当の家族なら父に母に兄弟もいるのなら皆んなで一緒に暮らすそうだ。けれどリーシュレイトにはそれが与えられない。目の前に見せられているのに自分から駆け寄ることさえも許してはもらえないのだから。
でも会いたい…会って近くでお顔を見たいしお話もしたい。リーシュレイトとサシュと自分達兄妹の名前を呼んで母が泣かない様にしてほしい。
だから、誰か連れて行って…!父上の所に!一人では行っては駄目なのならば他の大人の人と行ったのなら怒られないでしょう?
この日王城内は大混乱に陥ることになった。特殊な訓練を受けていなかった城内にいるαと言うαが一斉に離宮に押し寄せたのだから。どんな地位や身分の者も関係なく何かに取り憑かれた者の様に離宮にいるリーシュレイトに傅きその身体を抱え上げて更には本城へ押し寄せたのだから。
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